夏休み1日目
僕は、夏休みが嫌いだ。
学生にとって歓迎すべきはずの長期休暇が、僕には歓迎できない。この期間はいつも僕を憂鬱にさせる。思い出したくもないことを否応なく思い出させるからだ。毎年こんな思いをするくらいなら、早く社会人になりたいとずっと思っている。
小学生の頃、両親が離婚した。
夏休みの最終日、カレーライスを食べ終わった僕に――母は告げた。
食事の後、適当に片付けようと思っていた読書感想文は名前だけ書いて提出した。普段は明るく話し好きの父が、その時ばかりは下を向いて押し黙っていた。元気なく俯いた父の姿が脳裏に焼き付いて、宿題が全く手につかなくなってしまった。
――あれから七年が経ち、大学生になった今でも夏休みの宿題は手につかない。宿題のことを忘れるために毎年バイトに明け暮れてきた。少しでも母と顔を合わせる時間を減らしたいという思いもあった。
毎年代わり映えのしない陰鬱な夏休みを過ごしていることに嫌気がさした僕は、一念発起して休みに入る二週間前に家を出た。一人暮らしなら、必然的に無茶なシフトを組む必要もなくなるし、友人達と遊んで過ごせるはず、という読みがあった。
優柔不断な僕ではあるが、こうと決めたら行動は早い。確かに引っ越しを決めてからの行動は早かったが、引っ越しより先に確認することがあったのだ。
友人達は僕のいきなりの行動に驚いていたが、すでに帰省の予定を立ててしまっていた。少しでも費用を抑えるためにひと月前には飛行機を予約していたという話を聞いて、自分の行動が遅かったことを知った。夏休み前日の飲み会で、肩を落とした僕に、少し早く戻ってくるからその時に遊ぼう、と言い残して彼らは帰っていった。
読みを外し、いきなり暇になってしまった僕は、とりあえず一週間は遊びたいし、ゆっくりしたいとバイトを入れなかったことを心底後悔した。
こうして僕の夏休みは始まった。物事には偶然のように見えても、別の方向から見れば必然であるということがあるが、この年の夏休みもきっとそうだったのだろう。
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