自由にメーカー
最近話題の、ゲーム世界に意識を飛ばしてプレイヤーキャラになりきって仮想世界を旅するゲーム。最初に登場した異世界RPGを皮切りに、様々な作品が発表され続けている。初めのうちは目新しさと斬新なシステムで出るもの全て魅力的に感じてはいたが、後続作品は大抵人気作に倣って作られる場合が多く、次第に似たり寄ったりのものが増えていき、プレイヤー側としては食傷気味になっている。
今日もまた、いつものようにゲーム販売サイトにアクセスし、お眼鏡に適いそうな作品を探していく。ヒット作の衣にしがみ付く模倣作品を弾きながら、心躍る名作を探していると、気になる作品が一つ目に留まった。
「自分でゲームを作れるゲームか。」
昔2Dで格闘ゲームのキャラを作るゲームなら遊んだことがあるが、あれは用意された数種のパーツを組み合わせてキャラや必殺技を作るぐらいしかできなくて、自由度は高いとも言えなかったな。と言っても、俺に描画の才能があるわけではないから自分で描くことはできないんだけどな。「自由にメーカー」と名付けられた作品の説明文に目を通す。どうやらこの作品では、一旦何もない空間に入り込み、プレイヤーがその虚無空間に物語やゲーム性を付加していくといったもののようだ。取り分け気になった一文に目を奪われる。
「『このゲームでは、中に入って頭で想像するだけで、その通りのものが作れます!』か。脳内のアイディアをそのまま具現化できるとか、もし本当なら技術の革新は目覚しいものだなぁ。」
紹介文の末尾には、この作品で作られたゲームは販売可能とも書いてあり、実際にユーザーが販売していると思われる作品が、関連作品の欄に載っていた。
「人の作品を見つけて遊ぶのにも飽きてきたし、気分転換に丁度いいかな。上手く作れば小遣い稼ぎにもなりそうだし。」
購入を決めて、買い物籠ボタンを押そうとして一度手を止める。値段は0円、フリーゲームだったようだ。ただより安いものはないが、果たしてゲームとしてちゃんとできているのだろうか。不安はあるが、経験上金を払ってもいいレベルの良作の可能性も十分に考えられる。
「まあ、ただなら試す価値はあるか。」
買い物籠ボタンを押して、会計へと進み、ソフトのダウンロードが始まる。数分の間、傍らに置いておいた小説を手に取り、時間を潰した。
ゴーグルのような専用機器を装着し、落ちないようにベッドの上に横になる。マウスを操作して、落とした「自由にメーカー」を立ち上げると、いつものように意識が遠のいていった。と思えばすぐにゲーム世界で目を覚ます。他のゲームとの互換性があるようで、別のゲームで作ったキャラをプレイヤーキャラとして使用できた。四方八方を見回すと、説明文にあったように真っ白な無の空間がそこにあるだけ。ここから自分が神様となって世界を創造していくわけだ。腕を見る動作をしてメニューを表示する。一応サンプルデータは付属されているらしい。メニューの右上には容量が設定されている。後に製品版を発表して、更に容量を増やしたりシステムを追加したりするのだろうか。いずれにせよ、作ってみないとわからないが、多分この容量数なら結構やりたいことができそうだ。
「さて、まずは…。」
腕確認の仕草を解除してメニュー画面を閉じる。説明によれば、確か想像したものをその通りに反映してくれるんだったな。ひとまず何か音楽が欲しい。無音の状態でひたすら作業するのも寂しいものだ。右手の人差し指を立てて頭の上にその手を置くのがイメージ出力操作。頭の中で自分好みの音楽を奏でてみる。
「おお!」
頭の中で演奏を始めた途端、その通りの曲が虚無世界に響き渡った。なんとも都合がいいことに、この出力システム、ある一つのことに集中していれば、それ以外の脳内イメージは反映されないらしい。例えば、音楽を出力する際に、脳内でPVのような映像が伴ってしまうことがよくあるが、ゲーム上に反映されるのはちゃんと音楽だけである。また、そのPVも含めて反映したいと思えば、その通りに音楽と映像をゲームに出力してくれるので使い勝手は非常によかった。この充実した機能で無料なのだから儲けものである。
「創作意欲が湧いてくるな、これ。俺の中の面白いがそのまま人に伝えられるわ。」
思わぬ名作に心が躍り、俺は時間も忘れてゲーム製作に没頭した。
コツを掴むと作業は円滑に進むもので、ゲームを始めて早5時間。中編のRPG作品が完成した。物語は、魔王に攫われた姫を勇者が助けに行くというオーソドックスなものだが、ゲームとしては一筋縄ではいかない高難易度の戦闘、旅の途中で攻略の助けになるレアアイテムを貰えるサブクエストの充実など、やり応えのある内容にした。素人作品にしては良くできたのではないかと自負している。販売するかどうかは別として、公開すれば、興味を持って遊んでくれる人は少なからずいるだろう。メニュー画面を開き、容量を確認する。サブクエストやイベントをふんだんに盛り込んだおかげで、本筋はそこそこの長さのままに、容量は限界寸前となっていた。せいぜい作れて後1イベントだけだろうか。最強装備も隠しキャラも裏ボスも実装したし、BGM鑑賞モードでも付けておくか。出力のポーズを取り、初めの町の主人公の家にBGM鑑賞のできるスピーカーを設置する。設定も十分に整えたところで突然、世界が赤く点滅してブオンブオンと警報のような音が鳴り続けた。
「何だ!?」
慌ててメニューを開くと、容量は限界値に達していて、文字が赤く表示されていた。また、サンプルデータの引用などの項目は何故か消えていて、代わりに「GAME OVER」の文字が赤く点滅している。
「あっ、限界容量になるとゲームの終了を知らせてくれるのか。でも、手直しとかもできるだろうし、終了っておかしいような…。」
不思議に思いながら、ゲームを終了しようとセーブ動作をした瞬間、視界は暗闇に支配された。
「またひたすらダンジョンに潜る系…いい加減うんざり。」
週に一回のゲーム探しの時間。それが私の最近の楽しみ。だのに、一つ人気作が出ると、その恩恵に肖ろうと量産劣化が次々と生み出されていく。もう目に映すのも嫌になるくらいうんざり。私がもし作り手だったら、誰もプレイしたことのない未知のゲームを作って世のゲーマー達にあっと言わせてやるのにな。画面をスクロールしたりページを切り替えたりして最新のゲームをチェックしていく。
「お?」
ふと手を止めたとある作品。「自由にメーカー」という名前に惹かれ、紹介ページに飛ぶ。
「頭の中で想像した通りのものをそのまま反映できるって…胡散臭いなぁ。」
値段は0円のフリーゲーム。でもVR系のセルフ創作作品には出会ったことがないので興味は大いにある。
「これで作ったものを販売することもできるんだ。えっと関連にユーザー作品が…ぶっ!魔王に攫われた姫を勇者が救うってベタ過ぎ!!でもこんなのでも購入者はいるんだね。500円でワンコインだし、手が出し易いのかな。」
王道展開でもお小遣い稼ぎ程度には収入があるのなら、私の頭の中の神作品を作れば、大ヒットを記録して、最終的に世界一の企業として君臨するのも夢じゃない。
「…は言い過ぎだけど、この人みたいに新しいゲームを買う小遣い程度には稼げそうだね。」
いい退屈しのぎにもなるし、自分のクリエイターとしての腕前も試せる。何よりタダだから失敗した時の損失がほとんどない。
「名ゲームクリエイター誕生の瞬間だ!」
私は迷わず買い物籠に「自由にメーカー」を入れて、足早にダウンロード画面へと進んだ。
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