第3話 クソゲーマーズ!

「ゲームをやるわよ。相手しなさい」


「………………」


 俺はそう言う少女を黙って睨み返す。


「何よ。文句でもあるの?」


「あるよ……あるに決まっている……」


 俺は少女に詰め寄りながら叫ぶ。


「俺が学校でテストを受けているときに、そんなくだらねえ理由で異世界召喚すんじゃねえ!」


 教室に居た俺の足元に突如開く異界への大穴。神隠しが起こったと思われかねない状況だったので「トイレ!」と叫んで廊下に緊急避難することでなんとか誤魔化したが……。


「この一週間、くだらねえことで何度も何度も呼び付けやがって! 呼び出される度に『トイレ』って言って誤魔化してるから、最近の俺はクラスでお腹ゆるいキャラ扱いだよ!」


「つまり『ゆるキャラ』扱いされてるのね」


「そんな可愛らしいもんじゃねえよ!」


 トイレに駆け込み続けるゆるキャラなんて居てたまるか。


「本当にいい加減にしろ! リリナ!」


「うるさいわね、立場をわきまえなさい、下僕!」


 俺とリリナは真正面から睨み合う。

 本当にどうしてこんなことになってしまったのだろう。




「自己紹介しておく。俺の名前は――」


「ツヅキトモナガ、でしょ」


 一週間前、すべての始まりの日。


「『首輪ネックレス』がついてる相手の最低限の個人情報パーソナルデータくらい見えてるわよ。さすがに『魂名ソウルネーム』くらいは解ってる」


「そういうもんなのか?」


「ええ。私とあんたは今、魔力のパスで繋がっている。私とあなたはそのパスを通じて、直接情報をやり取りして、お互いの言語体系はシェアしてあるわ。じゃなきゃ、異世界人同士で言語が通じるわけないじゃない」


「なるほどな」


 そう言えば、当たり前のように言語が通じているのはこのパスのおかげだったのか。俺は自分の首元から彼女の手に繋がるパスを見る。


「ん?」


 俺は尋ねる。


「おまえは俺の名前が解っているようだが、俺にはおまえの名前なんて解らないんだが」


 少女は嫌悪を隠さない目で俺を睨む。


「当たり前でしょ。私は主人。あんたは下僕。なぜ、あんたに私の個人情報パーソナルデータを渡さなきゃいけないのかしら? むしろ、言語知識をシェアしてあげているという私の寛大な措置に感涙しなさい」


「はあ? 俺しか召喚出来なくなった出来そこない召喚士の癖に、まだ、そんなこと言ってやがるのか!」


 少女は眉を吊り上げて叫ぶ。


「うるさいわね! 私は出来そこないなんかじゃないわよ! やろうと思えば、異世界丸ごと、この部屋に召喚することだってできるんだから!」


「でも、それをコントロールはできないんだろうが!」


「本当にうるさいわね! もう頭来たわ!」


 そして、少女は俺とのパスがつながった右手を俺に向かって突き出して叫んだ。


「リリナ・ステルフスキの名において命ずる――『床に這いつくばれ』!」


「げふっ!」


 俺は自分につけられた首輪からの魔力によって身体が無理矢理に動かされ、受け身も取れずに床に勢いよく叩きつけられる。


「はあはあ……解ったでしょ……今のあんたは私には逆らえないのよ……」


「………………」


 俺は床に這いつくばった状態から顔を上げて少女を睨む。

 次の瞬間、少女は糸が切れたように俺と同じ様に床に倒れ込む。

 その姿を見て、俺は思わず叫ぶ。


「おい! どうした!」


 少女はうつ伏せから仰向けに体勢を変え、弱弱しい声で呟く。


「めんどくさくなってきた……」


「……は?」


「こんなに人と喋るの久しぶり……ましてや叫ぶとか……」


 虚ろな目で天井を見つめたまま、弱弱しい声を紡ぐ。


「普段から外とか出ないから体力ないし……気力もない……棚の上のマンガを取るのもだるい位なんだから……」


 陸に打ち上げられた魚のような瞳で呟く。


「もう帰って……」


「は、いやちょっとまだ話は――」


「また呼ぶ……」


「って、うわあああ!」


 また、俺は床から現れた時空奔流に繋がる穴に落とされる。今度は先程と違いより強力になった『首輪ネックレス』がついている。無理に力づくで抗えば、どういう事態になるかは読めない。


「ちくしょうがあああっ!」


 こうして、俺は元の世界へ帰還したのだった。




 だが、それから一週間。


「やれ『リモコンを取れ』だとか、『スマフォを充電しろ』だとか、くだらないことで俺をいちいち呼び出しやがって!」


 俺の言葉にリリナは悪びれもせずに言う。


「しょうがいないでしょう。めんどくさいのだから」


「言い訳にもなってねえよ」


 俺はこの一週間、気になっていたことをツッコミを入れる。


「だいたい、マンガを取れとか、リモコンを取れっていうだけだったら、マンガやリモコン自体を召喚しちまえばいいだろうが!」


 異世界から人間を呼べてしまうほどの術師だ。視界に入っているものを手元に引き寄せる召喚くらいわけないだろう。


「それはできるけど……」


 リリナは少しばかりばつが悪そうな顔で呟く。


「部屋の中から中に下手に召喚ラインを繋ぐと暴走する危険性があるというか……」


「暴走……?」


 俺はリリナの視線の先を追う。


 そこにあったのは山と積まれたガラクタ。いや――


「『魔道具』に『霊装』。『アイテム』に『情報素子』。挙句の果てに『聖遺物』……」


「あれに変に魔力が引火したらどういうことになるか、さすがの私も解らないっていうか……」


 確かにあそこにある物はガラクタも多いが、俺でも仕組みが解らないブラックボックスが山ほどある。下手に手を出せば、時空崩壊クラスの災害が起こってもおかしくない……。


「捨てろよ!」


「もう下手に触るだけでも危ないのよ!」


「なんであんなやばいものが、ここに積み重なっているんだよ!」


 俺が叫ぶと、


「この部屋に引きこもることに決めたときに、ちょっとイライラしてたから、自棄になって集め過ぎちゃったのよ!」


「そんなストレス解消のためにブランド品買いあさるみたいな感覚で世界崩壊クラスの危険物持ち込んでんじゃねえ!」


 何度でも言うが、あそこに積み重なっているものだけで一世界滅ぼせます。


「うっさいわね、下僕! 私に意見してんじゃないわよ!」


 いらいらしていた俺はリリナの言葉に反応して叫ぶ。


「だから、その下僕って呼ぶのをやめろっていうのがわからねえのか、リリナ!」


「何度も言わせないで下僕。私のことは『ご主人さま』と呼びなさい! 百歩譲って

『世界で一番華麗なリリナさま』よ!」


「百歩譲るどころか、全力疾走で逃げ切ってんじゃねえか!」


 こんな言い合いはこの一週間、ほぼ毎日行われたやり取りだった。俺は色々な世界で、色々な気難しい人間と出会ってきた。その中にはこいつみたいに傍若無人な奴も居た。だから、彼女の性格を以て、安易に彼女を否定するようなことはしないつもりだ。

 だが、一つだけ納得できないことがある。


「リリナ。俺はまだ、おまえから名前を教えてもらっていない」


「は? あんた、勝手に私の名前を呼んでいるじゃない」


「それはおまえが『首輪ネックレス』を使うときに自分の名前を宣言したから知っているだけだ」


 どうやら『首輪ネックレス』の起動には自身の名前を組み込んだ詠唱が必要らしい。だから、それを聞いて、俺は彼女が「リリナ・ステルフスキ」という名を持つ人間なのだということは知っていた。


「俺とおまえは互いに自己紹介もしていない」


 俺はそれだけが納得できなかった。

 リリナは唇をとんがらせて呟く。


「自己紹介ですって? 必要ないわ。あんたの情報は把握してるって――」


「そういう問題じゃない。人としての礼儀の問題だ」


 俺は言う。


「俺の情報を把握しているなら解るだろ。俺は色んな異世界を回ってきた。それらの世界は、文化も思想もバラバラだ。でも一つだけ共通していたことがあった」


 俺が言わんとしていることが解らないのか、リリナはいぶかしみの目を俺に向けている。

 俺は言う。


「それは挨拶だ」


「………………」


「どんな世界でも挨拶は存在した。言語によるもの、魔法によるもの、情報を直接やり取りするだけの世界もあったけれど、挨拶が存在しない世界はなかった」


 俺は話を続ける。


「俺たちは初対面からずっと自己紹介すらしていない。これでは信頼関係なんて築けるわけがない」


「……で?」


 リリナは露骨に嫌そうな顔をして、俺を睨む。


「だから、自己紹介からやり直そう。そこから初めて、お互いにこの現状を解決する方法を考えよう」


 俺は目の前に居る少女を救いたかった。当たり前だ。

 だって、彼女は困っているんだから。

 困っている人が居たら助ける。

 そこに理由なんて要らない。

 だが、彼女と俺の関係が上手くいかないうちは、彼女を助けることは困難だ。

 だから、俺は彼女を助けるために、まず彼女と打ち解けたいと思ったのだ。

 リリナは何を考えているのだろう。眉間に皺を寄せて、俺を真っ直ぐに睨んでいる。

 数秒の沈黙の後に彼女は言った。


「解ったわよ……」


「解ってくれたか」


「ただし、条件があるわ」


 リリナは何かを俺に手渡して言った。


「あんたが私にゲームで勝てたら、あんたの提案に乗ってあげるわ」


 俺に手渡されたのはゲームのコントローラーだった。




 俺は手渡されたコントローラーをまじまじと観察する。

 向かって左側にはいわゆるジョイスティックと十字キー。右側には同じくジョイスティックと四つのボタン。四つのボタンには「A」「B」「X」「Y」の記号が振られている……。


「なあ、俺、このコントローラー、見たことある気がするんだけど……」


「そう?」


「これ、なんていうゲーム機だ?」


 リリナはこともなげに言った。


「ズイッチよ」


「ズイッチ? ス○ッチではなく?」


「ズイッチよ。スイッ○っていうのは、私は知らないわね」


 いや、このコントローラーの形状はどう見ても今(日本の2017年現在)大人気のスイ○チにしか見えないのだけれど……。


 まあ、確かに異世界に日本と同じゲーム機がある方がおかしいが……。


「私はスイッ○なんていう据置機と携帯機の両方の性質を備えたハイブリッドっぽいゲーム機は知らないわね」


「絶対知ってるだろ」


 めっちゃ詳しいじゃねえか。


「ちなみに今からやろうとしているゲームのタイトルは、なんていうんだ……?」


「今、ズイッチで対戦ゲームと言ったらこれに決まっているわ」


 そう言って、彼女はゲーム機を起動させる。

 そして、テレビ画面に現れたタイトルは――


「ズブラドゥーンよ」


「ズブラドゥーン?! スプ○トゥーンではなく?」


「ええ。ス○ラトゥーンっていうのは知らないけれど」


 といっても、画面に映っているのはどう見てもファンシーにデフォルメされたイカで、やっぱりスプラトゥー○にしか見えないのだが……。


「このゲームはイカを使って」


 ス○ラトゥーンだ……。


「色々なアイテムで」


 スプ○トゥーンだ……。


「おいしいソーメンを作った方が勝ちよ」


「あ、これスプラト○ーンじゃねえわ」


 どうやら、俺の勘違いだったようである。


「そうよ。これはズブラドゥーンよ」


 リリナは何故か得意げな表情である。


「インクを飛ばして陣地を奪い合うようなゲームではないわ」


「おまえ、やっぱ知ってんだろ」


「うっさい! いいから、ズブラドゥーン、始めるわよ!」


 彼女は何かを振り払うように首を振り、コントローラーのボタンを押した。




「VSモードで行くわよ」


「いや、待て」


「何よ」


 リリナはじとりとした目で俺を睨む。


「もうこの際、ゲームするのはいい。だけど、せめて操作方法とかルールくらいは教えてくれ」


 リリナは不機嫌そうに俺を睨んでいたが、ふっと小さく息を吐く。


「……まあ、それもそうね。じゃあ、私が一人モードを一度やるから見ていなさい」


「おう」


 なんだかんだ言いながらも、ゲームを起動してしまうと俺もこのゲームが気になりだしている。そもそも、俺はリリナと打ち解けたいと思っているのだから、ゲームを通して仲良くなるというのは、そう悪い発想ではない。

 とりあえず、彼女のプレイを見て、このズブラドゥーンという謎のゲームの全容を解明しよう。


「いくわよ」


 彼女がそう言うと画面にデフォルメされたイカが現れる。そして、それが人の形に変わる。その手には刀のような武器が握られている。

 その画面を見て、俺は言う。


「なるほど、その刀みたいなのを使うのか。ソーメン作るんだったか?」


「そういうことよ。まあ、見てなさい」


 しかし、ソーメンを作る?

 そもそもソーメンはどうやって作るんだっただろうか。俺も異世界生活が長いので異世界でも日本と同じ食事ができるように、マヨネーズの作り方などは熟知しているが、さすがにソーメンの作り方は覚えていない。

 リリナは画面を見ながら呟く。


「こうやってイカを使って――」


「なるほど、このイカが人間形態になった奴がソーメンを作るのか」


 画面の中のイカ人間が刀を構える。


「刀を振るって――」


「なるほど、何か生地的なものを切って、ソーメンを作る――」


「このイカに突き刺す!」


 グサリ。


『ぎゃああああああああああっ!』


「絵面が完全に切腹?!」


 そして、リリナが操っていた刀を持ったイカのキャラクターは断末魔の叫び声を上げながら何故か一瞬で細切れになっていた。

 リリナは言う。


「ほら、見なさい。これでイカソーメンの完成よ」


「イカを使うって、食材的な意味だったの?!」


 食材を操って自らを料理へと変貌させる斬新なゲームでした。




「ええ、これ大丈夫? 異世界のゲームってみんなこんなグロテスクかつ電波的なの?!」


「ちょっと何言ってるのか解らないけど……」


「こんなゲームが大人気なの?」


「子供から大人まで楽しめる大人気ゲームよ」


「異世界人の感性を疑う……」


 俺はもっと気になった点についてつっこむことにする。


「百歩譲ってこれが楽しいとして、切腹するゲームを子供にやらせるのはどうなの?」


「でもこれCEROはAよ」


「CERO仕事して!」


 ていうか、この世界にもあるんだ、CERO。

 俺は一度深呼吸して落ち着くことにする。

 確かに俺にはこのゲームは理解不能だ。だが、所詮はゲームだ。本当に誰かが切腹しているわけではない。それに、ここは異世界。俺は自世界の文化が絶対的に優れているという自惚れは持ちたくないと思っている。他世界には他世界なりの文化がある。それを頭ごなしに否定するべきではないだろう。


「まあ、ゲームの方向性は解った。だが、これはどうなったら勝ちで、どうなったら負けなんだ?」


 俺が問いかけると、リリナは答える。


「それはもちろん、おいしいソーメンを作った方が勝ちよ」


「うん……そう」


 俺はそろそろ悟る。いちいちツッコんでいたらいつまでも終わらない。ツッコミどころは、たぶん無限にある。さっさと対決に持ち込んでしまおう。後は野となれ山となれ、だ。


「じゃあ、勝負行くわよ!」


 俺はリリナの真似をしてコントローラーを握る。

 画面がカウントダウンを始める。

 3……2……1……――GO!

 開始の合図と共にキャラクターが操作可能になる。俺はリリナの操作を横目で見ながら、見よう見まねで彼女についていく。


『ぎゃああああああっ!』

『ぎえええええええっ!』

『ぐぶぉはああああっ!』


 次々と断末魔の悲鳴を上げて、イカソーメンへと変わっていくイカたち。

 すまぬ、すまぬ、と思いながらも、俺もリリナに必死についていく。

 開始当初、余裕の顔を見せていたリリナが驚いた顔で俺の方をちらりと見る。


「な、なんで? あんた初めてなんでしょ? なんで私について来られるのよ……!」


 正直、今も自分でも何をやっているのか解らない。どうすれば勝ちなのかということも理解していない。

 だから――


「俺はただ横目でおまえの操作を真似しているだけだ」


「はあ?!」


「隣に座っている人間のコントローラーの操作を真似するくらい、戦闘の中で敵の魔法や体術をコピーするのに比べたら何でもない」


 幸いこのゲームはアイテムのランダム配置など運が絡む部分が基本的には無いようだ。ならば、対戦相手とまったく同じ動きをしていたら、少なくとも負けるということはない。


「あんた、いったい何者なのよ……!」


「おや、俺の自己紹介なんてなくても、俺の情報を収集済みなんじゃなかったか?」


「くっ……! このっ!」


 先程の意趣返しをしてやると、リリナは自分のコントローラーを操作する手を一層早くする。

 両者とも一歩も譲らず、それぞれの陣地にどんどんイカソーメンの山が築かれていく。


『5……4……』


 タイムアップを告げるカウントが鳴り出す。お互いのスコアが現時点でまったくの同点。このままなら引き分けになる……!

 そう思った直後だった。


「リリナ・ステルフスキの名に置いて命ずる……!」


「は?」


「『伏せてろぉぉぉぉっ!』」


「ぐはああああっ!」


 首輪から自分の身体に強制的な命令が下り、俺はゲームに向かう姿勢を保てなくなり――


『タイムアップ!』


「はあはあはあ……」


「………………」


 また俺は床に顔面から叩きつけられていた。


「それは反則だろうが……」


 俺の言葉にリリナは息を荒くしながら呟く。


「私が召喚した下僕とゲームをする理由はただ一つ……。自分が負けそうになったら『首輪ネックレス』が使えるからよ……」


「……そんなゲームが楽しいのかよ」


 リリナからの『拘束ロック』が弱まり、俺はゆっくりと顔を上げながら言う。


「勝ったり負けたり、色んな結果があるからゲームって楽しいんじゃないか?」


「………………」


「少なくとも俺は今、楽しかったよ」


 と、俺が言うと、何故かリリナは顔を真っ赤にしている叫ぶ。


「うっさいわね! 負け犬の分際で何を――」


 リリナの大声をかき消すように響くゲームの音声。


『ドロー!』


「は?」


 勝負の結果。俺とリリナのスコアはまったくの同点だった。

 リリナはゲーム画面に飛びつきながら叫ぶ。


「はあ?! 何よこのクソゲー! バグってんじゃないの?!」


「いや、これであってるよ」


 俺は言う。


「俺、おまえに床に叩きつけられた後もコマンド入力し続けてたから」


「はあ?! そんなわけ……!」


「俺は横目でおまえの動きを見ながらでも、コントローラに入力することができる。最後の三秒は画面も見えていなかったけど、もうやることは解ってたからな。見えなくても手を動かすことくらい容易い」


 『見えない剣を操る騎士』や『透明人間』を相手に戦うことに比べたら随分と優しいものだ。


 リリナは呆けた顔で俺を見る。


「あんた……本当に何者なのよ……」


 俺は笑って言う。


「やっぱり自己紹介、しといた方がいいだろ?」


 リリナはやっぱり嫌そうに顔をしかめる。そして、俺を見て何かを言いかけたように口を開き、やめる。また口を開き、やめる。そんな動作を何度か繰り返した後に、ためらう様に俺から目を逸らしながら呟いた。


「自己紹介……しなさい」


「いいのか?」


 俺の言葉にリリナは目を見開いて俺を睨みつける。


「でも、これはあくまで下僕が主人へ忠誠を誓う儀式として行うの。そこをはき違えない様になさい!」


「はは、解ったよ」


 俺は改めて、リリナに向き直る。


「俺は都築友長。世界を救う召喚勇者だ」


「……リリナ・ステルフスキ。あなたの永遠の主人の名よ……」


 こうして、俺たちは初めて互いに挨拶を交わしたのだった。




「やっぱりイカをさばくよりも、イカでペンキを塗るゲームの方が面白いわね」


「やっぱ知ってんじゃねえか、○プラトゥーン……」


 その人気は異世界でも変わらないようである。




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