エピローグ

 改めて知ると事態は空湖の予想していた通りだった。

 事件の後には新聞に学校名、個人名は伏せられていたが薬物の乱用で生徒が死亡した事が報じられていたし、学校でも道徳の時間に「危険な物があるから、よく分からない物をむやみに口に入れない」指導が徹底された。

 でも、あの三人の事件との関わりについては触れられなかった。


 僕の父も事件の事は知らされていた。

 僕の予想を話し、ヘタに詮索するより本当の事を教えてもらった方がいいのではないかと話すと「そこまで分かってるのなら」と誰にも言わない約束で全て教えてくれた。

 大方、僕と空湖が予想していた通りだった。校務員のおじさんは趣味で脱法ハーブを吸っていて、それを三人に見られたために与えるようになったのだそうだ。

 ただその薬物一つ一つに違法性は無く、結局はあの三人が勝手に組み合わせて無茶な使い方をしただけで、校務員を殺人や致死罪に問う事は難しいらしい。保護責任者遺棄罪などは適用されるが親達の納得のいく物には程遠い。

 管理責任で自主退職はしたが、親御さん達はその責任を問うてこれから長い裁判になるんだろうと教えてくれた。

 学校側も、はっきりと罪に問われない問題を子供にどう説明したらいいものかと未だ悩んでいるらしい。


 空湖に罪を着せる為の小細工についてはさすがに触れられていないようだ。本当に空湖に罪を着せようとしたのかどうかは、結局の所分からない。そればっかりは校務員も認めるはずはないだろうし。

 全て話し終えると「お前はしっかりしてるな」と感心したように頭を撫でられた。


 ちなみに空湖のお母さんには知らされていないそうで、僕が空湖に聞いた話を伝える事になる。誰にも言わない約束だったけど、半分以上は空湖のおかげなんだからいいよね。



 でも、やっぱり釈然としない物はある。

 結局、児童の間では未だに空湖は人殺しなのだ。特に下級生などは無遠慮に、意味もよく分からないくせに空湖を指して人殺しだと言っている。

 実際、真相が全く漏れていないなんて事はないんだろう。だけど子供にとっては難しい薬物の話よりも、分かりやすい宇宙人殺人事件の方が通りがいいのだ。

 だから地球は平和なんだと満足そうに笑う空湖に苛立ちを覚えながらも、僕も大した違いはなかったのではないかと思う。


 警察からしてみれば、死体はあんな形に倒れないのだから誰かが動かしたに決まってる。現場の管理者に話を聞き、様子がおかしい事を少しつつけばあっさり自供、の簡単な事件だったはずだ。

 それをミステリアスに、面白おかしい事件にならないかと期待して、偏見の目で見ようとしていたのだ。


 それは他の人達の、空湖に対する目と同じではないのか。



「おはようコウ君」

 おはようと返しながら、少なくとも僕は空湖と友達でいていいのではないかと思う。


「でも、なんで『コウ君』なわけ? 確かに孝はコウって読むけど」

「三文字呼びにくいから、二文字にして」

 そんな勝手な……。とも思うが、このマイペースさが空湖のいい所なんだろうな。


 僕は、僕だけは空湖に普通に接しよう。

 一緒になっていじめられる事になるかもしれないけれど、空湖のように堂々としていればいい。

 決して、大きくなる前に唾をつけておこうという魂胆ではない。僕は人として……、

「ぎゃっ!!」

 いたたた、と何が起こったのか分からずに顔を起こす。

「何やってんの? コウ君」

 足元を見ると……、落とし穴に落ちたのか。足がはまって躓く程度の大きさだけど、それに足を取られたのだ。

 手足にできた擦り傷をさすりながら、覗き込む空湖を見上げると同じような所に擦り傷がある。

「地球人は通るべからずって書いてあるでしょう?」

 空湖が指す方の地面には確かに書いてある。もしかして、空湖専用の落とし穴?

 ドジな地球人ねぇ、と笑いながら歩いて行く空湖の背中に向かって、

「地球人も宇宙人から見れば宇宙人だよ、空ちゃん」

 驚いた顔で振り向く空湖は、にかっと笑った。


 起き上がって歩き出し、宇宙子の隣に並んで一緒に歩き出した。

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