決定
議場にいた全員に、はてなマークが浮かぶ。
なぜ、ボォイ大臣はバナナの皮を被っているのだ? そのあり得ない事象に、目が釘付けになる。
だが、当の本人は、どこか吹っ切れたように、何やら自信の満ち満ちた表情を浮かべている。
「いや、遅れて申し訳ない」
「……っ」
ファサっと。汗だくの初老老人は、バナナの皮をたなびかせる。
「ん? どうしましたかな、皆様」
「い、いえ。早く、席に座ってください」
アウラ秘書官が、戸惑いながらも着席を促す。
「それで……どこまで話しましたかな?」
なんとか状況を整理しようとするが、全員がボォイ大臣の頭をチラ見している。もちろん、それどころではない。
個人の外見など、どうでもいいし、ましてや、帝国の行末さえ決まる重要な事案だ。
「「「「「……」」」」」
……だけど、気になる。
「コホン……ま、魔杖
モルドド秘書官が、助け舟を出すかのように、話を元に引き戻す。
「ククク……それ、本気でおっしゃってます?」
ボォイ大臣は、嘲ったように鼻で笑う。
「……と言いますと?」
「失礼ですが、あなたはリアム皇子、デリクテール皇子派閥の陣営ですよね?」
「それがどうかしましたか?」
「魔杖
「……っ」
「どうかされましたか?」
「い、いえ失礼しました。そ、それは、あなた方にも同じことが言えるでしょう」
モルドド秘書官はチラッと視線を外しながら答える。
「クク……ククク……まあ、そうなりますな。ですが、我々は圧倒的な多数派ですから、それこそが『帝国の意向』と言えなくもないでしょう? ねえ」
「えっ……あの……」
ボォイ大臣は、バナナの皮を被りながら、隣であんぐりと口を開いている商工省副大臣のリンドーアに向かって笑いかける。
「歯切れがよくないですなぁ。しかし、それは公然とした事実でしょう。我々は多数派であるが故に、帝国の意志に、より近い立場にある。おわかりですか?」
「……」
「だいたい、魔杖
「もちろんです。先ほど説明しましたが、先に起こった反帝国連合国との戦いで、帝国が大いに出遅れたことは公然とした事実だ」
「だから、ヘーゼン=ハイムに頼る……と?」
「……っ」
突然、ボォイ大臣は立ち上がり、机をダンと叩いて激しく頭を揺らす。モルドド秘書官は、ビクッと、若干慄く。
「果たして、それでいいのですか、皆様!」
ボォイ大臣は、激しく首を振り、議場の全員を見渡しながら、大声で語りかける。
そして、
「「「「「……」」」」」
誰もが、バナナの皮が落ちないかどうかを気にする。
「ん? どうしたんですかな?」
「「「「「……」」」」」
誰も、何も答えない。
「ああ、もしかして、ヘーゼン=ハイムが言ったあの妄言が気になってるんですか? 『私がヅラである』などという、くだらない噂……いや、根も葉もない誹謗中傷を」
「「「「「……」」」」」
誰も、何も答えない中。ボォイ大臣はバナナの皮の一枚をピローンと裏見せしながら、満面な笑顔を浮かべる。
「見ての通りです。これが、真実です」
「「「「「……」」」」」
受け取り方が、難しいと、議場の全員が思う。
「ちょっと、引っ張ってみますか?」
ボォイ大臣が、隣に座っているマンシー大臣に提案する。
「えっ!? いや、私はいいです! 遠慮します!」
「そ、そんなこと言わないでくださいよ。ぜひ」
「ひっ……いえ、本当に私は……」
「いいから、早く」
「は、はい」
渋りまくるマンシー大臣が根負けし、ソーッとバナナの皮を摘んで、ソーッと上にあげる。
だが。
「それじゃわからないでしょう? もっと、グイッと。グイッといっちゃってください」
「……っ」
シンと議場が鎮まり返る中、マンシー大臣は目を瞑ってバナナの皮をギューンと引き抜く。
だが。
「はははははっ! ほら、取れないでしょう?」
「「「「……」」」」
いや、なんで、取れないのー、と議場にいる全員が思う。
「わかりますか、みなさん。こんな卑劣な嘘をつく人物を、果たして信頼しろと?」
「「「「「……」」」」」
ボォイ大臣は、ダンダンと机を叩いて強い口調で語りかける。その漲るエネルギーは近年稀に見るほど気合が入っていた。
そして。
緩急をつけた口調で、多彩な表情で聴衆に向かって、真っ直ぐな瞳を向ける。
「へーゼン=ハイムの狡猾な手です。私を陥れるために、あのような言われなき、根拠のない、嘘八百を並び立てたのです」
「「「「……」」」」
「……誰が信じるのです?」
ボォイ大臣は、議場にいる全員に優しく尋ねる。そして、アヒル口をしながら首をすくめ、おどけたように両手のひらを上にかざすポーズをする。
「皆様、目を覚ましてください。へーゼン=ハイムは、自身の欲望のために、息を吐くように嘘をつく。あなた方が、自身のその目で、しっかりと真実を……誰が嘘をついているか、見極めねばなりません」
「「「「「……」」」」」
議場の全員は、誰も何も言わない。
だが。
ボォイ大臣は、なおも情熱を持って熱弁を振るう。
「あなた方は、根も歯もない卑劣な嘘を流布したあの輩を信じますか?」
「「「「「……」」」」」
「それとも……嘘偽りのない、ここにいる、ありのままの私を信じますか?」
「「「「「……」」」」」
「私からは、以上です」
ボォイ大臣以外の満場一致で、魔杖
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