第2話 死者一年生
死んだ俺は白い川を泳いでいた。
「これが三途の川か〜……」
しばらく泳いでいると岸が見えた。角の生えた赤い鬼が「上がれ」と棒を差し出してくれた。死んでる以上もう驚くことはない。
「あざっす」
鬼は目を見開いていた。
「随分若いな。それに泳いでくる奴は久しぶりに見た。ここに来る奴はもう泳げない程ヨボヨボになってるか、泳げない程赤ん坊か、そうじゃなきゃ『泳ぎたくない』って駄々こねる奴ばっかりだ」
多分最後のは自殺した人だろう。折角死んだのにもう苦労なんてしたくはないんだろう。
「そんじゃここは暇なんすね。あっちの船着き場はクソ程忙しそうっすけど」
「まーそういうこったな」
川から上がった俺は右手にある船着き場を見た。そこには沢山の死者……見た目は生きている時とそう変わらない……がひしめき合っていた。それを赤青黄色三色の鬼が誘導しているのだが、どう見ても鬼が足りていない。介護が必要なレベルのジジババに加え赤ん坊、無気力な若者まで相手にしなければいけないのだ。労働内容だけ見たらブラックなんてレベルじゃない。
「さてと、逝きますか」
少し先に見える城のような建物。あれが閻魔城ってやつだろう。あそこできっと俺は生前の罪を裁かれるのだろう。中卒でもそれくらい分かるのだ。昔読んだ絵本に描いてあったからな。
閻魔城までは案外あっという間だった。死んでるから疲れを感じないのもあるのだろう。
閻魔城に入ってすぐ目の前にいるこのでっかい鬼の大将みたいなのが多分閻魔様だ。
ただまぁ偉そうにしてるが、結局のところやってることは役所の受付みたいなもんだし、多分そんなに偉くない。
目が死んでるのを見るに、ここはかなりブラックな環境のようだ。ブラックな職場というのは本当にキツい。中卒は雇ってもらえるところは大体ろくなところじゃないので、閻魔様の気持ちが痛いほど分かる。
職場との巡り合わせは運が大きいしな。死者が言うのも変な気がするが、南無。
「次は貴様か」
閻魔様に声をかけられる。威風堂々、結構なことで。しかしライン作業みたいなものなのに一人一人の扱いが雑じゃないのは流石にプロか。
「あ、そっすね」
応えながら、少し不安になってきた。
俺は真面目に生きてない。良いこともそんなにしていない。
地獄に落ちたらどうしよう。痛いのは嫌だ。
そんなことを考えていると、閻魔様が少し悩んでいるようだということに気付く。
「うーむ……こやつなら適任か……?」
なんかぶつぶつ言っている。
痺れを切らした俺が閻魔様に一言言おうとすると、
「貴様は転生せい。ちと特殊だから転生忘却の理からは外れるが、よいな」
転生?あー、そういうタイプの地獄もあるって聞いたな。地獄行きは決定かぁ。でも転生忘却の理ってなんだろう。中卒だから分からない。
俺が呆けていると鬼が両脇を抱えてきた。
「ほれ、行くぞ。どうせ断るこたぁできねんだ。さっさと"生"け」
「転生忘却の理ってなんだろう……」
俺は終ぞ転生忘却の理について考えながら、転生した。
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