冷めていく熱の行方

 沈黙が重い。そう感じているのは、きっと私だけじゃない。

 部屋のソファで隣に座るのは、付き合って三年目の彼氏。同棲してもうすぐ六ヶ月になる。

 意味もなくついているテレビ。そこに映し出されているのは、場違いなバラエティ番組。


――――全く笑えない。


 横目で彼を見ると、テレビではなく下を向いていた。

何だか思い詰めている様な表情で。


――――私達もそろそろ潮時なのかな。


 なんてことを思い始める。別に嫌いになった訳ではない。

だけど久しぶりに休みが重なった今日でさえ、交わす言葉がないんだもの。


 同棲し始めた頃は楽しかった。今までは週に一回しか会えなかったのが、毎日この部屋で彼を出迎えることができる。

 もちろん、私も働いているから、残業で遅くなる日もあったけど、そんな時は彼が出迎えてくれたり。本当に楽しくて、大袈裟だけど幸せだった。


 でも、それと同時にどこかへ一緒に出掛けることは少なくなっていった。

お互い仕事が忙しくて、会わない日も増える。減っていく会話。喧嘩することすらなくなっていった。


――――重症。……こうならない自信、あったんだけど。


 頭の中で、今と思い出が比較され虚しい気持ちになった。

一人感傷に浸っていると、


「あのさ」


彼が口を開く。


 "別れ話?"

 即座にそう思った。


 そして告げられた言葉。


「……今度の休み空いてる? 京都行ってゆっくりしよう」


想像すらしていなかったもの。


「え……?」

「ほら、最近じゃ前みたいに遠出してなかったし。折角同じ部屋で暮らしてんのに、喋んないとか、寂しいし」

「……っ」


 私は彼の気持ちも聞かず、"もう終わりだ"と勝手に思い込んでいた。

彼からの誘いで、幸福感と申し訳なさが混ざり合っていく。


「休み……空いてる。行く」

「良かった。泊まりだからな? 俺、旅館とっとくから」

「でも、どうして京都?」


 疑問を投げかける私に、彼は躊躇なく言った。


「だって、俺らが最初に旅行行った場所じゃんか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る