命
「……」
「……」
・・・
「あんはぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
数秒ほどの沈黙を経て。ボォイ大臣は、反射的に頭を抑え、次の瞬間、ハッと我に返って手を離す。
一方で、へーゼンの方は、すでに淡々と話を続ける。
「では、本題に行かせて頂きますねーー」
「さぅうえいぃいいい! ちょっと待てえええええっ! さっきの言葉……さっきの言葉を訂正しろーーーーーーーーーーーーーっ!?」
「ああ……ズレてたのは気のせいかもしれませんね。失礼しました、訂正します」
「……っ」
あまりにも、失礼が過ぎ過ぎる。軽過ぎる。そして、もう、色々と手遅れ過ぎる。更に、『気のせい』であったとしたら、もう、本当に最悪過ぎる。
「いや、申し訳ありませんね。私は神経質過ぎて、整形とか、人工の髪の毛が載っていたら、どうにも気になってしまいまして。どうぞお気になさらず」
「……っ」
申し訳なさ過ぎる。
そして。
その言葉を気にしまくっている金髪サラサラヘア(ヅラ)の老人は、顔を林檎のように真っ赤にしながら黒髪の青年を凄む。
「き、きききき貴様どういうつもりだ!? 何を企んでいる!?」
「……あの」
「なんだ!? 今更、中途半端な弁明などーー」
「本題を話して、よろしいですか?」
!?
「い、い、いい訳がないだろう! いい訳がないだろこのハゲーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
「ハゲはあなたでしょう」
「……っ」
「「「「「「「……っ」」」」」」」
た、確かに、とその場の全員が思った。
「そんなに気にされてるんだったら、『みんなの前で言ってみろ』なんて言わなきゃよかったじゃないですか。私も、こうして人の外見をどうこう言うのは、本意じゃありませんし」
「はっ……くっ……」
吐きそう。猛烈な怒りで、吐きそうになる。
「そもそも、別にヅラだっていいじゃないですか。人は、色々とコンプレックスを抱えて生きていくもの。むしろ、個性の1つと捉えて肯定的に生きていくのが大事かと思いますよ?」
「……っ」
クソ正論。ここに来て、なんのクソの役にも立たない正論を羅列してくる。
「んのっやっ……はっ、いえ……その……皆様」
一方で。
出席者の注目に気づいたボォィ大臣は、彼らを安心させようと、自身の金髪サラサラヘアを、フェザータッチで、ソッと、ファサっとする。
「嘘だ嘘だ嘘だ! み、皆様……私は、地毛です、ホラ! 100%中の100%、地毛です!」
「いや、それは違いますよ」
「……っ」
へーゼン=ハイムは、キッパリと答える。
「ボォイ大臣の髪は人工です。俗称『ヅラ』です。それについては、確信中の確信を持ってます。間違いないです」
「はっん……のやろっ……」
言葉が、猛烈に強過ぎる。
「こ、こ、これがお前のやり方か!? 私を貶めようとそんな戯言の流布をーー」
「では、賭けましょうか? 『ボォイ大臣がヅラであるか否か』……私は、命賭けます」
「「「「「「……っ」」」」」」
恐らく、大陸で最も高値で懸賞金がかかるであろうへーゼン=ハイムの命。反帝国連合国のトップ級も、帝国にいるほとんどの貴族も、喉から手が出るほど欲しているへーゼン=ハイムの命。大陸で最も恨みを買い、殺したいと願ってやまないヘーゼン=ハイムの命。
それを、こんなことで、躊躇なく賭けた。
「しかし、私も命を賭けさせてもらうので、徹底的な公正性は確保してもらいたいですね。審査員は星読みにお願いします」
「「「「「「……っ」」」」」」
ん絶対に無理。
なんたる、星読みの無駄遣い。
「……はぁ。確かに、星読みに審査を委託する制度はあるにはある。だが、そもそも有名無実化されている制度だし、そもそも厳格な手続きも費用もかかる」
アウラ秘書官は、大きくため息をついて答える。
「せっかくの制度ですから、使ってしまいましょうよ。私も『嘘つき』呼ばわりされたのでは、納得がいかない。それに、毎年、莫大な予算を組み、余ったら大臣、副大臣の宴会の金に消えている、実質的な飲み会積立でしょ……まあ、余計なお世話だと思いますが」
「「「「「「……っ」」」」」」
クソ余計なお世話。
喋れば喋るほど切り込んでいく。
「……その件については、来年度から廃止の方向性で進んでいる。他にも無駄な予算については、削減方向で動いている」
「さすがはアウラ秘書官ですね。ですが、今年度は余っているでしょう?」
「そ、それはそうだが、君が退けばいいだけの話じゃないのかな?」
「いえ。そういう訳にはいきません」
「た、たとえ、君の発言が本当だとしても、本人が隠したいのだから、ソッとしておくのが社会人のマナーじゃないのかね?」
「でしたら、嘘つき呼ばわりした発言も同時に訂正いただかないといけません。私はこれまで『嘘をつかない』という信条を掲げて生きてきましたから。そして、これまでも『嘘をつかない』と行動を縛ることで、自身の言葉に重みを持たせてます。だから、それが証明されるまでは絶対に退きません」
「くっ……」
キッパリ。
断固とした、キ○ガイ。
「ボォイ大臣。あなたも自身の言葉に偽りがないのなら、賭けられますよね……命」
「ん……っこ……しゅっ……き……」
口に泡を吹きながら狼狽する金髪サラサラヘア老人(ヅラ)に、へーゼンはニッコリと笑みを浮かべる。
「さて……どうします? ヅラであることを認めてくださるのでしたら、もちろん、命は賭けなくていいですよ?」
「こ、ころっ……きさっ……ん」
「「「「「「……」」」」」」」
この2人のやり取りに。
その場にいる大臣、副大臣たちは、『どうでもいい』と全員がそう思っていた。
ボォイ大臣の髪がヅラだろうと、ヅラじゃなかろうと、彼に対する態度が変わるわけではない。いつも通り接するし、口が裂けてもこの件に触れる訳にもいかない。
「「「「「「……」」」」」」」
だけど……気になる。
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