切り裂きジャック症候群

 昭和三十三年四月一日に施行された銃砲刀剣類所持等取締法が切り裂きジャックを駆逐して、今の日本は平和になったと祖母がほうじ茶をすする。

 もしもダガーナイフの所持が禁止されていなかったなら、たくさんの切り裂きジャックが通り魔をしているかもしれない。殺してやりたい、と思うのはそんなに間違ってないよ。嫌いなやつは存在ごと消えてしまえって、そういう気持ち、あるよ。

 統計によると繁華街を歩く人間の3割は生きる価値がないらしい。いのちってなあにっていう無邪気な問いには答えられないくせに、殺人はいけないともっともらしく倫理を述べるおとなたち。同じ口で食べる和牛ステーキは美味しいかい?

 いのちが大切なのは、きらきらとかがやいてうつくしいからじゃなくて、かけがえのないとうとさでもなくて、それがわたしにとって都合がいいからだよ。

 もしもアルマンコブハサミムシになったら、人間なんてゴミクズだよ。もしも神さまになったら、いのちぜんぶ絶滅させてあげるよ。もしも切り裂きジャックになったら、牛肉と同じくらい簡単に人肉をさばいて人間と同じくらい肉牛を大切にするよ。

 だけど今はただの孫娘だから、しぬほど殺してやりたいやつがいたって、そうだねとだけうなずくんだ。


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