重い想い (狂愛、残酷描写)

「アナタはワタシのもの♡」の男子目線になります。

一部残酷描写があります。

ソフト表現にはなっておりますが、苦手な方はご注意ください。


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 ずっと愛おしかったはずの彼女が、いつの間にか重くて仕方がなくなった。

 いつからだろう、守りたいと思っていたカノジョに恐怖心を抱くようになったのは。


               *****


~ピロンッ


 今日の講義が終わると同時に、俺の携帯が鳴った。


「げっ……」

「なになに? 例の"カノジョ"?」

「そー。見ろよ、これ」


 画面を見るなり露骨に顔をしかめた俺に、友人が声をかけてくる。

 その表情は好奇心を隠せていない。まぁ、それにのって彼に携帯を見せる俺も俺だけど。


「うおぉ、"お疲れ様♡ 私、今日は同じ講義がなくて残念。早く会いたいね、大好き♡" だってよ! 愛されてんな」

「お前、読み上げんなよ」


 俺は茶化すコイツから携帯を受け取る。


「……別れ切り出したのに、こんなメールが毎日届くんだよ。いい加減ウザイわ」

「カノジョちゃんは別れたつもりはないんじゃねぇの? ちゃんとケリつけないと、ストーカーされるぞ?」

「あー……、それは嫌だ。文面じゃ納得してくれなくてこれだし」

「じゃ、もう直でいくんだな」

「気が乗らん」

「早いうちの方がいいぞ。後回しにすると悪化しそう」


友人の言葉を聞いて、俺は深く溜息をついた。


「……今日の授業終わったし、今から行ってくるわ」

「おーおー、頑張れ」


 緩い応援を受けて、俺は重い腰を上げた。


               *****


 大学から歩いて十五分。カノジョの住むアパートに着いた。

 ベージュの壁に白い柱。築一年ということで、綺麗かつデザインもお洒落である。


「はぁ……」


 その建物の前で、今日何度目か分からな溜息をつく。

目指す部屋は二階。

白い階段を上っていくが、足が重たくてしょうがない。


 とうとう目的の部屋の前。

きっと中にいるだろうな。


 ……くそだるい。

 俺はしばらく立ち尽くすと、意を決してインターホンを押した。


「はぁい」


 案の定、カノジョの透き通った声が聞こえる。

そしてドアが開いた。


「待ってたよ」


 カノジョは俺の顔を見るなり、柔らかく微笑んだ。


 色白で細い腕。力強く抱き締めたら、折れてしまいそうな華奢な体。

 あんなに愛おしかったのに。今では何も感じない。


「さ、中に入って」


 促された俺は中へ入る。

この選択が大きな間違いになるとは知らずに。


 カノジョの部屋は相変わらずだった。

 カーテンは閉め切っており、ローテーブルには大学の参考書とレポート用紙。

文房具だって出しっぱなしだ。

ボールペンやシャーペンはもちろん、カッターの刃まで出たまま。

 そして床に散らかる空カンやカップ麺の空。

 ……相変わらず、だ。


 冷静になった俺は、


「別れよう」


何度切り出したか分からない、終わりの言葉を告げた。


「ん? なんで?」


 間髪入れずに聞いてくる。


「何でって……」

「……外、寒かったでしょ? いつもみたいに紅茶淹れるから、その辺座ってよ」

「いや、そういうつもりで来てないし。それに座れる状態じゃないし」


 俺の言葉にカノジョは視線を下に向けた。


「でも歩く所、座る所くらい見付けられるよ?」

「あのな、俺、お前に別れ話しに来たんだけど」

「うん。なんで別れる必要があるの?」

「えっ」


――――そうだ、コレだ。

 出掛けている時とかたまに見せる、何を考えているのか分からない光の消えた瞳。

視線はどこへ向いているのか分からない、大きく開かれた黒い瞳。


「私たち、毎日大学で顔合わせるし、連絡もいつもしてるし? 休みの日だってよく旅行に行くじゃん?」

「……顔合わせるのは、同じ講義とってるからだし、連絡はお前から一方的。旅行とかデート行ったのも、もう三ヶ月前じゃん。俺、もう冷めてるのに気付かないの?」


 カノジョの顔から目を逸らしてそう言うと、


「気付いてないのはアナタでしょ? ワタシはこんなに好きなのに」


"何を言っているの"と言わんばかりの返事が返ってくる。


「お前……とにかく重いんだよ」

「ううん、そんなことないよ。……アナタだって同じ気持ちでしょ? 分かってるよ」

「そこが重いんだって!」

「嘘つき。ワタシが気付かせてあげる」

「えっ、お前っ――」


 噛み合わない討論の末、カノジョはローテーブルのカッターに手を出すと、それを俺の左胸に突き刺した。


「っっ――」


 唐突すぎて反応が遅れた。

 痛みは鈍く、何が起こったのかすら分からない。

そこへ手をやると、ぬるっとした感触を感じた。


「ほら、こんなに鮮やかな赤だよ。これでワタシへの愛が証明されたね。アナタにも愛、見えたでしょ?」


 カノジョは満面の笑みを浮かべる。


――――狂ってやがる。


「おまっ――ゴホッ」


 力なくその場へ座り込むと、口からも血液が溢れてきた。


「わぁ、言葉にならない愛が口からも! 嬉しい、こんなに想っててくれたなんて!」


 俺が最後に見たのは、カノジョの狂気に満ちた笑みだった。



            *****



 目を開くと、白い天井が見えた。

それと、薬品の匂い。

 状況を把握しようとして顔を動かしたところで点滴が視界に入ってくる。管を目線で辿ると、それは俺の腕へと繋がっていた。


「……! 具合はどう?」


 ガラッと開いた病室の扉の方を向くと、そこには母さんがいた。


「あれ……どうして……?」

「あなた、女の子の部屋で倒れてたの。物音に気が付いた隣部屋の人が血を流してる二人を見て、救急車を呼んでくれて」

「……そうだったのか。俺、生きてる……」


 あまりのショックでさっきまでのことすら思い出せないでいたが、母さんの言葉でゆっくりと蘇ってくる。


 携帯画面を見ると、日付は変わってなくて時間だけが進んでいた。

ベッドから見える外はもう真っ暗。夜を迎えていた。


「そうよ、良かった……。凶器のカッターは、あばら骨の所で止まったから、内臓に傷はないって先生が言っていたわよ。明後日の午後には退院できるそう」


 安堵の表情を浮かべる母さん。


「うん、本当に良かった……」


 俺は小さく呟いた。

 あとでアイツに連絡しよう。"お見舞い持って来い"って。


「でも怖いわね、心中しようだなんて」

 

 その言葉に耳を疑った。刺されたのは俺だけじゃないのか?

 ……そうだ、さっきも"血を流してる二人"って言ってた。


「どうゆうこと?」

「……あの子、あなたの彼女さん? あの子は大量出血で――――――」


 俺はどうやら、自由になった様だ。

 

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