第3話
透が驚いて息を飲む瞬間、地鳴りは止み、二人は荒野に立っていた。
都会のホコリ臭い排気ガスではない、乾いた土の匂いのする風が、二人の頬を打つ。
翔はおそるおそる目を開けた。
「すげー……」
透はメガネをはずし、風に乱れる前髪を手で押さえて、遠くを透かし見た。透は自分のスタイルのためにだてメガネを愛用していた。メガネを学ランの胸ポケットにしまう。
目の前どころか、四方八方に、まるで、西部劇のような景色が広がっていた。
「ここ……どこ……?」
翔は不安げにつぶやいた。
「うわっ、すげェ笑える。俺、カバンまだもってるじゃん」
透は翔に自分の学生カバンを見せながら、明るく笑い出す。
翔は自分もカバンをもっていることに気付き、つられて軽く笑った。
「これ……夢、じゃないよね?」
「そーなるかな?」
透は周囲を見巡らして答える。
水晶はなかった。
黒のタカというダークエルフもいなかった。
二人きりだった。
翔が空を見上げると、二つの太陽が重なり合って輝いていた。落ちてきそうに大きな白い惑星が空にのしかかっている。
ほんとにマシュなんとかっていう世界に来たのかな……翔は茫然と考え込んだ。
「おい、いつまでつったってる気なんだよ。どうでもいいけど、これからどーするのか、決めよーぜ」
透ははげますように、翔の頼りない背中を思い切りどついた。
翔はそんな透をうらやましげに見つめた。
「でも、西も東も分からないじゃないか。どうするって言ったって、ここがどこかもよくわからないのに」
「あー、だー! 翔、全ッ然、分かってないなー! ここはなー、なーんでも用意されてる俺たちの世界じゃないんだぜ? サバイバルなんだよ!! ここも、どこも、もう、関係ないんだよ! 生きていかなきゃいけないんだよ! 夢やったら都合よく目も覚めるだろーけど、もしも、ほんとにここに俺たちいるんだったら、生きる努力をしないといけないだろーが!」
「強いんだなー……透は……」
翔の表情が陰る。
「強いよ……透は……ぼくなんか、気が動転して、なんにも分かんないのに、生きるとか、サバイバルとか……ぼくには向いてないんだよ」
透は顔をしかめる。自分だって不安でないわけがなかった。今ここで自分が不安げな顔をしていれば、この弱々しい友人があっという間にパニックに襲われることくらいはわかっていた。
それで、わざと怒っているみたいにどならないといけない気がしたのだ。
「なにがむいてないんだよッ!! おまえなー、こういうとき向いてる向いてないとか、グチってる場合じゃないだろ! しっかりしろよっ! おまえがしっかりしないから、俺がしっかりするしかないんじゃないか! そんぐらい、分かれよッ!!」
そう言い放つと、透はスタスタと歩き出した。
突然、透が薄気味悪い声で笑い出した。
「ウッヘッヘッヘッ」
翔はあわててついていく。
「なんか、分かったの」
「ジャアーン」
カバンのなかから、透が取り出したのは、方位磁石付きのサバイバルセットだった。
「あ……ソレ、中学の修学旅行ンとき、京都で買ったヤツ?」
透がそんなものをもっていたことなど、翔はいまのいままですっかり忘れてしまっていた。
透はコクンとうなずき、自信マンマンで方位磁石を見た。
「あーッ!?」
「なに?」
方位磁石を見つめる透の表情が凍りつき、ビシビシひびが入っていく。
方位磁石の針は、グルグルと回り続けていた。
「うそだ……なんでそんなふうになるの……!?」
透は力なくクタクタとひざまずいた。
わけのわからない荒野に放り出され、頼りにしていた透がガックリと肩を落としているのを見て、翔はいたたまれない気分に駆られた。
自分ではどうしようもなく、翔はオロオロとしていたが、ふいに辺りに吹き荒れる風のなかの一筋の旋風が一瞬涼しく感じたように思えた。無意識に四方から吹き付けてくる風に五感を開き、さっきの涼しい風がどこから吹いたきたか、もう一度探った。
翔は目をひらいた。つかんだ!
「透、こっち、こっち行こ。こっちに多分水があると思うし」
透はいぶかしげな目で翔を見上げるが、黙って翔についていった。
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