ヘーゼン=ハイム(13)
*
求めるのは、強さのみ。
生まれてから、それのみ志して生きてきた。
武に生き、武に死ねればいい。
強者と戦い、結果として負けて死すとも、それでもいいと思った。
だが、こんな……こんなものを望んじゃいなかった。こんななす術もない、惨めな敗北を……
崩壊していく身体を俯瞰で眺めながら、武聖クロードの意識は、溶けて消えていった。
*
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……はぁ……はぁ……」
ヘーゼンは、跡形もなく消滅した武聖クロードの方を見つめながら、激しく息をきらす。身体の全細胞が悲鳴をあげ、今にも倒れ込みたい衝動に駆られる。
短期間で、魔力を消費し過ぎた。
加えて。
魔杖『
「ぜぇ……ぜぇ……はぁ……はぁ……」
わかっている。ヘーゼン=ハイムに倒れることは許されない。武聖クロードを完全な
「ぜぇ……はぁ……はぁ……」
息を整えて、自分の魔力を確認する。相当に減少している。だが、相手は五聖。最強の一撃で葬る必要があった。
「戦い方は、要改善だな」
この著しい魔力消費では、どこまで継戦できるかがわからない。仮に、連戦になった時に対応できない可能性もある。
その時。
魔軍総統ギリシアが、目の前に姿を現す。顔は真っ青に青ざめ、血管は今にもはち切れそうだ。側には、活動を停止してピクピクしている魔戦士長オルリオがいた。
「……化け物」
冷たく震えた声が響く。先ほどまでの興奮した様子とは一変して、落ち着き払っている。
ヘーゼンは、真っ直ぐに見つめ、つぶやく。
「次は実体で会おう」
「……っ」
魔軍総統ギリシアの
故に、この場ではどう足掻いても消滅させることができない。
「ちょ、調子に乗らないことね、ヘーゼン=ハイム。この戦で、あなたの危険性は大陸中に伝わった。果たして帝国に、あなたの居場所はあるかしら?」
「……」
「いい?
「ルクセルア渓国の王城グラスリオ」
「……何を言っているの?」
成立しない会話に、神経質な男はイラだった様子で尋ねる。
「いや、だから。魔軍総統ギリシア……君の実体が保管されている場所だよ」
!?
「い、言っている意味がわからないわね」
「武聖クロードに言われなかったか? 君の嘘は
「……っ」
「気持ち悪いほど承認欲求の強い君が、12大国の中で国力の低めなルクセルア渓国に属しているのは、実体を人質として取られているから」
「違う」
「実際には、契約魔法に縛られた奴隷で、コキ使われるだけの存在。許されるのは、
「違う……違う……」
「12大国のトップ級を気取って
「違うって言ってるでしょおおおおおおおおおおおおおおおお!」
魔軍総統ギリシアは発狂したように叫ぶ。
「そうか、でも僕はそう確信しているよ」
「はっ……くっ……」
ニッコリと。
ヘーゼンは悪魔のような清々しい笑顔を浮かべる。
「もちろん、皇帝陛下に進言しておくよ。『まず、滅ぼすならルクセルア渓国を』とね」
「……っ」
「君の
「……あっ……ぼん……じゅ……」
魔軍総統ギリシアは、泡が吹きそうなほど口を開けて唸る。
「ルクセルア渓国は、対面を保つために君にトップ級の待遇を与えているのだろうが、帝国は……というか、僕は違うな」
「……あ……ぼん……じゅ……」
「君のような性根の腐ったクズは、掃き溜めのような陽の当たらない場所で、何も考えずに、ただ命令だけを黙って、忠実に遂行するだけの存在に教育してやらなければな……いい指導係がいるから、今度紹介するよ」
「……ら……らるっ……く……」
もはや、気絶しそうなほど白目を剥気ながら、こちらを睨みつけてくる。
「僕がルクセルア渓国に行くまでの間、せいぜい、残された奴隷ライフを楽しんでおくんだね……その後は、絶望しか待っていないから」
「……かっ……おっくううううううううううううううううううう!」
訳のわからない擬音を発しながら、魔軍総統ギリシアは魔戦士長オルリオを抱え逃げ去った。
「回収させてよかったのか?」
竜騎に乗ったラシードが駆け寄ってくる。
「本当は捕獲したかったが、仕方がないさ」
武聖クロードとの戦いに集中している最中で、そこまでの余裕は持てなかった。一瞬でも隙を見せれば、圧倒的な身体能力で、木っ端微塵にされてもおかしくはなかった。
「……まったく、とんでもないヤツだな」
「大勢も決したようだな」
竜騎兵5千が、反帝国連合軍を圧倒している。そして、魔軍総統ギリシアと魔戦士長オルリオの撤退。武聖クロードの消滅で、士気も大きく逆転した。
ここからの逆転はない。
ヘーゼンは、戦闘をしている兵たちに向かって、静かに語りかける。
「帝国軍の兵よ……聞こえるか?」
「勝利の凱歌をあげよ……
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