第9話 さくらこさんと心を通わせましょう


 歩き始めて、30分。


 魔物を避けながらなので、直線で2キロなのに随分歩いた。それでもそろそろかなってところで、漸く水の音が聞こえてきた。



ドドッ  ドドッ  どどーっ

ざぁーーーー  ざざざあーーーー



思っていたより、なにやら音が激しい。


これは、滝の音だ。もしかしたら、地下からの水が滝となって地上に現れているのかもしれない。それなら、検索した2キロ先に突然の川もなっとく出来る。


 うぅん? 腕の中を覗くと、もぞもぞと動くさくらこさん。どうやら、水の音に反応しているよう。


 うるさそうに、私の服の中に顔を突っ込んでくる。それでも、我慢が出来なくなったのか顔を上げて辺りをきょろきょろ。


あはは、くすぐったい!


つい、身をよじる。


 びくっ!!


  どうやら、目が覚めて、私に抱えられていることに気が付いたもよう。


 かちーん!って音がしそうなぐらい固まっている。


 「大丈夫だよ、さくらこさん。私はさくらこさんの味方。どんな時も一緒にいて守るから安心して」


 ゆっくり背中を撫でると、徐々にこわばりが解けていくのが分かる。


 「今ね、私たちが暮らす家を作るのに丁度いい場所を探しているの。今から行くところが、さくらこさんも気にいる所ならいいなぁ~」


 「みゅっ!」


 「そっか。さくらこさんも楽しみか。それは、良かった。私もだよ。さくらこさんが一緒だから、とっても嬉しい」(ふふふ)


 音の方に向かって行くと、木々の向こうに高さ700メートルぐらいの崖があって、その中央から水が落ちて来ていた。その音が、周りに響いて大きくなっていた。


 うん、予想通り、滝だね。


 うーん。この側だと五月蝿すぎるかな?


 それにしても、この崖は、なかなか立派だよね。見上げても、見上げても、崖が途切れない。そりゃ~真上を見れば空が見えるけどさ。気分的にね。スカイツリーより高いし。


 これだけの滝となると人が来る可能性があるかな?


 ちょっと、この辺りを探検するか。


 きょろきょろ とてとて きょろきょろ とてとて


 いい所、ないかな? いい所、ないかな?


 探しながら崖ぞいに歩いて行くと、なんか気になった。でも何が気になるのか解らなくて、立ち止まって考えてみた。


 前見て、後ろ見て、序でに右横も見た。


 そういえば、ここまで異様に歩きやすかったかな?


 なぜだろう?


 来た道を振り返って、前を見て。


 ううん? これ、崖から幅3メートルぐらい、木が生えていないよ。雑草もそんなにないし、まるで整備された道の様だ。


 これって、人の手で作られたもの!?


 『空間結界』範囲は取り敢えず5キロ、『万能鑑定』人と魔物と動物。後、この道?


 結果は、人無し。動物なし。魔物あり。道は、ずっと5キロ先まで確実に続いていることがわかった。

 

 ここでの問題は、魔物。崖の中にいるようなので、そこに洞窟がある可能性がある。


 洞窟に住んでいて、道を作るとなると、かなり知能の高い魔物であるってことで、実際鑑定で『大神(おおかみ)』と出ている。


 『大神』、これって神の字が入っているってことは、神様? 女神と違う、神様の可能性がある? でも、鑑定は魔物。

 

 「おおかみ」って、日本でも昔、「大神」と書いて神様として祭っていたところがあったっけ。それと同じで、かなり長い間生き続けて、神様として祭られるようになったのかな。

   

 そして、人がお参りに来たりするのかな?


 それだと困るな。でも、そんなに偉い方なら、この辺に住むことを許してもらうようにご挨拶した方がいいかも。


 「みゅう?」


 急に動かなくなった私に、不思議に思ったさくらこさんが、じーと見つめてくる。


 「ごめんね。ちょっと考え事をしていたの。この先に、『大神』さんが住んでいるようなの。私もこのあたりに住みたいと思っているから、ごあいさつに行こうと思っているのだけど、いいかな?」


 「みゅっ!」


 「いい? じゃあ、会いに行こうか」


 道も整っているから歩きやすいし、小1時間も歩けば着くでしょう。


 「あるこ~ あるこ~ 」なんて鼻歌を歌いながら、さくらこさんを撫でながら着いた洞窟は、割とどころかかなり大きな入口でした。どのくらいかというと、その大きさは、一戸建ての家がすっぽり入るぐらい。


 ははは、これって、『大神』さんは、このサイズでないと入れない大きさってことかしら?


 やっぱり会うの止めようかな~。こんな大きさの魔物に襲われたら、あっという間に一口でぺろりかもしれないし~~~。


 「ふむ、人の気配がするが、我に何ようか?」


 ぎゃあぁぁぁぁ! 


 「でっ! 出た!!」


 「五月蝿いぞ。我に会いに来たのではないのか?」


 大きな狼さんが、耳を両手でふさぐ様子は、可愛いのか可愛くないのかびみょうです。

 

 でもそうです。私たちあなたに会いに来たのです。そして、会話が可能なことに改めて異世界を実感。


 これなら、ご近所への引っ越しも、大丈夫かな?








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今年最後の投稿に間に合いました。

読んで頂きありがとうございます。

来年も、よろしくお願いいたします。


 

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