真実の探求

「でも、一体あれは何だったんだろうね」

 帰り道、済し崩しに一緒に帰る事になってしまったので話しかけてみる。

「あの三人の事? 気になるの?」

「そりゃ、気になるよ」

「先生達が食中毒だって言ってたじゃない」

「ホントかな」

「まっさかー。そんなの生徒達を納得させるための方便に決まってるじゃない。親達には本当の事をちゃんと話してるわよ」

 先程までと一変した振舞いに、どこまでが本気なのかと戸惑う。

「やっぱり信じてないんじゃないか。……そうなんだよ、誰も信じてないんだ。やっぱり真相が気になるよ」

「気にしてどうするの? そんなのは警察のやる事でしょ? 私達は生徒なんだから、その方便をちゃんと受け入れて、詮索しないようにしないとダメでしょう?」

 変に聞き分けがいい所もあるんだな。空湖はもっと疑って詮索して、問題を大きくするタイプかと思った。

「だって……」

 これは言ってしまっていいものかどうか悩んけど……、

「だって、みんな君がやったと思ってるんだよ。みんな君を人殺しだとウワサしているんだ」

 空湖の態度に少し腹を立てて大きな声を出してしまった。

 空湖は少し驚いた顔をしたが、すぐにニカッと笑って言った。

「なら好都合じゃない。食中毒は信じなかったけど、私のせいだって思ってるなら本当の事は無事隠されるんでしょ?」

「そ、それは、そうだけど。君はいいの? 人殺しだって言われてるんだよ!」

「その人達は私を警察に突き出すのかしら? 警察は私を逮捕するのかしら?」

「いや、そんな事にはならないと思うけど……、風評被害って言うの? それもバカにできないって言うじゃない」

「その人達は私がどうやって殺したって言ってるの?」

「いや、多分、根拠は無いと思うけど」

「そうでしょ? すぐ忘れるわ。大人になって思い出しても恥ずかしい思い出よ」

「先生だって、明らかに君を疑って……」

「あの人かわいいトコあるでしょ」

 と言ってケラケラと笑う。なんか調子狂うな……。


 違うんだ。そうじゃないんだよ。

 だからなんだ、だからそこハッキリさせておくべきなんだ。彼らは本当に人殺しだなんて思っていない。この事件の事はすぐに忘れても、重要なのは常に空湖をそういう人間に仕立てておく事、そういうイメージを植え付けておく事なんだ。何か都合悪い事が起こった時に、簡単に責任を押し付けられる役がほしいだけなんだ。

 僕がもう少し経験を積んだ大人になっていれば、そういう事も言えたのだろう。でもまだ僕はそういうもやもやした釈然としない物を感じる事は出来ても、それを言葉にして伝える事は出来なかった。

 でも、やはりこのままじゃいけない。空湖に汚名を着せたままにしておいていいはずはない。空湖は頭のいい、憎む事を知らない優しいだけの子じゃないか。


「僕は真相を知りたい。実は僕、探偵物とか大好きで。こういう事件は納得できないと嫌なんだよ」

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