性Bye
俺は力を手に入れた。ゲーム世界を渡り歩き、悲しき因果に終止符を打つ救世主としての力。全ての始まりは、衝撃の現場を目撃してしまったあの日。いつものように通販で送られてきた新作エロゲの購入特典を配達員から受け取り、自室に帰ろうとしていた時だった。大切な最愛の妹の部屋のドアが微かに開いていた。普段は閉めきっているはずの楽園への扉が、外界との接触を許可していたのだ。そのまま気にせず通り過ぎることも考えたが、大事な妹が覗き被害に遭わないようにという思いが強くなり、ひとまず彼女の部屋の様子を伺うことにした。それが覚醒への第一フラグになろうとは露にも思わず…。
妹の部屋はただならぬ雰囲気に包まれていた。ベッドに乗って座り込む妹。彼女に向き合って座り、肩に手を置いて目を瞑る少年。重なり合う唇の隙間からは、二人の甘い感覚に酔いしれた喘ぎ声が漏れていた。俺は頭の中が真っ白になった。誰だあの小僧は?普段、互いに隠し事がないほどオープンで仲の良い兄妹の関係だが、恋人の存在など今まで全く聞かされたことがない。妹はあんな馬の骨をじっくり煮込んだような、不埒な見た目の男が趣味だったのか。いや、間違いなくあのクソ野郎に唆されたのだろう。あれはまだ高校生だぞ?相手もきっと同じなのだろう。大人の真似して背伸びして…接吻なんぞ十年早すぎる。震える手を握り拳に変えて、俺は堪らず部屋に飛び込み、妹を堕落させんと誘惑する悪魔の化身目掛けて鉄拳制裁を…下せるわけも無く、溢れる涙を堪えながら、静かに部屋に逃げ帰ることしかできなかった。
自分の部屋に戻り、持っていた小包をその辺に放り投げ、ベッドに倒れ込む。人生とはこれほどまでに残酷か。あの流れでは、間違いなく妹のヴァージンは盛ったケダモノに奪われてしまうだろう。妹の純潔がこうもあっさりと…。俺に力があれば…。あの絶賛発情中の馬の骨野郎を浄化して土に返す光の力があれば…。性欲を否定し、妹を正しき道に戻せる力が…。
(力が欲しいか…?)
突如、脳内に響く謎の声、辺りを見回すが誰の姿もない。
(性が憎いか…?)
もう一度、今度はよりはっきりと女性の声が聞こえてきた。
(妹を救いたいか…?)
「救いたい…救いたい!!」
声の主の正体を考える間もなく、俺は問いかけに即答していた。理不尽なこの現実を変えられるのなら、妹を純情なままの姿に戻せるのなら、悪魔の囁きだとしても俺は力を求める!
(貴様の願い、聞き届けよう。穢れた欲望を存分に否定するがよい。)
その言葉を最後に、俺は意識を失った。
次に目覚めた時には、四方八方に気持ちの悪い触手のようなものが張り巡らされた不気味な場所にいた。幸い記憶が抜け落ちているようなことはなく、自分という存在を保っていられたが、突然の場所移動に戸惑いを隠せなかった。謎の声は確か、「穢れた欲望を否定するがよい」と言っていたが…。それにしても、ここは一体どこなのだろう。天井も足場も壁も…薄桃色の生々しい肉のような触手が至る所で蠢き脈打っている。当然俺の知る世界にはこんな場所は存在するはずもなく、あっても作りものの話の中だけだろう。ひとまずここがどこなのかを知るために、危険を承知で柔らかい触手の感触を足裏に感じながら、一本道を進んでいった。
「ん?あれは…。」
数分歩いたところで足を止める。この先は行き止まりになっていたが、その突き当たりの壁に見覚えのある少女の姿があった。金色の髪を一つ縛りにした少女は、四肢を触手の壁に封じられてぐったりとしていた。着衣はボロボロに引き裂かれ、豊満な乳房は壁から伸びた肉の蔓に弄ばれている。股を擦るように下の触手も小刻みに前後していた。顔や体は全身にかけて白い液体に汚されている。ここで少女に何があったのか、一目で分かった。
「この状況、そしてあの娘の容姿…まさか!?」
触手を警戒しながら少女へと近付いていく。彼女との距離が縮まるにつれて、雄臭い独特の臭いが鼻にツンと入ってきた。少女の目の前に近付くと、彼女は小さく喘ぎながら虚ろな目を向けてきた。
「君は、姫騎士コドエナだね?」
「あ…あ、ああ…?」
自我を失っているのだろうか。無理もない。この前のシーンで散々陵辱の限りを尽くされたのだ。俺が彼女の立場でも正気を保つことは不可能だろう。
「画面越しにはオカズとして楽しめたけど、こうやって実際に現場に立ち会うと、印象ががらりと変わるもんだな。」
俺がやってきたこの場所。紛れもなく俺のPCに入っている姫騎士陵辱エロゲ「触手地獄の姫騎士」の世界そのものだった。国王の命令で「帰らずの洞窟」と呼ばれる場所に調査と行方不明者の捜索に姫騎士コドエナが向かうのだが、そこで彼女は謎の触手生物に囚われてなんやかんやされてしまう、という話だ。今は丁度、囚われて何度も陵辱され続けて、苗床に堕ちかける場面だ。この後彼女は卵を胎内に植えつけられて、壁の奥、苗床の間に取り込まれてしまう。モニター越しにゲームを楽しんでいた時は、気高き姫騎士が汚される様に興奮を覚えたが、今は不思議と彼女を救うことで頭がいっぱいだった。
「待ってろ。今助けてやるから。」
彼女を絡め取る触手に触れた瞬間、予期せぬ出来事が起こった。なんと、触れた部分を始点とし、そこら中一面に張っていた触手が全て灰燼に帰したのだ。どうやらこの洞窟は元々普通の洞窟だったようで、触手が消滅した後にはゴツゴツとした岩肌が姿を見せた。触手の消滅により束縛から解放されたコドエナは、力が入らないようでその場に倒れこんでしまう。
「おい、大丈夫か?」
彼女を起き上がらせようと、腕を掴むと、今度は彼女の破れていた衣服が全て元に戻り、姫騎士らしい凛々しい姿に戻った。体中の汚れも綺麗さっぱり消え去り、虚ろだった瞳には光が灯る。
「あれ…?私は確か…。」
「気が付いたか。よかった。」
「えっ?あの、あなたは…?」
まだ上手く力が入らないのか、起き上がれない様子のコドエナ。彼女の背中を支えながら上体を起こしてやって座る姿勢を取らせる。
「俺は太郎。実は…」
俺は包み隠さず自分がここにやってきた経緯とさっきまでのことを全て打ち明けた。初めは信じられないといった様子で聞いていたコドエナだったが、自分が触手に襲われていたことを覚えていたため、打破された現状を見て恩人である俺の言葉を信じてくれた。
「事情はよく分かりました。助けてくださり、感謝しています。それでその、お礼についてですが…。」
彼女はモジモジしながら騎士服に指をかける。これはまさか…。
「謝礼金などは後日王国に帰還してから払わせていただきます。ですが、それだけでは私の感謝の気持ちが…」
まずい。エロゲ特有の「体で謝礼」だ。ここに来る前の俺であれば、喜んで受け入れただろうが、俺がここに来たのは謎の声も言っていたように「穢れた欲望を否定すること」だ。自ら欲望を解放する真似は本末転倒でしかない。
「悪いが、さっきも言ったように、俺は君のように酷い目に遭う人たちを救わなければいけない。お誘いは嬉しいが、気持ちだけ貰っておく。」
きっとこれが、先程触手を一掃したような力の代償。全ての邪な性を否定して回るのが俺の使命なのかもしれない。
「そう…ですか。あなたは大変立派なお方です。目先の欲に惑わされず、己の信念を強く持って人々を救おうとする。私も見習わなければいけませんね。」
コドエナは衣服を正し、ようやく動けるようになったらしく、その場に立ち上がると、こちらに掌を差し出してきた。
「ではせめてもの礼として、食事でも御馳走させてください!それならば問題ないでしょう?」
画面の向こうで見ていた以上に彼女の笑顔は輝いていて可愛らしい。俺はその温かい笑顔に観念して、コドエナの手を握ろうとした。
「あれ…?」
俺の手は空を掴むだけだった。先程まで目の前にいたコドエナの姿はなくなっており、周囲も霧の立ち込める森の中に様変わりしていた。左手には赤い屋根のレンガ作りの家が建っている。この場所にも見覚えがあった。
「『霧の森のお兄ちゃん』…俺が唯一手を出した男同士の絡み物…。」
これで確信できた。俺はエロゲの世界をあちこち旅しながらそこの住人達を救っていく使命を背負ったということを。俺のPCに入っている全てのエロゲの世界を。大体800作品は入っていたと思うが…先は長いな。その果てに現実世界の妹救出が待っていると考えれば、俺は俄然やる気になった。
この世界の物語は、霧の深い森に迷い込んだ少年が、森の奥地に住む魔法使いの青年に捕まり、無理矢理あんなことやこんなことをされてしまうといったものだ。青年から逃げながら、家の中にある青年の心臓である紫水晶を探し出して壊し、森から脱出すればクリアとなる。霧が立ち込めているということは、まだ水晶は破壊されていないのだろう。ひとまずどの場面に飛んだのかを確認すべく、窓に近付き、気付かれないように家の中を覗く。十字架に磔にされた少年ターショの姿がそこにあった。ターショは目に涙を溜めて小刻みに震えて怯えていた。彼の前にはこの作品の悪役、森のお兄さんこと魔法使いのモイゲーホが中性的な綺麗な顔でニコニコしながらターショにゆっくりと近付いていく。これは、迷い込んだターショが森で捕まって家に連れてこられたばかりのシーンだろう。序盤中の序盤に飛んできたわけだ。
「おっ、お兄さんやめてよ!ぼっ、僕は食べても美味しくないよ!?」
「そうだねえ…じゃあ舐めるだけにしておこうかな。」
「ひぃっ!?」
四肢を縛り付けられて身動きの取れないターショに近付くと、モイゲーホはターショの腹を服の上から優しく撫で回しながら、可愛らしい耳に舌を這わせた。柔らかく敏感な部分に唾液を刷り込まれる度に、ターショは甘い感覚に襲われてか、無意識に嬌声を上げていた。行為がエスカレートするまでにはまだまだ時間がある。その間にあの綺麗系お兄さんの心臓を探すことも可能だが…。先程の世界での触手消滅を思い出す。もしかしたらこのままでも勝てるかもしれない。少しでも早く少年を不純な交わりから解放してやりたいという気持ちが強まり、俺は勢いよく窓を突き破って室内に乱入した。
「その子を離せ。」
「誰だい、君は?」
不測の訪問者に機嫌を損ねたようで、手を止めてこちらを向いたモイゲーホは鋭く俺を睨んだ。人に睨まれるのはバイトでミスした時によくあるので慣れていたが、男でありながら端麗な顔つきのモイゲーホに別の感情を抱きそうになる。その感情のせいで男同士の絡みながらに購入を決めたわけだが。
「僕たちの楽しい時間を邪魔しないでくれる?」
モイゲーホがこちらに向かって右手をかざすと、足元から茨の蔓が何本も延びてきて、あっという間に俺の体を絡め取る。ぎゅっとそれが体を締め上げると、茨のトゲが体にいくつも食い込んだ。
「そのままじわじわ苦しみながら死ぬといいよ。僕らの愛を特等席で見ながらね。」
「生憎、その愛の行為は何万回と見させてもらったわ!」
「え?」
思った通りだ。モイゲーホの魔法はまるで効いていない。体に食い込んだトゲは、全て透過している状態だった。当然痛みもなければ拘束による体の不自由もなかった。すり抜けるように宙を締め上げ続ける茨から出て、モイゲーホに向かって走り出す。体の自由の利く俺の姿にモイゲーホは理解が追いついていない様子で、俺の急接近に対応することができなかった。
「な、何がどうなっているんだ!?何故拘束が!?!?!?」
「冥府で一生考えてろ!!!」
さすがに惚れた相手の美顔を傷つけることができず、握り拳からの渾身の一撃をモイゲーホの腹部に叩き込む。
「がはっ!!」
モイゲーホは背後で拘束されているターショの方に吹き飛びながら一瞬で煙のように消えてなくなった。目の前の光景にターショは驚いて固まっていた。
「大丈夫か、ターショ。今解いてやる。」
「え?あっ、ど、どうも!」
ターショの前に立ち、十字架に軽く触れると、彼を拘束していた十字架も縄も全て消えてしまった。ターショは締め後が残った手首を擦り、笑顔で頭を下げた。
「おじさん、誰だか知らないけど助けてくれてありがとう!」
「おう、気にするな。帰りは一人で大丈夫だよな?」
外を見ると、先の見えない深い霧はいつの間にか何処かへ行ってしまった。温かな陽射しが緑の絨毯を照らし、花の蜜を求めて虫たちが踊っている。
「見晴らしがよくなったね!これなら大丈夫だよ!ありがとう!」
「気をつけて帰れよ。」
ターショはもう一度深くお辞儀をして、机の上の自分の荷物を取り、足早に部屋を出ていった。彼の背中を見届けている途中で世界は歪みだし、俺は次の目的地に立っていた。
桃色の空気漂う遺跡のような場所。目の前には早速救出対象が危機的状況に陥っていた。
「ここは『魔淫ダンジョン』の世界か。」
冒険者の主人公テードゥが、淫魔が蔓延るダンジョンの奥に眠る宝を探し求める作品。ダンジョンには女性型の魔物が徘徊し、戦闘に敗北ずると搾られ逆レイプでゲームオーバーになる。ということで、今まさに目の前で、優男テードゥが傷付いた体を組み伏せられて、サキュバスに衣服を剥かれそうになっていた。どうやらここはダンジョン中層で通常サキュバスの強化版であるハイサキュバスに敗北したらしい。
「んふふ、安心して快楽に身を委ねなさい。すぐに気持ち良くなるから。」
ハイサキュバスが、布越しに下半身の膨らみを指でゆっくりなぞると、誘惑に応えるように一層大きくテントを張った。テードゥは、ハァハァと疲弊とは違う荒い息を小刻みに吐く。敗北演出ということもあり、堕ちるまでが兎に角早い。ここは早急に対処せねば。
「物は試し。聖なるエッチバイバイビーム!!」
「あら?まだ人間が…きゃあああああああああああ!!!!!!」
親指を立てて人差し指と中指を互いにくっつけてピンと伸ばし、薬指と小指を畳んで、右手を銃のような形にする。ビームを出すように作った銃口をハイサキュバスに向けて突き出し、軽く前後させると、輝く金色の光が指先から迸り、ハイサキュバスの全身をとらえた。光に包まれたハイサキュバスは体を溶かして消えてなくなり、光に巻き込まれたテードゥは体の傷が回復して起き上がった。
「これは…。」
「大丈夫か、テードゥ?」
「あんたは?」
俺は旅の事情を説明し、やはり相手は信じられない様子だったが、救われたことも考えて俺の言葉を信じてくれた。
「お礼に旅に同行してやりたいが、話を聞くにそれも無理そうだな。」
「気にするな。その気持ちだけで十分だよ。それより、もう無茶をして淫魔に負けるなよ。」
「ああ、注意するよ。」
テードゥがアイテムを使って拠点に帰還するのを見送ると、俺は次の世界に旅立った。
その後、あちこち旅を続けては和姦・強姦問わず、性被害を出さないように時には悪を挫き、時には性の在り方を説き、穢れた欲望を否定し続けていった。現在も目的を達成して次の世界に移動するはずなのだが…。
「あれ?」
どういうわけか移動した先は何もない真っ暗な暗黒世界。覚えている限りでは、こんな状況の作品はなかったはずだが。
「救世の旅、順調みたいだな!」
不意に聞き覚えのある声が前方から聞こえてくる。黒い闇の中に次第に形作られる人の姿。白いローブを纏った黒い翼を持つ少女が目の前に現れた。
「その声…まさかあの時の!?」
「御名答。私はオルガズム。性欲を司る欲望の神の一柱だ。」
「性欲の神…?」
エロゲ世界をこれまで旅してきたので、欲望の神様が存在するという点については、疑う余地は無かった。しかし、別の部分に引っ掛かりを感じる。
「性欲の神が何故、性を否定する旅を後押ししてくれたんだ?自分が司るものを拒まれたのでは、色々不都合じゃないか?」
「ああ、不都合というか最高に不愉快だよ。君が妹の性の目覚めを阻止したいと願ったことも含めて、ね。」
「ならば何故俺に力をくれた!?旅をさせた!!」
「簡単な理由だ。君に他のゲームを救済させることで、考えを改めさせようと思ったのだ。やはり、性欲は悪くないものだと、ね。」
分からない、それが何故俺の意識改善に繋がるのか。首を傾げていると、オルガズムは両腕を広げて天を仰いだ。
「何かを否定する者、とりわけそれを行なわないように自制して禁欲に徹する者に対して、戒めを破らせる手っ取り早い方法は何だと思う?」
「それは…。」
「そう、その者の目の前で禁止しているものをこれ見よがしに見せ付けることだ。人間の精神は脆くて弱い。ちょっと甘い蜜の匂いを嗅がせれば、毒だと分かっていても口に運んでしまう。」
「残念だが、どうやら俺はその弱い精神を持った人間ではないらしいな。」
「ああ、私が愚かだったよ。君を人間と同等に見なしてしまったのだから。」
「…何?」
オルガズムは不気味に微笑んで、俺を嘲笑うように口を歪める。
「君は種族としては人間だろうが、その本質はプログラム。君もまた、エロゲのキャラクターの一人に過ぎないのだよ。」
「…は?」
俺がエロゲのキャラ…?嘘だ。確かに現実を過ごし、妹との甘くてちょっぴりラッキースケベな日常を送っていたはずだ。あれは紛れも無く現実。
「タイトル名『妹、攻略します。』、君は妹の心を得られず、BAD ENDに進んでしまったから、顔も知らないパッと出の脇キャラに最愛の人を奪われたのだよ。思い出してみたまえ。君の頭の中に幾度と無く分岐点はあったはずだ。」
言われてみて記憶を辿る。確かにそうだ。夏祭りで妹と二人きりになったとき、どういう言葉を掛けるべきか三択で迷った。部屋で元気がない妹の様子を覗き見て、声をかけるか否か悩んだ。クラスメートと妹の友達と海に行ったときも、休日に妹の買い物に付き添った時も、妹と一緒に夜の散歩に出掛けた時も…。
「性欲を満たす作品の登場人物が性の在り方を穢らわしいと否定する。あってはならない異常事態だと思わないかい?」
オルガズムはゆっくりと俺の前に近付き、耳元で囁く。
「乱れた姫騎士も、背徳に溺れる少年も、誘惑に屈する冒険者も…本当は間近で見ていて気持ちよかっただろう?それは君が性を受け入れる側の存在だからでもあるんだよ…。」
オルガズムは俺の耳を器用に舐めながら、丁寧に竿を撫で回す。そうか、今までの冒険は全て俺自身の異常を正すためのものだったんだな。性を拒む俺に今一度目の前で欲望を掻き立てる場面を見せ付けて。それに触れようとしても触れられず、逆の結果を招きジレンマに襲われて悶え苦しみ、再び性を求めるようにするため。なのに俺は、BADルートに入ったことも知らずに自分勝手なことを言って、エロゲとしての本質を否定して…全くバカだな。
「気持ち良いだろう?さあ、私が君の我慢してきたものを受け止めてあげるから、おいで…。」
オルガズムは誘うように腰を捻って妖艶に踊り誘いながら、ゆっくりとローブを脱いだ。熟れた乳房は弾力を見せ付けるように揺れ、先端の薄紅色の小さな実からは甘い香りが漂った。
「おいで…。」
目を細めて舌なめずりをするオルガズム。俺は右手を震わせながらゆっくりと彼女に手を伸ばしていき…。
「良い子だ…。」
「…いいや、俺は馬鹿野郎だ。」
「えっ?」
伸ばした手を力いっぱい握り締め、女神の腹部に一撃をお見舞いする。オルガズムは不意打ちを受けて後方に吹き飛ぶが、羽を動かして勢いを殺し、すぐに体勢を整えた。
「貴様…!」
「自分がプログラムの中の一部、それもバグに近い存在だというのはなんとなく分かった。そう、つまり俺はあってはならない存在。ヒーロー作品で言えば、悪い奴だ。」
全てを吹っ切ったように自信に満ちた表情を向けて、オルガズムのほうに拳を突き出す。
「ならばやることは簡単だ!エロゲにおいて正義の味方である女神様の気に入らないことをする!それが悪役としての務めだろ?」
「ふざけたことを…!」
「確かに自分が遊んだゲーム…ゲームの中のゲーム世界を巡っていって、実際に間近で見た展開に興奮はした。だが、生々しい俺にとっての現実のような光景を目の当たりにして、考えが改まった。誰かの欲望のためだとしても、誰かを傷つけるようなことをしてはいけないと!性欲のために、誰かに悲惨な末路を歩ませてはいけないと!!」
腹を擦りながら殺意の込もった睨みを向けてくるオルガズム。俺の言葉を受け入れられないといった様子で怒りを露わにした。
「偽善じみたことを言うな!!そんなつまらない理由で、これからも世界を救っていこうというのか!?馬鹿げている!」
オルガズムは一度深呼吸をして気を落ち着かせ、再び鋭い眼光を向けてきた。
「そもそも、貴様が救ってきたと思っている世界だが、完全にはまだ救いきれていない。」
「どういうことだ?」
「考えてみろ。貴様が旅してきたのは全てエロゲ。性欲を満たすために作られた世界たちだ。貴様が救ったのは基本ワンシーンだけだが、物語の黒幕たる元凶を滅ぼした作品もあった。百歩譲ってそれによって主人公達の貞操が救われたとしよう。だが、それは主人公のみを救っただけのことであって、正確には世界を救ったわけではない。」
「元凶が滅べば全てが大団円になるはずでは?」
「貴様の現実でプレイしたエロゲのことを思い出して見ろ。犯されていたのは主人公キャラだけか?」
「まさか…。」
姫騎士が事件のために動くきっかけ、霧の森に伝わる噂の始まり、淫魔が巣食うダンジョンの存在を見つけた人物…。
「そう、サブキャラや無名のモブでさえ性の犠牲になり得る。つまりエロゲの世界に生まれた以上は、誰かしらがなんらかの犠牲になる運命にあるのだよ。その全てを救うことは不可能だ。誰かを救えても別の誰かが汚される…アダルトコンテンツとして生まれた作品の宿命だ!」
随分と身勝手な宿命もあったものだ。生まれながらに確定したこと?だったら…。
「だったら、全てをアダルトコンテンツから解放して、健全な全年齢対象作品に移行させてやる!!」
「馬鹿な!一プログラムの分際で、そんな根幹を揺るがすことをできるはずがあるまい!」
「やってみないとわからねえだろ!こうして性の女神に抗うことだってできている!可能性は0ではない!!」
「そうです!希望がある限り、諦めてはいけません!!」
「何!?」
後方から懐かしい声が聞こえる。振り向くと、そこにはこれまで巡ってきた物語の主人公達が立っていた。どうやら俺と関わったことで、彼らのプログラムも狂い始めたらしい。
「私はあなたの勇気に賛同します!共に戦いましょう!」
「姫騎士コドエナ!」
「僕じゃ頼りないかもしれないけど、それでもおじさんに手を貸すよ!」
「迷い少年ターショ!」
「やっとあんたに借りを返せる時が来たな!」
「冒険者テードゥ!」
「性を強要する悪しき邪神よ、聖なる祝福を受けて深淵へと還りなさい!」
「シスターチビッツ!」
「僕だって、エッチな気持ちに負けずに愛を勝ち取る!」
「女子高入りした男の娘、野高 音子!」
「魔法攻撃なら任せなさい!!」
「魔法少女カマドちゃん!」
「べっ、別にあんたのために来てやったんじゃないんだからねっ!」
「ツンデレJK、摘出 麗ちゃん!」
「みゅー!みゅみゅー!!」
「ウサ耳猫のモケ!」
「Go to Eden !」
「洋エロゲーの天使、TIP!」
「バナナの皮は~皮バナナ~♪」
「誰このゴリラ?」
集った仲間たち(ゴリラを除く)は俺に向けて手をかざすと、彼らの指先から(ゴリラ飽きてどっか行っちゃった)優しい輝きが放たれ、俺の体に流れ込んできた。光の作用か、体の奥底から不思議と力が込み上げてきて、俺の体は膨張していく。気付けば、俺は虹色に輝く巨大なドラゴンへと変貌していた。改めてオルガズムに向き直ると、彼女は焦りを隠せないように酷く狼狽していた。
「おのれ…!格なる上は!!」
オルガズムが両手を上空に上げると、黒い靄が彼女の体を包み込み、見る見るうちに巨大な影が現れる。靄を全て吸収したオルガズムは、巨大な漆黒のデーモンへと変貌を遂げた。向かい合う二体の巨獣。互いに譲れないものがここにある。
「全ての世界を…」
「全ての性欲を…」
「 「 解放する!! 」 」
性欲と純潔。二つの信念が今、激しくぶつかり合う!!
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