なんで?


 数日後。


「なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんでえええええええええええええええええええええっ!?」

「……」


 リィゼン長官は、声を枯らしながら徹夜でフォーブス次官をガン詰めしていた。一方で、半日前から、フォーブス次官は耳を塞いだまま動かなくなっていた。


 途中から。


 まるで、オウムのように繰り返し繰り返し、言葉を連呼するようになった……ただ、破滅のストレスから逃避するだけのために。


 そんな中。


 トントントン。


「なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんーー」

「アウラ様の副官レイラクです。入ります」

「……っ」


 瞬間、リィゼン長官は、油ぎった前髪の塊をブルンと動かし、恐る恐る視線をドアの方に向ける。


 一方で、部屋に入ってきたレイラクは、明らかに侮蔑の表情を彼らに向ける。


「連絡がなかったので、調べさせてもらいました。それにしても、呆れますな。よくも、まあここまで滅茶苦茶にしたもんですね」

「あっ……そ……」


 ガクガクガクッと、リィゼン長官は前髪の塊を震わせる。


「アウラ秘書官から『緊急で連行しろ』と指示がありました。すぐに、来ていただきます」

「そ……ボォイ大臣は……あの方はなんと?」

「もちろん、同意してます」

「……っ」


          ・・・


 数時間後、大臣、副大臣たちが並ぶ中で、リィゼン長官とフォーブス次官は直立不動で立たされていた。


 その場にいる全員が、刺すような視線で、彼らを見つめる。そんな中、アウラ秘書官だけが無表情で、淡々と報告書を見ながら話す。


「魔杖組合ギルドとの交渉は決裂し、関係は最悪レベルにまで悪化。加えて、魔力蓄積解明チームのメンバーを全員辞職に追い込んだ」

「しょ……しょ……しょれぇはぁ……」


 リィゼン長官は、脂ぎった汗をダラダラとかきながらつぶやく。


「果ては、虚偽報告と現チームへのデータ改竄指示ですか。ここまで来ると、もはや、犯罪レベルですね」


 アウラ秘書官は冷徹な声でつぶやく。


「いや、元々、私のせいじゃないんです! 前担当のラゴラスがーー」

「言い訳はいい。すでに、調査報告書も証拠もまとまっているんだ。言い逃れはできんぞ?」


 商工省大臣のバチェ=ラーは、厳しい表情でつぶやく。


「本当に厄介なことをしてくれたものだ。ノクタール国から紅蓮ぐれんも買えないので、いったい、どうしたものか」


 冷たい言葉でそう言い放つと。


「いや、本当にマズイですよね?」「どう挽回したものか……」「なんで、そんなことになるのか。管理とかそういう問題か?」「いや、意味が不明だな。なんでこんなことやったんだ?」「なんで?」「なんで?」「なんで?」「なんで?」「なんで?」


「なんで?」

「……っ」


 口々に。まるで、追い詰めた鼠を痛ぶる子どものように、大臣、副大臣たちは叩き始める。


「わ……私のせいじゃ……」


 そんな中。


 リィゼン長官が声をあげて、跪いて弁明する。


「私のせいじゃないんです。ほ、ほ、本当なんです! 私が総務省に来た時には、すでにこの有様で……どうしようもなかったんです。どうか……どうか……」


 リィゼン長官は、大袈裟に身振り手振りを交えながら、震える声を振り絞る。


「私のせいじゃない……本当です……私のせいじゃ……私のせいじゃ……私のせいじゃないんです……私の……私のせいじゃ……」

「「「「「……」」」」」


 もはや、全員が呆れ果て、誰もが乾いた笑みで侮蔑の表情を浮かべる。


 それでも、リィゼン長官は、前髪の塊を下に垂らしながら、ブツブツとその言葉を連呼する。


「……ふぅ。リィゼン長官」


 アウラ秘書官は、深くため息をつく。


「なぜ、そんな当たり前のことを言うのですか?」

「あ……たり……ま……え?」

「自身の失態じゃないことを対処するのが、我々の仕事じゃないですか。ド新人じゃないんですから」

「……っ」

「なので『自分のせいではない』というのは、なんの弁明にもなりませんから、もう結構です。まあ、状況から見るに、あなたの失態であることは明白なので、なおさら呆れてしまうのですが」


 その声は冷たく、向ける視線は鋭かった。


「あ……い……」


 リィゼン長官は、涙を溜めながらボォイ大臣の方を見つめる。だが、金髪サラサラヘアの老人は、知らん顔で鏡を見ながら髪の毛を整えている。


「後に処分が決まると思いますが、後任の人事を決めなければいけませんな」


 アウラ秘書官が大臣、副大臣たちに向かって話す。


「ボォイ大臣も、それでいいですか?」

「……もちろぉん」


 金髪サラサラヘアの老人は、満面の笑みでつぶやく。そして、そんな彼をリィゼン長官は、懇願するような涙目を浮かべる。


「ん? リィゼン長官。まだ、何か言いたいことがあるのかね?」


 ボォイ大臣は、立ち上がって首を傾げて尋ねる。


「が……い……」

「んん? なんだい?」

「……ぃ……ぇ……かっ……ぷぅ……」


 まるで、金魚のように口をパクパクとするリィゼン長官だったが、言葉が全然出てこない。


 そして。


「何も……ありません」


 か細い声で、なんとかそれだけを吐いた。


「そうか。じゃ、私からは1つだけ……なんで?」

「……え?」


 リィゼン長官は思わず聞き返す。


「私は君に言ったよね? 『魔力蓄積解明機能は、帝国の最重要課題だから全力を尽くすように』って。それなのに、なんで、それをやらなかったの?」

「……ええ?」


 リィゼン長官は再び聞き返す。


「君には、ほとほと呆れたね。せめて、ヘーゼン=ハイムにでも泣きながら土下座でもしてくればいい。そうすれば、彼も紅蓮ぐれんを恵んでくれるかもしれないだろう?」


 皮肉な笑みを浮かべて言うと、周囲から同調の笑い声が聞こえる。


「……」


 アウラ秘書官が目をつぶって、何かを口にしようとした時。





























「失礼します。下級内政官のへーゼン=ハイムですが、入ってよろしいでしょうか?」

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