第4話 魔王二年生
勇者が200人もいると告げられ、若干グロッキーになる俺。
魔王になったことに関しては今更受け止められないってことはないが、勇者が200人はさすがに受け止められない。
「勇者って強いんすか……?」
「ええ。一人一人が女神の加護と寵愛を受けておりますので、恐らく私では一対一であっても手も足も出ないかと」
絶対無理じゃん……
アンクは見た限り俺より数倍強そうだ。体格の違いもそうだが、何より威圧感が違う。存在が濃いとでも言えばいいのか、俺にはない力強さを感じる。
「ただ……魔王様は私など霞むほどにお強いのですから、何ら問題はございませんでしょうね」
「えっ」
嘘だろおい。
どう聞いても嫌味にしか聞こえない謙譲の真意を探るため、質問をする。
「俺ってそんなに強いんすか?……ぶっちゃけそんな感じしないんすけど……」
「ええ、お強いですよ」
当然のように言い切るアンクに戸惑う俺。
信じられない俺は続ける。
「えっと……正直信じられないんすけど、具体的にどう強いんすかね……?」
「?」
首を傾げるアンク。その目は「なんでそんなこと聞いてるんだろう」という感じだった。
「いやその……強いって言われても証拠がないっていうか……ぶっちゃけ意味不なんすよ」
「あぁ、魔王様は転生なさったばかりでしたね。では僭越ながらご説明させて頂きますが……ひとまず場所を移しましょう。ここで全てを話すのは些か憚られますので」
確かに、儀式めいた祭壇のある場所で話し続けるっていうのも変な感じがする。どうせなら椅子のあるところで話を聞きたい。
「そっすね……」
「ではこちらへ」
気の抜けた返事をして、案内されて祭壇のあった部屋から出る。出た先には廊下が続いており、いくつか部屋が並んでいた。壁には大きくて綺麗な宝石が埋め込まれており、それが照明の役割をしていた。
窓はなかったが閉鎖感を感じるどころか空気はとても澄んでいて、まるで雨上がりの森の中にいるかのような涼しい爽快感と開放感を覚えた。
しばらく歩くと一際大きくて凝った装飾の施された扉が見えてきて、その中に誘導された。
「玉座の間にございます。魔王様、玉座へお掛けください」
大きな扉の先にはゲームなどでよく見る玉座の間が広がっていた。その奥には巨大な椅子があり、まさに玉座といった威圧感を放っていた。
「あの、えっと、アンクさんは?」
「私が何か……?」
「何か椅子に座らなくていいのかなって思ったんすけど……」
「魔王様。お言葉ですが、貴方様は我々の王にございます。そして、王の前では跪くのが礼儀でございます。お心遣いはとても有難く存じますが、どうかここは王として……」
「は、はい!」
「……言葉遣いも、可能であればもう少し威厳のあるものであると我々も嬉しく思う限りでございます」
「そ、そっす……そうか?」
疑問形になりながらも「威厳のある」喋り方を心がけてみる。転生した以上、全て前世のままという訳にはいかないのだ。俺はようやくそれに気付き、現実を噛みしめる。
そんな俺の心とは離れたところで、アンクは「これでやりやすくなった」とでも言いたいような笑顔を浮かべていた。
俺は玉座に腰掛け、あまりにもふかふかとしたクッションに思わず口元を綻ばせる。
「魔王様。魔王様の能力についてでございますが……」
アンクが跪いて先の話題を持ち出す。
「ああ……どのくらい強いんだ?」
玉座に腰掛けて跪いた人……ヒトではないが……を相手にすると、自然と態度が大きくなってくる。中卒は調子に乗りやすいのだ。
「はい。まず魔力でございますが……魔力について説明は必要でしょうか?」
「頼む」
何も知らない俺は「受けられる説明は全て受ける」というスタンスを取ることにした。聞くはなんとかのなんとかだ。詳しくは知らないが確か聞けることは全部聞いとけ、みたいな意味だったと思う。中卒なのでそこら辺は曖昧なまま通してきた。
「では……魔力とは、この世界の生き物であれば全てが持っております生命エネルギーとでも言うべきものでございます。生きている限りは身体の内から溢れてきますが、死にますとそれきり、身体に残った魔力が全てでございます」
「それがあると何が出来るんだ?」
「魔力を身体の外に出すことで、原理的にはあらゆることが可能です。火を起こす、風を操る、怪我を治すなど、それはもうあらゆることに使えますが、制限がございます」
「制限?」
「蓄えられる魔力、時間当たりの湧き出る魔力の量、また一度に体外に出せる魔力の量には生命それぞれに差があります。しかし訓練や神々の加護によりそれらはある程度改善されます」
「へぇ……」
聞き入っていた俺にアンクは少し怯えたような顔になりながら進言する。
「魔王様の蓄えておられます魔力の量は本当に底無しといったものでございます……また湧き出る魔力も凄まじく…………申し訳ございません。先程より魔王様より溢れて参ります魔力に当てられ少々気分が……」
「そんなに強いのか!?」
「はい……ですので、可能でしたら魔力を体内にお収めください……ウゥップ!!」
と言われてもどうしたら良いのか分からない。魔力なんて操ったことがないし。
よく分からないけど、垂れ流しになってるのを封じ込めればいいんだからとりあえず……気を引き締める感じ?
きゅっと力むと、アンクの顔色が目に見えて良くなる。と言っても肌が黒いから表情が良くなっただけだが。
「有難く存じます……」
「お、おお……?」
気を引き締めると、急に身体に温かいものが巡る感覚に襲われた。力が湧いてくるってこんな感じなのかも。
「温かい……」
呟くと、アンクはそれを拾う。
「それが魔力でございます。……それを手の平に集め、球体をイメージしてみてください」
言われたままイメージする。身体を巡る温かいものを手の平に集め、球体を想像する。
すると手の平に黒い球体が現れた。驚いたが、なんとなくこの球体が自分由来だと分かるので動揺とまではいかなかった。
「おお!これが魔王様のお力!なんと力強く美しい……」
勝手に、大袈裟に感動しているアンクに少し引いた。
キラッキラの目に見られるのは流石に少し恥ずかしいので話題を逸らす。
「と、ところで、勇者についてだが」
「あ、は、はい!」
我に戻ったアンクは勢いよく後ずさり、最初よりも深く跪いた。
「勇者の力は現在の魔王様に敵うべくもございません。ですので、ここは先手を打ち、勇者候補を殲滅致しましょう」
「なんで?」
俺の口から出た三文字に驚愕して顔を上げ目を見開くアンク。完全に思考が止まっているらしいので続ける。
「勇者を殺す理由が、俺にはない。これだけの力があれば勇者候補と言わずとも、充分育った勇者を一人見せしめに殺せばいいはずだ。正当防衛にもなるしな」
正直、進んで人殺しはしたくない。いくら俺らを殺しにくると言っても、何も全員殺すこともないと思う。必要なだけ殺せば良い。
しかしアンクはその考えが理解出来なかったらしく、先よりも大きな声で主張してくる。
「しかし、魔王様!奴らは憎むべき勇者!学歴と知識を振りかざし我々を見下し、挙句殺そうとまでするのです!」
前言撤回、やっぱ殺す。学歴厨死すべし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます