「一番怖かったこと」

今回の企画を実行するにあたり多数の人から怖い話や不思議な体験を聞いた。中には話として短すぎるものが多く、単体では書けない物が多かった。しかしそれはそれで勿体無いと思えたので、特定の話題に絞ってここに記す。



「一番怖かったもの」




仕事の先輩の場合。



今までで一番怖かったのは黒い塊に追いかけられたことかな。


ある日、飲み会の帰りに遅くなって終電を逃した。それで仕方なく隣町から歩いてたんだ。


結局酔ってたからフラフラしながら歩いてた。そしたら後ろから気配がして振り向いたんだ。


真っ黒い雲みたいなのが目の高さに浮いてた。なんだか分からないけど凄くヤバイと思った。だから全力で走って逃げた。一度も振り向かなかったけど絶対に追いかけて来てるのが分かった。酔ってたから走るの相当キツかったけど、頑張って振り切ったよ。


家を通り過ぎるくらいまで走ってようやく振り向いたらもういなかったよ。正直あれが一番怖かった。





友人の場合。



ある時仕事帰りに歩いていたら行く先々で植木や自転車が倒れている。立て看板やゴミ袋が道ばたに無造作に転がっている。


自分が知らない間に台風でもきたのだろうかと思ったそうだ。


しばらく歩いていると、目の前に若い女の子が歩いているのが見えた。視界に入った時はなんとも思わなかったそうだ。


しかしその考えは一変する。


なんと目の前の彼女が、道にある物を次々と放り投げているではないか。様々な物が転がっていたのは彼女のせいだった。しかも異常なのは、彼女が凄まじい怒号を上げながら物に当たっていることだ。


見た目が何処にでもいる普通のごく地味な女の子だったから余計に怖かった。


「あ″あ″あ″あ″あ″あ″」


とても女の子とは思えない声を上げて暴れながら歩いてる。だが足どりはしっかりしてたので酔っている様子でもない。


とにかく怖かったので距離をとってから即座に逃げた。


家の近くであった事だがそれ以来その子は見ていない。次の日通ったら元どおりになっていた。




従兄弟から聞いた話。


若い頃ひとり暮らしを始めたばかりの時の話。


住んでいたアパートの前に公園があってベランダに出るとそこが見渡せた。


ある夜、風呂上がりに夜風にあたっていたら公園に人影が見えた。なんとは無しにそれを眺めていた。


バレエの様な踊りを狂った様に踊っていた。なんだか怖かったけど、目が離せなくてずっと見ていた。


それは約三十分ほど踊り狂っていた。そして突然その動きを止めた。


何故踊りを止めてしまったのか分からなかったが、なんとなく眺めていたら突然その人がコッチに向かって大声で叫んだ。


「なに見てんだ!お前!」


あまりに衝撃だったので驚いてしまった。


「今からそっちに行くからな!待ってろ!」


そう言って公園から立ち去った。


本当に怖くなってすぐに中に入り急いで玄関の鍵とキーチェーンを閉めた。


それで怖くて朝まで寝れなかったそうだ。


しかし結局朝まで誰も家に訪ねてこなかった。一応近くの交番にも行って相談したが、パトロールのコースに加えますと言われただけだった。一体アレはなんだったのか。


そのアパートからはすぐに引っ越したそうだ。



人によって怖い体験というのは様々だが、たいがい幽霊話よりも人怖の話が多い。それこそ、幽霊よりの人間方がよっぽど恐ろしいという事だろうか。



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