弟殺し3
「この前鷲次郎ちゃんに会ったよ」
そうイサムくんは言った。鷲次郎とは私の弟の名である。聞けばイサムくんはドラッグストアでバイトをしていてそこに鷲次郎は来たのだった。ドラッグストアはH町にあった。H町は山の中にあって山の中はニュータウンで麓もH町だった。町長はキノコを栽培していて私は以前に会ったことがある。小柄で眼鏡をかけていた。選挙協力を求めてきたが確かそのときは落選した。私は当時組合に勤めていた。大して会員はいなかったがそれでも選挙とは藁にもすがりたいのだろう。誰かが
「あいつはキノコばっかりだから」
と陰口を言っていた。スーパーマリオみたいだなとそのときは思った。山のてっぺんにセイユウがあってその道をくだっていくと春道という居酒屋があってそこで新年会か総会があってそこで「キノコばがりだ」と聞いた。町長はいなかった。それはすでに町長でなくなったという意味ではなく物理的にいなかった。町長は選挙以来姿を消した。というか選挙のときにしかいなかった。「キノコばがりだ」と言ったのは畳屋だった。畳屋は顔が長くて日焼けして前歯が一本なかった。畳屋は比較的いい人だった。悪いのは鉄骨屋だった。鉄骨屋は酔っぱらって私に絡んだ。
「加藤を殺したのはお前だろ」
と言われた。また殺人である。加藤とは鷲次郎ではない。加藤さんは自殺である。クローゼットで首を吊ったのである。私はしまったと思った。H町は加藤さんが生前懇意にした支部で正月にはいっしょに旅行に行く仲だった。酔っ払った加藤さんはバスに立ちションをしたと言った。私は
「あははーなに言ってんですかー」
と長そうとしたが鉄骨屋は尚もからんでくる。酔っ払う前に一度お酌すれば良かったと思った。職人はそういうのを根に持つのである。
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