西へ

 旅の準備のために、オイラの自宅に戻った。


 とはいっても、僅かな金と、食料と、着替えと、形見のキューブと、あと、ニョイボールさえあればいい。


 ニョイボールは、自由自在に形の変わる、「にょいにうむ」とかいう石? か何かで出来たボールだ。


「あんた、ホントにここで一人暮らししてんのね」

 部屋の中を見回して、スカーチョが言った。


「ああ。5年位前に、ばっちゃんが死んじまったからな」


「お父様、お母様は?」

「んなもん、いねえよ。オイラ、赤ん坊のころ、川から流れてきたステゴ? ってやつらしくてな」


「そうなの……。ごめんなさい。悪いこと聞いちゃったわね……」

「なにがだ?」

「だって、お父様とお母様……」

「いないもんはしょうがねえ。んなことより、オイラはめちゃくちゃ修行して、世界最強の男になるんだ! 『そうすりゃ、何も悲しむことなんて無くなる』って、ばっちゃんが昔、教えてくれたからな」


「いいおばあさんに育てられたのね……」

 スカーチョは、少し涙ぐんで、オイラをぎゅっとした。


「やわらけ!」

「もう! デリカシーのないガキンチョね!」


 外に出る。


「なあスカーチョ、どこに行くんだ?」

「西よ!」


 そう言ってスカーチョは、カバンからなんか変なカタマリを出した。


「ううん……」

 スカーチョが目を閉じて唸ると、カタマリが、なんと、飛行機の形になった。


「はえーーー! すっげー! どうなってんだ!」


チュンくん? あんたが持ってる、そのボールと同じよ。人の意思で変形する金属、ニョイニウムっていうの」

 スカーチョは、布をヒラヒラさせて笑った。


 どしゅうー!!!


 スカーチョとオイラは、夕日に向かって飛行機で飛んだ。

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