イナダ side of Suzu.5
そして
『
さすがに、臨界点を突破してしまいそうになっていた。
恐怖? 嫌悪? どれとも取れない、しかし確かに稲多に向かっている黒く熱い感情を自覚しながら、すずはその日も仕事を続けていた。
といっても、さすがに恐ろしい。
いい加減、気付いてもいい頃のはずなのに、自分の言動が会社内でそれなりに話題に上がっていることに。すず自身は一部にしか言っていない。しかし、言った中にはあの2人がいる。
人の不幸を喜びはしないものの、面白いか否かに重きを置き、秘密であってもそれなりの範囲のものまでは話題のネタにしてしまう
人に漏らすことはあまりないけれど人の不幸を面白がり、場合によっては曲解と妄想から勝手にストーリーを作ってしまう
そこから漏れたっておかしくないはず。他にも数人はこの話を知っている。
なのに、彼女――稲多は怖くないのだろうか? 追いかけられた話をしたときに恵島が言った『それはさすがに警察に言えるレベルですねw』というものが本当なら、稲多はかなり危うい橋を渡っているはずなのに?
『いっそ、架空の恋人仕立てあげてその人とのいちゃラブな日常でも聞かせてやったらどうです? 私のときはそれで手を引こう……ってなりましたけど』
(発言内容はともかく)珍しく真面目な口調で恵島が言い、白井ですらも『うわ』と引いた反応をし……。
それに、あの呪わしい七文字の言葉を吐かれてから、かなりストレートに伝えているつもりなのだ、自分は彼女のことを
興味のない素振りも見せて、LINIEも既読無視している。返しても、そっけない文面で。
しかし、そこまでしてもどこ吹く風だった稲多の接近は、社内の模様替えで呆気なく終わりを告げた。
年の変わり目でそれまでいくつかのセクションで分かれていた作業場をひとつにまとめることになり、そうした体制変更のあと、忙しくなった作業場で稲多が迫ってくる機会は大きく減った。
1度だけ、「もう2月だよ!」と少人数での飲み会に誘われたことはあったが、特にその場でも何が起こったわけでもなく、そのままふたりの奇妙な関係は終わった。
すずは今、安心して仕事に邁進している。今となっては、悩みの種は稲多のことなどではなく新体制になってから作業場で頻発している人間関係トラブルなのだから。
……そう、すず本人は思っている。
side of Suzu.fine.
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