第10話
翌朝早く翔とホァロウは起き出すと、身支度を整え、つれだって階下へ降りていった。
透が不機嫌そうにボヤボヤ言っているあいだに、翔とホァロウは食事をすませ、馬を手に入れようというホァロウの提案を支持した翔とふたりで、さっさと出掛けてしまった。
低血圧で朝はどうしても目が覚めず、すんなり起きた今日は、透にとってはっきりいって珍しいくらいだった。
透は意外にまともだったイモがゆをスプーンでつつきながら、ちびちびとなめては周囲に目を配っていた。
村人は無口で、遠巻きに透の様子を伺っている。
その瞳の虹彩は縦にひらき、猫の目のようだった。肌や髪の色は白人のように薄い色をしていて、他に別段自分たちと違うように思われるところはなかった。
昨日は受け入れるというよりも、流されてきたという感じだったので、何とも言えない居心地の悪さも気付かずにすんだが、ひとり取り残されてこうして食事を取っていると、鳥肌が立つような不自然さを感じずにはいられなかった。生唾を飲み込み、透は勢いよく立ち上がると、バタバタとふたりのあとを追って、宿屋から出て行った。
ふたりは宿屋からそう離れていない馬舎で既に三頭ほど選んでいた。
透の姿を認めて、翔がうれしげに招いた。
「透! 馬だよ!」
それは馬というより鹿に似ていた。体格は馬と同等、ひづめでなく、前後三本の指を持っている。先が丸くなった爪は非常にきれいだった。
「俺たち、金がないんだけど」
今ごろ気付いたのか、翔は気まずい表情になって、おずおずとホァロウを見た。
「宿屋も払ったんだから、これも同じこと」
彼は屈託なく、腰の革袋をジャラジャラいわせた。
すっかりホァロウになついてしまった翔を透はうらめしげに眺めた。
「そういやリリックは?」
辺りを探るように見回して透がたずねた。
「あぁ、お仕事さ」
それですべて説明できたつもりなのか、ホァロウは馬主に支払いについてうんぬん言いあいはじめた。
「いい人だね」
翔はにこやかにホァロウをながめてつぶやいた。
気前がいいところは認めてやろう。透は「はいはい」と生返事すると、宿屋の部屋へ荷物を取りに帰った。そのうしろを翔もついていった。
学ランを着込み、一息つくと翔はベッドに腰掛けた。
裸の両手剣を抱え、翔はつぶやいた。
「透、六道さん、無事でいるかな? 怖い思い、してないかな……どんなヤツか知らないけど、六道さんにひどいことしたら、ぼく、ホント、なにするかわからない」
思い詰めたように両目を見開いて、剣の平の曇りを見つめている翔の顔は真剣そのものだった。
透には沙那子がイシュカにどんな目に合わされているのか、今一つピンと来なかった。しかし、翔を不安がらせないために言った。
「そんときは俺も仕返ししてやるから、安心しろよ」
その言葉に翔は笑った。
しばらくして、ホァロウがふたりを呼びにやってきた。
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