第16話

 気がついたとき、翔はとっくの昔に自分は死んでしまったのだと思っていた。

 目の前は相変わらず闇の包まれ、物音もなく、体は細い柱にかろうじて引っ掛かっている。

 翔はしっかりと目を見開いたが、それは無駄なことだった。代わりに腕を四方に伸ばす。穴の幅は非常に狭く、曲げた両ひじを伸ばして突っ掛かるくらいの広さ。一体自分が何に引っ掛かっているのか知ろうと、その柱に触れた。

 柱は平たく冷たかった。

 どうも剣が狭い穴に引っ掛かって、運よく自分を支えているらしい。上向きになったのが、剣の平のほうでよかったと、翔は安堵した。

 それにしても、ここから先、どうすればいいのだろうと、翔は考えあぐねた。下手をすれば、またあんな不愉快な思いをせねばならなくなる。

 翔は両足を伸ばし、縦穴がどういう角度で下に向いているのか調べた。急な勾配ではない。と言っても歩いて降りられるような代物でもない。剣が十分自分を支えている。翔は息をつめて体を尻のほうへずらしていく。尻が壁に当たったところで、ゆっくりと上体を起こし、剣に馬乗りになった。

 このとき、翔は必死だった。

 足を突っ張らせ、土の壁に押し付けた背中とで、自力で壁にすがりついた。今度は斜めに埋もれた剣をあいている両手で外しにかかった。うえに向けて引くと、剣は簡単に抜けた。

 さて剣も取れた。これからどうしよう。

 翔は頭を抱えたが、他にどうしようもないので、少しずつ落ちながら、どこへいくかわからない穴を降りていくことに決めた。いつまで降り続ければいいのかといいかげんうんざりしてきたとき、したに向けて降ろしていた剣先に手ごたえを感じた。剣にすがりながら翔は足を降ろし、本当に自分が地面に立っているかどうか確かめた。

 穴はなだらかに横にのびており、それは一方通行だった。

 不思議なことに、透がいなくても翔はひどい不安にかられたりはしなかった。漠然としたマヒ感が心を覆っていて、翔を守っているようだった。右手にしっかりと絡み付き、一種のミサンガのようになっている赤毛をほのかに暖かいと感じた。

 これも魔法? 

 こんな事態になると、ホァロウは知っていたのか。

 剣をつえ代わりにして、翔は鼻先から真っすぐに続く闇の道を進むことにした。

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