第10話 『大神』さんとご挨拶

 「えっと、はじめまして。水上 小夜(みなかみ さや)といいます。この辺りに住みたいと思っているのですが、よろしいでしょうか? あっ! 後この子は、『イタテン』のさくらこさんです」


 よく見えるように持ち上げて、さくらこさんをアピールです。


 なんせこの『大神』さん、洞窟の入り口から想像した通り、一軒家並に大きいのだ。こうしないと、きっとこの可愛いさくらこさんに気が付かないだろう。


 「ふむ、珍しいな、『イタテン』とは。最近は、乱獲されて絶滅寸前になっているからな」

 

 「乱獲!? なぜに? こんなに可愛いのに酷い~」(ぐすん)


 ぎゅ~と抱きしめて、さくらこさんに顔をしゃぁ~て引っかかれてしまった。


 痛い・・・。


 「さくらこさんごめんなさい」


 「ふむ。『イタテン』に本気で謝る人間か。実に面白い」


 きょとん? どこが。


 「私だって行き成り抱きしめられて苦しかった怒るだろうし、当然私が悪いよね。それなら、初めからしなきゃいいのだけど、それは無理だから、これぐらいの痛みなど甘んじて受けましょう。そして、『ごめんなさい』で許してもらうのです」


 思いっきり力説すると、『大神』様が右手で口の前を覆いながら笑う。


 「ははは、面白い人間は嫌いではない。『イタテン』は、その毛皮が高く売れることと、その心の臓が、貴重な薬の材料ととなるから乱獲されたのだ。確か、どんな怪我もたちまちに治り、部位欠損も治してしまう薬の材料になるのだったかな? 人間は、戦を、争いを好む。よって、互いが戦の前にその薬を大量に作ろうとしたのだ」


 「なにそれ!! 酷すぎる! (怒り) ∑あっ、もしかして、さくらこさんが怪我をしていたのってそのせい? 安心して、さくらこさんは私が絶対守ってみせるわよ」


 さくらこさんを持ち上げて、目をしっかり合わせると、決意を新たにそっと抱きかかえた。


 「どうやら、本心のようだな。我の杞憂だったようだ、すまない。自分に何かあった時に薬とするために飼っているのかと思っておった」


 「酷い! そんなことするはずないでしょう。こんなにさくらこさんを愛しているのに」


 きっ!! 


 つい『大神』様を睨んでしまう。


 「我の名ウォセ・カムイだ。カムイと呼んでくれて構わぬ。それから、お主が居ると楽しいだろうから、この辺に住むのは別にかまわぬ。だが、人間は、人間の群れの中で暮らすのが普通良いというが・・・・・・・・・、お主だと人間の世界だと生きずらいかもな」


 失礼な話だけど、確かに人の世界で生きずらかった前世があるだけに、否定は出来ない。


 まあ兎に角、この辺りに住む許可は下りた。どの辺りに家を建てるかだけど、洞窟を作って洞窟の家もありかな? その方が簡単そうだし。


 後は、人がこの辺りに来ることがあるかだね。


 「人・人間はこの辺りに来ますか?」


 「昔は来ていたが、ここ最近は来ない。まあいろいろあって、我が脅しあげたからなぁ~」


 頬を、ぽりぽり掻いて、あらぬ方を向く。これは、聞いてはいけない話らしい。


 人が来ないのは助かるので、その事実だけでよい。


 「ありがとうございます。それで、後1つお願いがあるのですが・・・、」


 「ふむ、なにかな?」


 「カムイ様の体を触らせて貰えますか?」


 カムイ様の目が大きく開かれて、まじまじと見つめてくる。


 「ほぁっほほ あぁっははは」


 何もそんなに笑い転げることないでしょう。ああ、ひっくり返ったお腹を、わしゃわしゃしたい。そんな綺麗な毛並、触りたくなってもしょうがないし、全身真っ白で物凄くつやつやで、さっきから私をさそっているかのようしっぽが揺れていて、これでなんとも思わないのは可笑しい! と言い切ってあげます。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る