Ⅱ.A-エイ-と B-ビィ-

食事の話と異変


 宇宙船アルミナの船内時計が起動し、地球を出発してから250年と、45日目の「朝」を計測した。


 パルの実験室のすぐ隣にある小部屋から、2人の子どもたちが出てくる。一人は女児で、もう一人は男児である。彼らの髪は石英のように白く、眼の色はそれぞれ、青と碧色。そして肌は、船外に広がる宇宙の色とよく似ていた。


 女児の名前は「ビイ」と言い、男児の名前は、「エイ」と言った。身に付けているのは、おそろいの鉛色のワンピースにサンダル。胸元には、『NB001』という、共通の番号が記されている。



「ねぇ、エイ。今日は何を食べるのかしら?」


ビイがエイに尋ねると、エイは答えた。


「パルは、課題が終わったら、果物をくれると言ったよ」


ビイが、興味津々に、エイの口元を見た。



「それは甘いのかしら?」


ビイを突き放しながら、エイは難しい顔をする。


「僕は知らない。何せ、今日初めて食べるんだ。パルに訊けばいい」


ビイは、冠のように額に巻き付いたコードに触れて、「パル」と交信する。



「ねぇ、パル。果物の味を教えてほしいの」


パルはビイの質問に答えた。


『甘くもあるし、酸っぱくもある。苦くもあるし、食べられない部分もある』


パルの言葉を、ビイが復唱する。エイは言った。


「おそらく、甘い部分だけを食べるんだろう。だから、果物の味は、”甘い”。食べたら、そう表現するんだよ」



ビイは、首を傾げて言った。


「パルはそんなことを言っていない。苦くても、食べられるかもしれないし、甘くても、食べられないかもしれない。だから、食べてみないと分からない、っていうことよ。エイったら、変なの」


そんなことを言いながら、2人は船の管制室に入っていく。まだ笑っているビイの袖を引っ張り、エイが、何かに気付いたように船の燃料計を見つめた。


「どうしたのだろう。昨日はパルの自己メンテナンスの日ではなかった筈なのに、核燃料の残量メーターが不足している。倉庫から一本、新しい ”薪” を出してくるように、ロボットに指示を出さないと」


そう言われて、ビイも、目の前の空調計に額を寄せる。


「そうね。なんだか、パルの様子がおかしいのかしら。二酸化炭素濃度が、少し高くなっているわ。ちょっと息苦しい気もする。でも、ちょっと待って…エイ! 大変だわ、パルの保管庫の設定温度が3度も高い! これでは、遺伝子バンクのほとんどが失われてしまう」


エイとビイは顔を見合わせると、声を上げてパルに要請した。


「パル! あなたの大事な保管庫が危機に瀕している。いち早く状況の確認と、復旧作業に取り掛からないと!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る