真相は闇の中

 帰り道、空湖に考えを話してみる。

「辞めてった校務員のおじさんが犯人なの? 逮捕されたのかな」

「それならもっと大騒ぎになってるでしょうね」

「じゃあ、やっぱりあれは……事故?」

「警察の対応見ればそうでしょ。私との仲を嫉妬してクラスの男子が殺したなら、もっと簡単に解決してるでしょうしね」

 と言って流し目で僕を見る。どこまで本気なのか分からない。

 皆は小さい頃から見ているから気がつかないんだろうけど、空湖はきっと大人になったら凄い美人になる。

「どうしたのコウ君?」

「うわっ!」

 ぼんやりしていると空湖が顔を近づけていた。

「あ、いや。結局……三人はどうして死んだんだろうね。毒物っぽいけど、どうしてそんな事になったんだろうね」

 あたふたと手を振って取り繕うように適当な事を聞く。

「コウ君なら、ああいう所に入って何をする?」

「旧校舎に? そりゃ……」

「そうよね。エロ本隠すよね」

「そんな事言ってないよ」

「要するに、悪い事してたのよ。悪戯っ子だったしね」

「そこで毒を調合してたの? ……間違って自分で食べないでしょ」

「そう? お酒も毒。アルコール消毒薬って、要するにバイキン殺す毒なのよ? タバコも毒。すすんで毒吸う人なんていっぱいいるよ」


「もしかして……ハーブ?」

「ロウソクあったしね」

 そうか、三人の配置のせいで儀式の小道具だと思ってた。

「でもキノコもあったんじゃないかな。マジックマッシュルームみたいな、毒キノコが」

 そうか。……それが神経毒。

「でも連中、そんなものどこから用意したんだろう? いくらなんでもあんな子供が買えるとは思えない」

 こう言っては何だけどこの町はインターネットもあまり普及していない。空湖もそうだが携帯を持っている子供もいない。

「そ、だから手を貸してる大人がいた」

「それが、校務員のおじさん?」

 空湖は否定も肯定もしない。

 悪戯っぽい流し目を向けるだけだけど、僕の中では全て繋がった。

 売っていたのか分け与えたのかは分からないが、ネットで手に入れたハーブやキノコを試す場所と一緒に三人に貸し与えたのだ。

 だけど使い方も加減も知らない連中は、無茶苦茶な調合で過剰摂取した為にあんな死に方をしてしまった。

 目を離した隙の出来事だったのか、戻ってきた校務員は自分との関係がばれるのを恐れて部屋を片付け、あんな小細工をしたのだ。

 たまたま近くにいた空湖を巻き込んで……。校務員も空湖の事は知っていたろう。近くにいなくてもそうしたかもしれない。そしてもっと大勢に見られて大騒ぎになって混乱したかもしれない。

 そしてその間に残った薬物を焼却炉で処分した。

「なんてひどい……」

「証拠があるわけじゃないよコウ君」

 確かにまだ想像の域を出ていない。探せば穴があるかもしれない。

「でも校務員さんが関係してたとして、どうして鍵を閉めていかなかったのかな。窓も割っていたんだ。そうすれば、あいつらが勝手に入ったって事になったかもしれないのに」

 空湖は大袈裟に驚いた顔をする。

「へええ、コウ君って頭いいんだねぇ」

 空湖は本当に褒めているつもりなのかもしれないが、さすがに少しムッとしてしまう。

「旧校舎に行った時、何か匂いした?」

「いいや、……あ! 換気? ハーブの匂いを消すために?」

「計画的なものじゃないから、そこまで計算したのかは分からないけどね。それに閉めて行った所で管理者である以上いずれバレるわよ。警察もバカじゃないんだし」

「でも、それならわざわざ知らせずに、遺体も触らずに置いとけばよかったんじゃないかな。鍵もかけたままで匂いも抜けて、痕跡も劣化して、死亡推定時刻だって広がるし」

 空湖はきょとんとした顔になった。

「コウ君恐い事言うのね」

「え? そ、そう?」

「仮にも自分の学校の生徒で、小さい頃から知ってる子なんだよ。そんな子を白骨化するまで放っておける? 自分の職場のすぐ横で」

「いや。そ、そうだね」

 僕はよく知らない連中だったけど、空湖達にとっては幼馴染なんだ。確かに、ちょっと推理ドラマの見すぎだったかな。

「それでも……それなら、すぐに救急車を呼ぶべきだったんだと思う。助かりそうになくっても」

「そうね、それは正しいわ。すぐに先生が呼んだとは言え、もう数分早ければ事態は変わったかもしれない」

 僕も現場は見たんだ。その可能性は薄いのかな、と思う。死体なんて見たのは初めてだったけど生きていないモノ、生気のないモノはマネキンと同じだった。

 それは何かすれば生き返るとは思えない。動物的な本能で、それがもう生物でない事が分かったような、そんな気がしたのだ。

「でも、どうして生徒に隠したんだろう。同じように分けてもらっている子が他にもいるかもしれないのに。それに、同じ事しないように防止する意味でも」

「マネするなと言ってしなくなるなら教育はもっと楽になるでしょうね。多分、教師はどうするべきかで随分揉めてるんじゃないかしら」

 そうか、なんだかんだ言ってまだ日が浅い。事件の全貌も分かっていないかもしれないし、校務員の身柄も押さえているなら他に与えた生徒がいるかどうかはすぐ分かる。生徒に飛び火していないという事はいないのだろう。

 それならあの変な健康診断の意味も分かる。具合の悪い生徒がいないかのチェックもあったろうが実際は逆で、うるさい保護者を納得させるために実施したのだろう。

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