選択
その言葉を放った瞬間。
「「「「「……っ」」」」
ほとんどの者が、ヘーゼン=ハイムに対し猛烈な敵意が向ける。この場は、エヴィルダース皇子派閥の会議で、ボォイ大臣のような超既得権益を持つ者の集まりだ。
挑戦など、邪魔以外の何物でもない。
だが。
「わかった。エヴィルダース皇子に報告し、問題がなければ他の派閥にも意見を聞こう」
「……っ」
アウラ秘書官は、それがまるで当然かのように頷く。
「あ、あ、あなた、正気ですか!?」
ボォイ大臣が怒りで顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
「我々は、今、2択の選択肢を迫られています。魔杖
「そ、そんなもの後者に決まってるではないですか!? こんな平民出身の下級内政官の言うことなどーー」
「それでは、皇帝陛下同席の公開裁判をやりますか?」
「……んん」
それは、マズい。
今までの経緯を鑑みれば、へーゼン=ハイムが総務省で理不尽な扱いを受けていたことは明白だ。加えて、厳格な皇帝レイバースは、この帝国の繁栄を鑑みないリィゼン長官の行動に酷く憤りを覚えるだろう。
そして……総務省を管轄しているボォイ大臣自身もかなり責められるだろう。
「……しかし、エヴィルダース皇子が、この提案を通すとは思えませんな」
商工省を管轄する大臣バチェ=ラーがつぶやく。
「ですから、お話しをして納得をされなければこの話はそこで終わりです」
「……」
ボォイ大臣は、アウラ秘書官をジッと見つめる。この男……何を考えている? エヴィルダース皇子は、自身が皇帝になること以外は興味のない男だ。
結果として、『否決』されることへ誘導をしている?
「へーゼン=ハイム……君もそれでいいか?」
「わかりました」
黒髪の青年は、キッパリと答える。
「も、もし、エヴィルダース皇子が『問題あり』と見なせば、あきらめるんだろうな?」
「いえ。その時は皇帝陛下同席の公開裁判をやります」
!?
「き、ききき貴様っ!? 話が違うではないか!」
「勝手にあなたがそう解釈をしただけでしょう? 当然、洗いざらい全部ぶち撒けますよ」
「なっ……っちょ……」
それもマンズい。
「後者の場合は魔杖
「……っ」
どっちに転んでも、自分が有利になる選択肢ではない。
「まあ、皇帝陛下は理性的な方なので、直接叱責はされないでしょうが、エヴィルダース皇子には厳しく当たるでしょうな」
「くっ……」
そうだ。それが、非常にマズいのだ。
確かに、皇帝レイバースの怒りの矛先は、ことあるごとにトップだ。そして……そのトップへの叱責が、今は相当にヤバい。
「最近のエヴィルダース皇子は、かなり気性が荒いと聞きますので……ボォイ大臣、殺されないといいんですがね」
「……っ」
お前のせいだろうが。
だが、大いにあり得る。あの方、情緒がかなり不安定で、ことあるごとに、不穏な噂が聞こえてくる。
巷の噂では、自身の邸宅内の執事を全員斬り殺したとか。憂さ晴らしに、平民街に出て辻斬り紛いの虐殺を行なっているだとか。
とにかく、かなり危険な情緒だ。
「……くっ」
だが、それでも利権は手放せない。貴族は、先祖代々の利権をどう手放さないかがマストになる。仮に自分の代でそうなれば、子々孫々から後ろ指を指される。
どうすればいい……どうすれば……
そんな中、アウラ秘書官が口を開く。
「だが、エヴィルダース皇子が君の献策を通し、他の派閥との話し合いで否決された場合は、皇帝陛下の公開裁判もあきらめてもらうぞ」
「……そうですね。納得はいかないが、帝国としてキチンと手順を踏んだ決断だ。それに関して、どうのこうの言うつもりはありません」
「……」
んそれだ! ボォイ大臣はジメっと湿った金髪をクルクルとしながら、心の中でほくそ笑む。
帝国の主要派閥は、依然としてエヴィルダース皇子派閥の超名門が多数を占めている。また、反ヘーゼン=ハイムの貴族たちは他の派閥にも多くいる。
多数決において、圧倒的にこちらが有利だ。
「ボォイ大臣もそれでいいですか?」
「……ゴホン。まあ、致し方ないですな」
この男、さすがはエヴィルダース皇子の腹心だけあって、なかなかわかっている。ヘーゼン=ハイムの提案を通すと見せかけて、最終的な否決を狙っているのだ。
……借りができたと言うのが、気に入らないが。
「では、お願いします。今後の帝国にとって、非常に重要な決断になり得ますので」
「わかった。それで、話は以上か?」
「そうですね……後は、前者が通った場合の仮定になりますが、地位を次官補佐官に各上げしてもらえると」
「なっ……」
この男、『前の地位に戻せ』と言うばかりか、階級の昇格まで。
「当然だろうな。これだけの抜本的な改革案を通せば、出世をしない方がおかしい」
「……っ」
アウラ秘書官が即答で答える。
「……」
まあ、いい。あとは、他の派閥も含めて、反ヘーゼン=ハイム票を固めれば、承認する余地などはない。
仮にリアム皇子、デリクテール皇子派閥が反対しても、問題がない。
エヴィルダース皇子は、あくまで提案を議論の俎上にあげるだけ。後は、体よく揉み自身の派閥で否決させればいいだけだ。
「クク……」
ボォイ大臣はニヤリとほくそ笑む。この男は、派閥の論理を軽く見ている。所詮は、平民出身で貴族の複雑に絡み合った利害など理解ができないのだろう。
「結果が楽しみだな」
勝ち誇ったようにそう言うと。
ヘーゼン=ハイムもまた、爽やかな笑顔を浮かべる。
「ええ……楽しみですね」
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