仮説
いたたたと眼鏡をかけ直し、痛む頭を押さえながらまだ痺れている体の調子を確かめるように動かす。
体に電流を流されたのか。それで仰向けに倒れて頭を打ったんだ。
「枕の位置、ちょっと計算ズレたね」
適当に置いてたじゃないか、と心の中で文句を言いながら彼女が渡す携帯の画面を見る。
「わーっ」
と叫んでひったくる。そこには白目を剥いて倒れる僕が写っていた。写真を進めると全身、顔のアップ、そして……、
「わーっ、何だよこれ!」
次はズボンを下ろした僕をバックにピースサインをしながら自分撮りした空湖が写っていた。
「地球の子って、こういうシチュエーションでやらない?」
いや、そりゃやるかもしれないけど。
「女の子はやらないよ、普通」
「でも、『そういう状況』出来たじゃない」
確かにそうだ。現場の状況に似ている。
「じゃあ、あの三人は……、感電死したって言うの?」
空湖はふふんと思わせぶりな目をして笑う。人を小馬鹿にした顔というんだろうが、僕には半開きの目が流し目のように妙に色っぽく見える時がある。
「あの校舎に電源は来ていないし、落雷なんてなかったしね」
「じゃあ一体どうやって」
「これはコウ君があり得ないって言うから証明しただけよ。感電するとどうしてこうなるんだと思う?」
「え? えーと、痺れるから? 筋肉に過剰に電流が流れるからだよね。神経を通ってるのは結局弱い電流だから」
「そうよね。じゃあ電流以外に同じ現象を起こそうとしたら?」
「電気を流さずに神経に過剰な電流、信号を? 神経に作用する様な……? あっ、そうか。毒!」
フグやヘビ、ハチの毒は神経毒と呼ばれていて、麻痺や痙攣なんかを起こすんだ。
「でもヘビに咬まれたり、ハチに刺されたりしたのかな。三人同時に?」
「あり得ないとは言い切れないけどね。写真から外傷までは分からないし。害虫なら、すぐに注意喚起されるはず。それに、それだけじゃ……ね」
そうだ。あの姿勢で倒れていた事の説明がつかない。あんな、何かの儀式のような。
「やっぱり……、他に誰かいたって事?」
空湖はにたぁと笑う。
そうなのだ、本当は僕も分かっていた。ガラスが割られたと言った時に、十分考えられる事だった。それをどこかでもっとミステリアスな話にならないかと勝手に期待している自分がいたのだ。
空湖はそれを見透かしてこんな笑い方をしているんだろう。「これだから男の子は」とか思っているんだろうか。
「でも……、動機が分からないよ! こんな風に死体を並べる意味が分からない」
え? と今度は心底驚いた顔をして、
「それはコウ君が教えてくれたんじゃない」
「え? 僕が?」
でも、それは……。それって、そんな事って……。
「き、君のせいにするために?」
人死にの罪を、こんな女の子に着せる為に!? 信じられない。
でも、それなら辻褄は合う。毒物による事故であの三人が死んでしまって、それでたまたま校庭にいた空湖を見つけて、宇宙人か何かの仕業のように見せて、ガラスを割って注意を引いた。他にも生徒はいたからウワサも広まった。担任の先生ですら一時は空湖を疑っていたのだ。
「許せないよ。それがホントなら、空湖ちゃんは何とも思わないの!?」
「どうして? 警察がちゃんと解決してくれたでしょ」
でも、ちゃんと発表されてないから、未だ空湖は人殺し呼ばわりなんだ。
「一体誰が……」
「考えられる可能性はいくつかあるけど。もう一度現場を見てみたらどうかしら?」
そうだ。こういう時の鉄則その二、『現場に戻れ』。
早速学校に戻ってみよう。生徒も少なくなって調べやすいだろう。
空湖は怪しげな機械を押し入れにしまう。
こんな女の子が間違っても人を死なせるわけないじゃないか。絶対、真相をはっきりさせよう。
……まだ体がおかしい、と手足を振ってみる。かなり強い電流を流されたようだ。
「安全な電流の強さってどうやって計算したの?」
空湖は押し入れに向かったまましばらく沈黙していたが、振り返ると笑顔を向けて、
「そうだねー。よかったぁ、死ななくて」
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