【小説３／１９発売＆コミック３／２８連載開始】平民出身の帝国将官、無能な貴族上官を蹂躙して成り上がる

ヤン（2）

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　海聖ザナクレスは、火だるまになっている船に、大量の砂を浮遊させ、ぶっかける。部分的な火災に関しては、それで消化することはできた。

　だが、一隻。

　炎孔雀（えんくじゃく）と氷竜（ひょうりゅう）の一撃は、船員ごと跡形もなく消し飛んだ。まったくもって、とんでもない威力だ。

「クソッタレ……なんで、グライドのクソ野郎がここに！」

　続けて消火を図りながら、かつてあの老人に手痛くやられた思い出が蘇る。かつて、イリス連合国を襲っていた時に、立ちはだかったのがやつの猛威だ。まさか、数十年ぶりにあの時の屈辱を思い出すことになるとは……

「せ、せ、せせせ船長！　あ、あれ」

「あー！？　なんだ、今、忙しっ……」

　突如として発生した炎孔雀（ほのおくじゃく）と氷竜（ひょうりゅう）が、それぞれ別の船に的中。沈んでいく。

「ばっ……なんでイキナリ！？」

　さっきまでは、無差別に火炎槍（かえんそう）と氷絶ノ剣（ひょうぜつのつるぎ）をぶっ放していていたのに。

　グライド将軍の幻影体（ファントム）を見ると、隣にはラージス伯が立っていた。

「あんの野郎っ！」

　火炎槍（かえんそう）と絶氷ノ剣（ぜっひょうのけん）から放たれる魔法に、空間移動をかけている。

　英聖アルフレッドと並び、やはり、支援能力では最強（チート）級か。

　加えて、グライド将軍との組み合わせが非常に凶悪だ。無尽蔵に放たれ続ける炎と氷の極大魔法。それにに対処し続けなければならないなんて。

「こりゃ……撤退も視野に入れないといけないかな」

　今回、海聖ザナクレクは、反帝国連合国から莫大な費用で雇われている。当然、仁義は重んじるが、それで部下が全滅するのでは話にならない。

「……」

　したたかな海賊王は、今後の身の振り方について考え始めた。

　　　　　　　　　　　＊

「はぁ……はぁ……もう一発行きます」

　グライド将軍が暴れ回る横で、ヤンが大きく息をきらす。

「にしても、地味に凄いな。炎孔雀（えんくじゃく）と氷竜（ひょうりゅう）の連発は」

「地味って言ったら可哀想！」

　ベルベッドが遠くから叫ぶが、ヤンもそれに被せる元気はない。

「ぜぇ……ぜぇ……機の読み方は、師（すー）から教わってます。遠慮なく、ドンドンぶつければ、少なくとも海賊船団はここから引き上げます」

「……」

　ラージス伯は、この少女の潜在能力（ポテンシャル）に恐れを抱く。息切れしている感じを見れば、グライド将軍の放つ魔法はヤンの魔力を使用している。にも関わらず、これだけ無尽蔵に使用して、身体に及ぼす影響がこの程度なんて。

「……凄いな」

　恐らくだが……魔力の内在量は、ジオラ伯をも凌ぐかもしれない。

　そんな風に推測される一方で。

　ヤンは、かなり、痩せ我慢をしていた。無理してた。実はもう、倒れ込む寸前で、すぐにでもグライド将軍の幻影体（ファントム）を消し去りたい。

　だが、へーゼンの教えの通り、強がった。

　戦闘中に弱味を見せてはいけない。

　それは、口頭だけではない。日々の彼の背中を見て過ごしてきたヤンが体感した経験則。言われずとも、身体に刻み込まれている技術だ。

　そんな中、砂漠の民たちがラーダに乗って、ヤンの元にやってきた。

「聖女様！」

「長老様！　お久しぶりです！」

　懐かしい顔が見えてきて、少し元気になってきた。彼らのためになら、もう少しだけ頑張れそうだ。

「おお……ワシなんかのことを覚えてくださったのですか？」

「もちろんです」

　ドクトリン領で彼らを飢えから救って以来、ヤンは聖女として崇め立てられていた。照れくさいことこの上ないが、何度やめてくれと言っても直してくれないので、あきらめて放置した。

「しかし、本当に不思議ですな。へーゼン様から、『成長して身長が伸びた』と聞いてましたが」

「エヘヘ。それよりも、どうしました？」

　今は絶賛戦争中だから、ワザワザ挨拶などは控えて欲しいのだが。

「あっ、そうでした。これを、聖女様に献上しようと思いまして」

　長老は、砂漠の民に指示をしてラーダが乗せていた１つの魔杖を差し出す。

「……これは？」

「雷轟月雨（らいごうげつう）です。かつて、食国レストラルの英雄である雷帝ライエルド＝リッツがこの魔杖で猛威を奮ったと聞きます」

「えっ？　食国レストラルって、西の国にあるところですよね？　なんで、それがこんなところに」

　いつだったか、ヘーゼンから話を聞いたことがある。雷帝ライエルドが今の食国レストラル建国の礎を築いたと。そんな者の魔杖ならば、食国レストラルが離すはずはない。

「それがワシも親父ーー先代の長老に聞いたんですが、朝起きたら突然、目の前にあったんだって言うんです」

「そ、そんなことあるんですか？」

　ヤンは目をまん丸にしながら驚く。

「元々雷帝ライエルドは、この砂漠の出身だったんだって。自分はヤツと幼馴染だったんだって、よく自慢してました」

「……」

　以前、夢で見ていた白髪の老人がライエルドだろう。なんとも不思議な昔話で、いまいち信憑性がわかない。

「だったら、なんとかこの魔杖で雨を降らせればよかったのに」

　ヤンは素直な疑問を口にする。以前、ドクトリン領では、何年も雨が降らずに、彼らが飢えに苦しんでいた。以前、見た幻視（ヴィジョン）では、雷帝ライエルドは、雷雲を呼び寄せ雨も降らせていた。

　この力を使えば、もっと多くの民が救えたはずだ。

「それが……この魔杖は少し特殊でして、どんな魔法使いであろうと反応すらしないのです」

「真なる理（ことわり）の魔杖じゃないのにですか？」

　ヤンの問いに、長老は深く頷く。

「……」

　雷帝ライエルド＝リッツは、グライド将軍以前に螺旋ノ理（らせんのことわり）を使用していた。真なる理（ことわり）の影響下にある魔杖だったから、今まで誰にも扱えなかったと言うことだろうか。

　そう言えば、火炎槍（かえんそう）も氷絶ノ剣（ひょうぜつのけん）も、ヤン以外では扱えないものになっていた。

「手にとって見てください」

「でも、誰にも扱えないんでしょう？」

「聖女様になら、扱えそうな気がするんです」

「……」

　ヤンは雷轟月雨（らいごうげつう）を手に触れる。

　即座に意識を失った。

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【あとがき】

　お疲れ様です！　花音小坂です！

　いつも読んで頂きありがとうございます！

　また、評価、レビュー、応援、そして、コメントくださる方、いつもいつもありがとうございます！　皆さんで盛り上がってたら嬉しいし、誤字脱字指摘は、作者の生命線ですし、手厳しい指摘も苦笑いしながら読ませてもらってます笑

　一つ一つ返せない代わりにこの場で感謝を言わせてください。

　一つ宣伝ですが、４／１１にヤングエースＵＰでコミック第２話がアップされます！　無料ですので、ぜひ読んでみてください！　応援ボタンを押していただくと、ランキングが上がりますので、ぜひぜひ、よろしくお願いします！

　戦闘シーンが迫力があり、非常に面白くなってます！　自分は、広く読まれることをモチベとする作家なので、今後の執筆継続のためにもぜひぜひよろしくお願いします！　少なくとも自分は満足してます！

　コミカライズに関しては、さまざまな意見頂戴しております。中には、手厳しいお声もいただいてますが、小説とコミカライズはやはり、同じ船に乗っているようなものだなと感じてます。

　小説が沈めば、コミックも沈み、コミックが沈めば小説が沈みます。自分の最終目標は、アニメ化もそうですが、１番はこのまま毎日投稿で最後まで書き切ることですので、皆さまも同じ船に乗っていただけると、これほど感謝できることはありません。

　そして、大前提として、私は本作の漫画家様に満足してますし、絵も上手く、これからドンドン上手になるのを楽しみにしてます。

　必要なのは、圧倒的なモチベ笑

　また、長くなってしまったな……

　次回はサラッと行きますね笑

（あんまりダラダラすると読後感が失われてしまうので）

　こんなダメ作者ですが、今後とも何卒よろしくお願いします！