アーナルド=アップ

           *


「うっ……ふぅん……ふぅん……ふぅん……うっ……ふぅん……ふぅん」


 遡ること3ヶ月前。ミクリシアン皇子は、筆頭秘書官のパコル=ドブルマ、第2秘書官のアンチー=ノアソコとともに、深くローブを被りながら、息を潜めながら、しかし、呼吸を荒げながら、あたりを見渡してながら歩く。


「ほ、本当に大丈夫なのかぁん? は、皇族だぞぉん?」

「間違いございませんー。こ・の・わ・た・し・がぁー! 自信を持って信頼をしているコーディネーターですぅー」


 先導している農務大臣のウマルコ=ビッジが、酔っ払いながら、語尾を伸ばしながら、胸を叩きながら、千鳥足で歩く。


 到着したのは、帝都歓楽街。いろどりのある光が煌びやかに瞬くその場所は、ありとあらゆる欲望がひしめき合っている。


「……おっぐぅん」


 ミクリシアン皇子は、喉を鳴らしゴクリと唾を飲み込んだ。


 かつて、エヴィルダース皇太子の高級妓婦を調達していたのは、ブギョーナ秘書官だった。あの男は、非常に気が利く男で、定期的にをミクシリアン皇子にも提供していた。


 だが、ブギョーナ秘書官が失脚してから、高級妓婦を上納される機会もなかった。


 天空宮殿における、ミクシリアン皇子の影響力はかなり少ない。


 イルナス皇子を率先してからかい、苛め、痛ぶることでエヴィルダース皇太子の歓心を買っていたが故、お情けでおこぼれを得ていたに過ぎなかった中年巨漢皇子に、以降、女が献上されるはずもなかった。


 そんな中、受けた帝都歓楽街の誘い。


 皇族が、天空宮殿の外の下界自体に降りることは滅多にない。ましてや、帝都歓楽街などは厳しく禁じられている。


 ウマルコ大臣と仲良くなったのは、先日の皇帝レイバースの生誕祭であった。上質なワインに舌鼓を打ちながら繰り出される煌びやかな性活の話は、悶々としながら過ごしているミクリシアン皇子には、至極蠱惑的に映った。


「……ふぅううううぅん」


 満を辞して、今日は記念すべき帝都歓楽街デビューの日だ。皇族だとバレないかと言う不安が、えも言われぬ高揚をより引き立たせる。


 そんな中。


「ふざけるな! 俺を誰だと思っている!? 私は、アノ家のケッノだぞいやむしろケッノ=アノだぞ!?」


 煌びやかな妓館の前に立つ護衛の胸ぐらを掴みながら、上級貴族がギャンギャンと叫んでいる。そして、困り果てた衛兵の元に、1人の支配人らしき男が中から出て来た。


「何事でしょうか?」

「あ、アーナルド=アップ! お前、この護衛をなんとかしろ! 私を誰だと思っている!? 総務省次官のケッノ=アヌだぞいやむしろケッノ=アヌだぞ!?」

「申し訳ありません。ここは、少なくとも大師だおすー以上の爵位、もしくは、副大臣級以上限定の方のみのご入店になります」


 アーナルドと呼ばれた男は、深々とお辞儀をする。


「ふ、副大臣以上」

「ケッノ=アヌ様は次官級……条件を満たしていませんね。出世後にまたお待ちしております」

「ふざけるな! 歓楽街の平民の分際でいやむしろ歓楽街の平民の分際でーー」

「はしたいないな。やめたまえ」

「ぐえっ……ひぎゃあああああああああっ!」


 そんな中、もう一人の帝国将官が、ケッノの奥襟を掴み、投げ飛ばす。


 総務省副大臣のギボルグ=ガイナである。


「申し訳ありませんな。私の部下が」

「し、疾風のギボルグぅん」


 反帝国連合国の戦で、未曾有の活躍を示した帝国将官だ。その功積で、一気に副大臣級、そして、大師だおすーの爵位にまで駆け上がった傑物が、なぜこんなところに。


「お待ちしておりました、ギボルグ副大臣」

「すまないな。スマートさの欠片もない私の部下が」

「いえ。まったく問題ございません」

「ふっ……フルオプガン盛りパックで頼むーーっと」


 そんな視線に気づいたのか、中年男は後ろを振り返る。


「おや? 奇遇ですな、ウンマルコ大臣。と……そちらは……っ」


 ギボルグは、深くフードを被っているミクシリアン皇子の顔を覗き込み深々とお辞儀をする。


「これは、大変失礼しました。まさか、あなたのような高貴な方がここにいらっしゃるとは」

「……っ、戯れに誘われたに過ぎぅん!?」


 ミクリシアン皇子は、巨大な顔を真っ赤にする。


「戯れ……戯れですか」


 クスッと。


 アーナルドと名乗る男は、ほくそ笑む。


「な、な、なにがおかしぃん!?」

「帝都歓楽街において、1つだけご忠告を。戯れるならば、本気で戯れなさいませ。そうされるのであれば、至高かつ究極の快楽をお約束しますよ」

「……おっぐぅん」


 ミクリシアン皇子は、喉を鳴らしゴクリと唾を飲み込んだ。


「この店とこの男のことは、私が命を賭けて保証致しますよ」


 ギボルグは、胸をドンと叩いて太鼓判を押す。やがて、ミクリシアン皇子はアーナルドに向かってボソッとつぶやくわ、


「……頼む」

「フルオプガン盛りパックで、ございますね。かしこまりました」


 アーナルドは、爽やかな笑みを浮かべてミクリシアン皇子とウンマルコ大臣、ギボルグ副大臣を先導する。


「……」


 数分後、ミクリシアン皇子は変わった形状の紙パンツのみを装着した状態で立っていた。


「……」


 なんの変哲もない殺風景な部屋だ。そこに、アーナルドが1人、入ってくる。


「お待たせいたしました」

「んふっ……さて、どのような趣向でを楽しませてくれるのだ?」

「フフッ。これです」


 アーナルドは、手のひらを差し出す。


「手?」

「そうです」

「はっ! バカな」


 ミクシリアン皇子は、勝ち誇ったように鼻で笑った。まさか、手だけなんて。これが、帝都歓楽街随一の店? ビビって損をした。


「手などぉん。小細工、児戯も甚だしいぃん。早く女だぁん! いい女をだせぇん!」

「そうですか? しかし、人は手という器具どうぐで、あらゆるものを表現してきました」

「……あ?」

「手と手を合わせれば、いただきます。感謝の意を表す。小指同士を結べば約束だ。手とは、言わば神が人にもたらした最高の贈り物ギフトと言っていい」

「……貴様、皇族であるに説教しようと言うのかぁん! さっさとーー」


 !?


「はぁ……んん……ぐぅん!?」


 突然。


 ミクシリアン皇子の身体に異変が走った。雷のような衝撃がひた走る。振り返ると、キツめのブサイクがいつの間にか地面にしゃがんでいた。


「……んん……っこっん!?」


 いなかった。


 突如として、キツめのブサイクが現れたのだ。


 さっきまで、確かにミクリシアン皇子とアーナルドの2人きりだった。やって来た、のではなく、現れたのだ。


 そして。


「こんのぉ……はあああああああああんっ」


 ち、力がまったく入らない。抵抗しようと思っても、力がまったく。それも、そのはず。すでに、彼のお尻には、人差し指と人差し指が、これ以上ないくらい侵食していたからだ。


「ちょ……まっ……えええええええん!?」


 なんとか、もがこうとするが、ストップをかけようとするが、ゴリゴリと体内に入っていく指が、ミクシリアン皇子に抵抗を許さない。


 そんな中。


「あっ……ふぁええええええええええぇん!?」


 頭に優しい手のひらが乗る。振り返ると、そこには、微笑む熟年女性がいた。ミクシミリアン皇子の母親くらいの年頃だろうか。


 肛門をグリグリされて、ふにゃふにゃな不可思議な動きをしているにもかかわらず、彼女は彼の頭を優しく抱き、胸に包み込む。


「……っ」


 熟女かのじょの瞳には、1ミリの侮蔑も見当たらなかった。キツめのブサイクに肛門をグリグリされて、自分はどんなに情けない姿を晒しているだろう。


 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい。


 だが、そんな彼に対しても、彼女はまるで聖母のように、赤ちゃんをいだくように優しく優しく……優しく……


「はっ……はああああああああんっ」


 な、なんだこの包み込まれるような感覚は。


 一方で。


「ぐっ……ぐるぶひいいいいいいいいっ」


 ゴリゴリと。


 ぶっとい指と指が容赦なく体内に侵食をしてくる。振り返ると、恐ろしいほどのブサイクが『どうですか?』的な笑みを浮かべている。恐ろしい……まるで、悪魔のような微笑み。


 だが。


「あひゅえええええええ……んん!?」


 痛みが過ぎ去った時に、熟年女性が彼を包む。それは、痛みからの解放。そして、大いなる慈愛。やがて、それが脳天を突き抜けるような快楽へと変わりーー


 ミクリシアン皇子は、見事なアヘ顔へと導いた。



































「前門の聖母……後門のブサイク……あなたは、このギャップに耐えられるかな?」



【あとがき】

こんにちは! 花音小坂です。いつも、ギフト、応援、ご指摘、レビュー、コメント本当にありがとうございます。返信できない代わりに、この場でお礼を言わせてください!


 さて、こんなシリアスな場面で申し訳ありませんが、毎回恒例の宣伝でございます。本日6月6日に、ヤングエースUPにてコミック最新話がアップされます! あちらはモスさんが相変わらずモスしてます笑


 ぜひ応援ボタンを押して頂ければ作者歓喜でございます。


 今後とも何卒よろしくお願いします。

 



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