第3話 魔王一年生

目を覚ますと俺は見知らぬ場所にいた。


「魔王様」


声がして振り向くとそこには化け物がいた。思わず叫ぶ。


「ひぃぃぃいいい!!!化け物ぉぉおおお!!!」


俺は小便こそ漏らさなかったが、思いっきり後ずさり頭を抱えて丸くなった。身体はガクガク震えていた。

それを見て化け物が近づいてくる。


「ひぃぃいいいいいい!!!食わないで!!!嫌だああああああああああ!!!!」


「落ち着いてください魔王様!危害は加えませぬ!」


危害は加えないという言葉と、化け物のひれ伏す態度に少しだけ落ち着き、改めて化け物を見る。

改めて見ると化け物の形はヒトに似ていた。ただ背中には大きな翼があり、頭には角が生え、皮膚は黒く所々赤い線が走っている。

化け物はその赤い瞳を俺に向け、恭しくひざまづいた。


「失礼致しました、魔王様。私は魔界序列一位、紅魔族のアンクと申します」


色々と理解が追いつかないが、俺が魔王様と呼ばれており、この化け物もといアンクが俺を何故か敬っているのは分かった。この異様な状況を理解は出来ずとも受け入れることが出来たのは、一度死んでいる故の余裕からだろう。


「……ほんとうに食べませんよね?」


「魔王様にそのようなことは致しませぬ」


少しずつ安心してくる。身体の震えは止まった。だがまだ化け物を直視すると寒気がする。


「魔王様、転生したばかりで何か分からぬことなどございましたら、何なりと私に」


その言葉で俺は思い出す。俺は死んで、転生させられたのだ。しかしまだこの状況が理解できず、夢でも見ているようだった。


「…………俺、本当に死んだんスよね……?」


我ながら訳のわからない質問が飛び出たと思う。しかしアンクは落ち着き払ったまま答えた。


「はい。魔王様は一度死んでございます。しかし私の配下におります閻魔の裁量により魔王様はこの世界に転生致したのでございます」


俺は中卒だけど彼の言ってることくらいは分かる。しかし腑に落ちないことがある。


「……なんで俺なんすか?」


「……魔王様は転生前の世において勉学に努めておられなかったとか……」


クソ、ここでも学歴煽りか。やめてくれ。ほんと。辛い。


「し、しかし!だからこそ!魔王という強大な力を宿す存在に転生出来たのでございます!」


俺の苛立ちを感じ取ったのか、アンクが慌てておだててくる。良いよもう。こちとら学歴煽りには慣れてんだ。


「本来であれば転生に伴い前世の記憶は全て忘却せねばなりませぬ。しかし強大な力を授けながらの転生ではそれが不可能なのです。故に、転生先で前世の知識を基に行動せぬよう、勉学に秀でていなかったものを選ばねばならなかったのでございます」


ちょっと分かってきた。中卒でもラノベくらいは読める。

つまりは知識チート対策だ。

でも「強大な力」とやらを与えたらあんまり意味がない気がする。


少し落ち着いてきたので立ち上がり、アンクに近づいてみる。寒気はもうしなくなっていた。


「こちらをご覧ください」


そう言ってアンクが取り出したのは水晶玉。


「……? 見るったって、何を…………!?」


水晶玉には映像が映し出されていた。沢山の人間が何かをしている。


「……何してんすか、これ」


「これは魔法学校高等院の現在の風景にございます。つまりは勉強にございます。」


高等院……高校か。しかしこの映像……中卒の俺には結構辛いんだぜ、こういうの。見てるだけでも「過ごせなかった青春」ってやつが心臓を締め付けてくるんだ。


「そして今映っております生徒全てが、魔王様が倒すべき勇者候補でございます」


は?

勇者?なにそれ?いや俺が「魔王様」とか呼ばれてた時点でなんとなく分かってたけど、これ全員候補なの?多くね?ざっと500人くらいいるんだけど。


「勇者候補、多くないっすかね……?」


ゲームとかだと勇者って一人じゃん。


「全員が勇者となるわけではございません」


そうだよね、選抜されて一人の勇者が……


「この内200人が勇者となります」


いや多いって。絶対。

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