宇宙人と地球人

「でも、どうして宇宙人なの?」

 学校へと向かいながら気になったので聞いてみる。さっきの言い回しから、空湖が自分で宇宙人だと言っているのは本当のようだ。

 だけど空湖は目を見開いて心底不思議そうな顔をした。

「変な事聞くのね?」

「変な事?」

 そりゃ、普通の人に聞いたら変な事だけど、宇宙人だと言い張っているのは空湖じゃないか。

「……じゃあ、あなたはどうして地球人なの?」

「ええ?」

「今、変な事聞いたって思ったでしょ」

「そ、そりゃあ。……でも地球で産まれて、地球で育ったんだもの。地球人でしょ?」

 彼女は別の星で産まれたとでも言うんだろうか。

「外国人が密入国して、ここで子供を作って育てたら、その子は日本人なの?」

「え? えーと。いや……、違うんじゃないかな」

 そう言われると……、確か戸籍とかが必要なんだっけ。

「そう! 戸籍があるからだよ。君にもあるでしょ」

「それって、結局周囲の人に認められてるって事でしょ? 私は小さい頃周りに居る人達が『ここはお前のいるべき場所じゃない』とか『お前は仲間じゃない』って教えてくれたよ」

「いや、それは……」

 いじめなんじゃないかな、とは言えず。

「それにアメリカに行って市民権を持っても、日本人としての誇りを失う事にはならないじゃない。『自分は日本人だ』って言っても誰に咎められるものでもないと思うわ」

 随分難しい事を言うんだな。正直、彼女を馬鹿にしていた僕は素直に驚いた。

「だから私はいつか自分の星に帰るの。まだどこかは分からないけど、いつか探し出して帰るんだ」

「お、お母さんは宇宙人なの?」

 戸籍論ではダメそうなので根本的な事に触れてみる。

「違うよ。だから正しくは宇宙人のハーフだね」

 そうなんだ。見た目はあっちの方が地球人離れしてるけどと思いつつ、という事はお父さんが宇宙人だと言うのだろう。

 しかしあの家の様子から父親はいないのではないか? もしそうだとすると聞いてはいけないような気がする。この方向でも無理そうだ。

「何か宇宙人的な特徴はあるの? 体に違いとか」

「ええー? あなた私の体に興味あるんだ」

 間違ってはいないが、すごい誤解を受けそうな言い回しだ。

「い、いや。証拠って事だよ。何か証拠があるんなら信じるよ」

「別に信じてほしいって言ってないんだけど」

「そりゃそうだけど……、気になるじゃない。ホントに宇宙人がいるなら、その証拠見たいじゃない」

「そうねぇ。私には心臓が二つある」

「心臓? 肺じゃなくて?」

「そう、心臓。シールドされてるからレントゲンやCTスキャンには写らないんだけどね」

「なにそれ。それじゃどうして分かるんだよ」

「音聞けば分かるじゃない。ほら、聞く?」

 と言って制服のシャツを捲り上げる。

「わーっ! いいよ。しまって! 分かった! 信じる、信じるから」

 手で顔を覆うが目を閉じてなかったので見てしまった。しばらく目に焼きついてしまいそうだ。

 僕は今までに同年代の子に理屈で言い負けた事はない。

 相手が暴力に訴え出る事はあっても理論で負けた事はなかった。それが同い年のこんな女の子に……、最後は女の武器を使われたとも言えるが、ここまで話を返してきた者もいなかった。

 とにかく初めての屈辱を味合わされたと思う所があったのかもしれない。それが、僕がこの水無月空湖の事が気になりだした理由だろう。

 彼女が何を考え、どういう物の見方をしているのかに興味を抱いたからだ。


 決しておっぱいを見たからではない。

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