第4話 人がいなくなる

 さて、そうこうしているうちに、私の霊感は成長し続け、今では一日に何度かは見えない誰かに声をかけられる。

 ついつい返事をしてしまうのだが、これには大きな問題があって、幽霊達の声を無視し続けなければならなかった。なかなかに難しいことではあるが、そうしなければ噂がたつ。幽霊が出ると噂のある現場からは、ひとり、ひとりと発掘作業員がいなくなってしまうからだ。


 決して神隠しにあっているわけではない。ただ、怖いから、人が現場に来なくなるだけだ。この噂が広がってしまえば、発掘作業はたちまち頓挫してしまう。彼らの力なくしては、作業は行えないのだ。


 こんなに苦労して進めているのに、得体のしれない幽霊なんかに邪魔されてたまるかと、今日も私はその声に反応しつつも、無視を決め込んでいた。

 だが、そうごまかされてくれない相手も多い。


「かみ……じょう……さん……上条さん……」


「……」


「上条さん……いい加減返事してくださいよ、聞こえているんでしょう?」


「……?」


「上条さん、次の現場の指示を下さいよ、最近、ぼうっとしていることが多いですね、どうかされたのではないですか?」


「あ、あ、ゴメンゴメン……現場の指示ね……」


 危なかった、段々、幽霊の声と、現実の声に境がなくなってくる……このまま、自分はどこへ向かって行くのだろうかと不安になる。現場に不安が広がりつつある。それに、私自身も、今の様に幽霊の声が聞こえるだけで済むのだろうか……。声が聞こえるだけで、これまでの日常とは、かけ離れた別世界だ、これから先、何があってもおかしくはない。


 仕事の悩み、声が聞こえる超常現象、そして、これから先の自分に何がふりかかるのか、不安を抱えたまま、今日も明日も、また、穴を堀り続けることになった。

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