筋肉は心に

『筋肉は、体ではなく心につく』


 そんな簡単な事を、なかなか理解してもらえなかった。「スカーチョ」という名前の、その少女には。


 鍛えていれば簡単にわかる話だと思うんだ。


 修業すると、ある程度までは、筋肉で体が大きくなる。

 でも、それ以上は、力やスピードは上がるのに、体の大きさは変わらない。


 オイラが修行に出るきっかけになった格闘漫画も、そんなか感じだった。

 だからきっと、筋肉は、体ではなくて、心につくんだ。


 でも、スカーチョは、


「???」

 首をかしげて、スタートなのかパンツなのかわからない布を、ひらひらさせていた。


「筋肉の話はともかく、ばっちゃんの形見! オイラに返せよ!」

 オイラはそう言って、手を伸ばした。


「嫌よ。これがあれば、あたしだって、格好の良いイケメンに、モテモテになれるかもしれないのよ!」

 スカーチョはそんなことを言って抵抗した。


「うーん」

 女に手を上げる趣味は無いオイラは、困った。


「あっ! じゃあさ、中山くん。あたしと一緒に、残りのオレゴンキューブを探すってのはどう? あなたなら、ボディガードとして頼りになりそうだし」


「筋トレで忙しいんだよ。オイラに何の得があるってんだ?」


「うーん……そうねぇ……。このキューブを9つ集めて、オレゴン州を呼び出せば、何でも願いを叶えてくれるわよ? プロテインだって、トレーニングジムだって。オレゴン州にできる範囲の事は、なんでも」


「ほんとか!」

 俺は一気にテンションが上がった。

 思わずジャンプ。キックで近くの木を折り、手刀で薪へと割って見せる。

 嬉しさは、体で表現したくなるもんだ。


 上質のプロテイン。

 24時間使えるトレーニングジム。


 それらは、この山で自給自足の暮らしをしているオイラには、諦めざるを得ないものだった。


「もしかして、もしかしてさ! めっちゃつええ格闘家に、技を教えてもらったりもできるか?」

 俺は身を乗り出して聞いた。


「できるわよ! オレゴン州にだって、強い格闘家の1人や2人、いると思うし」


「決まった! オイラ、スカーチョについてく! その、なんとかきゅーとかいうの探す!」


「オレゴンキューブよ」

 スカーチョはにっこり笑って、右手を差し出してきた。


 軽く握っただけで、

「いだだだだだだ! アンタなによ! そのバカヂカラ!」

 と怒られた。


 オイラたちの冒険が、この時始まった。

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