火曜日:三題噺「お盆/蝉時雨/線香」
火曜日:三題噺「お盆/蝉時雨/線香」
「今年も暑かねえ」
そう言ってカラリと戸を開け入ってきたのは、おみつと呼ばれる老婆であった。猫がすっくと尻尾と四つ足を立て、ナアナアと子猫のように甘えながら老婆の足下へすり寄っていく。
「お久しぶりです、おみつさん。今年も夏は盛りでなによりです」
「ほ、ほ。ほんじゃあま、お願いいたしましょうかね」
おみつの笑い方は、皺だらけの弛んだ頬からぽっかりと顎だけが抜け落ちるようで、なんとも面白く愛嬌がある。年の深みが滲んだ手はか細く、しかし猫に触れる様は少女のようで、猫は機嫌よく喉を鳴らした。
和尚は三和土から上がるおみつに手を貸し、段差を越えて本堂へと招いた。
蝉の鳴き声を障子の外へ追いやって、外陣の椅子におみつを座らせた。使い古された経本を渡し、頁だけを開いてその手に置いてやる。
見習い坊主もこのお彼岸には同席させない。線香に火をつけ、鐘を鳴らす。時が、刻まれる。
「摩訶般若波羅蜜多」
ぽくぽくと鳴く木魚と共に、極楽浄土へ逝ったおみつの善き人の輪廻を願った。
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