貴重なトレーニングタイム

 ふんっ!


 ふんっ!


「ちょっと、中くん! 何も、飛行機の中で筋トレしなくても!」


 ふんっ!


 ふんっ!


「広がる森を ふんっ! みながら筋トレ、ふんっ! ってのも、ふん! いいもんだな、ふんっ!」


 世界中の猛者達はきっと、どんどん自分を鍛えて、どんどん強くなっているはずだ! オイラも負けていられない。


 筋繊維が悲鳴を上げる。

 オイラが動く度に起こる筋肉痛が、なんだか心地よい。


 待ってろ。もう少しいじめてやるから。

 いじめてから、休ませることで、筋肉は増える。


 その辺のコツは、ばあちゃんから昔教わっていた。


 背負ってスクワットをすると、立ち上がった瞬間に、窓から外の景色が見えた。朝だから。


 生い茂る森と、その中を蛇行して貫く、茶色く濁った川。その先には、大きな水たまりが見える。こんな景色初めて見たぞ! せっかくの空の体験だ。筋トレのモチベーションアップに使わなきゃもったいないだろう。


「もう少し飛ぶと、バース海っていう、ちいさな海に出るわ。そこを渡った先に、都があるの」

 そう言うスカーチョはシートにどっかと腰をおろして、紅茶を飲みながら、ファッション雑誌を読んでいた。飛行機は自動運転モード。


 ふんっ! ふんっ!


「ああっ! 筋トレなら、もうちょっと静かにやりなさいよ! 飛行機が揺れるでしょ!」


「ごめんごめん……ほえー! でっっけー水たまりだなー!」

 思わず、筋トレを中断してしまった。


 足元を埋める、水たまり。


「あれ? 中くん、もしかして、海を見るのは初めて?」

「ああ! でっかすぎて、とても飲み干せねーぞ」 

「なにを規準にしてるのよ!」


 そこからしばらく。

 筋トレも順調に進んで、水を飲みながら一休みしていると。


 海の先から、なんか小さな建物が沢山あるのが見えてきた。、煙がもくもくと上がっていた。


 スカーチョが、唖然として言った

「み、都が、燃えてる……」

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