ラムネ、空色、君想う。

羊乃和月

淡い恋物語

 私はずっと、君の隣にいたんだけどな。

 それに気づかない君は、遠くへいってしまう。


「なぁ! オレ、あの子に告白してくるっ」

「はぁ」


 少し日陰になっている、学校の中庭にある木の下。

 放課後、私はそこで小説を読むのが日課になっている。


 今日もいつものようにここに居たら、幼馴染のコイツがいきなりやって来て、突然そんなことを宣言してきた。

 今から帰ろうと、昇降口から出てきたあの子を指さしながら。


「はいはい、あの子の話はタコが出来るほど聞いたからね。思いっ切り当たってくれば」


 読みかけの本を閉じ返事をする私は、彼の方を向かなかった。いや、向けなかった。

 視界には、何度も読んだ小説。


「応援しててくれよ!」

「んー」

「それじゃ行ってくる!」


 言うが早いか、彼女の元へ駆けて行く。その様子を見て、私は溜息をついた。


「……ずっと好きだったんだけどな」


 彼はあの子の前に立つと、拳を握る。顔は真っ赤だ。

 驚いた表情の彼女。

 彼の口が動く。ここに声は届かない。

あの子の表情が柔らかい笑顔に変わり、彼の手をとった。戸惑いと驚きと喜びが混ざり合った表情をする彼。

 微笑み合う2人。


 ――――あ。

 私の心が色を失っていく。

 

「ハハッ――――……つらっ」


 手元にある小説に視線を落とす。

 大好きな淡く綺麗な恋物語。この結末はハッピーエンド。

 この主人公のように勇気を出して言えばよかった。

 私は油断して、気が付いたときには手遅れだった。彼は他の子を想っていた。察してほしい、なんて都合のいい話だ。


 ふとポケットの携帯電話が震える。

"ありがとう"

 彼からのメッセージに尚更胸が痛くなった。

 私は、"おめ"と、たった2文字を送信する。そして画面を閉じた。


「————バカ。……好き」


 静かに呟いて、一粒の大きな涙が頬を伝った。



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