熊退治

「くっそー! 待ちやがれ!」

 少女はバイクで逃走している。さっさと追いつかないと、ダッシュしてるオイラは息切れしてしまう。


「なんでダッシュでついてこれんのよ!」

 少女はバイクを走らせながら後ろを振り向き、ビックリしていた。


「修行の成果に決まってんだろ! って、前! あぶねーぞ!」


「うわわわ!」


 獣道には切り株があって、それにぶつかりそうになった少女のバイクはあわてて進路を変える。崖の方向に向かって。


「そっちもあぶねぇ! ブレーキブレーキ!」

 オイラは大声で叫ぶが、バイクは急に止まらない。すぐに崖から、ぽーん! と飛び出してしまう。


「きゃあああ」

 叫び声が「下に」向かって居く。

 オイラは迷いなく、崖からダイブした。勢いをつけて。


 ばしゅ! ばしゅ! ばしゅ! と崖をって、落下スピードを加速。


 小女を空中で抱きかかえる。


「うわわわわわ」


 なおも落下で怖がる少女を抱っこしたまま、崖を何度も蹴って落下スピードを殺す。


 しゅた。


 そして、猫のように、崖下の地面に降り立つ。


「大丈夫か? あんた?」


 ぎゅっと目をつぶったその少女は、目を開けた。

「あ、あれ? 生きてる?」

 そう言ってきょろきょろ。


「ああ。無事だ」

「良かったぁ……あたし死んじゃったかと思った」


「待って、この声は……」


 ぐるるるるる


 やっばり居た。この獰猛な威嚇の声は……。


「く、熊だ! あたしたち、食い殺されちゃう!」

「オイラに任せて」


 そう言ってオイラは一歩前へ。

 熊は、立ち上がって、こちらを威嚇してくる。自分を大きく見せようとしてる。


「ひゅっ」

 オイラは鋭く息を吐いて跳躍。熊に向かって加速。熊の懐に入り、


 ぐっ


 としゃがんで、一気にジャンプ。


 ばごおおおん!


 と、俺の右拳が、熊のアゴにクリーンヒット。俺の体の勢いを全部乗せたような右拳が。


 ぐおおおおおん


 と咆哮して、あお向けに倒れた熊は、しばらくピクピクとしていて、やがて動かなくなった。


「あ……あんた、なにもんなの?」

 熊を退治して、危機が去ったと思ったのか、少女は地面にへたり込み、憔悴した顔で聞いてきた。


「オイラか? オイラは、中山。この山で一人暮らしで修行してる、マッチョさ」

 そう言って、俺は腕の力こぶを見せびらかす。


「マッチョ……? でもあなた、すごく細いじゃない! 執事並に!」


「ひつじ? ひつじは丸っこいぞ?」


「ひつじじゃなくて、執事よ! しゅっとした細い体型で、燕尾服をびしっと着込んで、お嬢様に丁寧な仕種で紅茶を淹れる、あの執事よ」


 少女が何を言ってるのかよくわからないけど、オイラは言った。


「見た目の細さは関係ないぞ? 筋肉は、心につくんだ」

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