到着

           *


 南部の砂漠。熱射が焼けるように注がれる中、帝国軍は、相当な劣勢を強いられていた。


 四伯のラージス=リグラは虚空ノ理こくうのことわりを駆使し、海聖ザナクレクと壮絶な死闘を繰り広げる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおりゃああああああああああああああっ!」

「くっ……」


 海賊王が振るうのは、特級宝珠の大業物『荒震者ノ烈斧あらぶるもののれつふ』である。3メートルを越すほどの巨体で、自身の倍以上の戦斧をぶん回す。


 ラージス伯は、空間移動を駆使して躱すが、ひたすら防戦を強いられている状態だ。


 一方で。


「ははははははははっ! どうした、狂剣!? もう、お終いかい?」

「はぁ……はぁ……はぁ……」


 凱国ケルローのダリセリア副団長が、マラサイ少将と副官ブラッドのコンビを圧倒し始める。もともと、満身創痍であったので、明らかに体力・魔力切れが発生している。


 さらに。


 この巨人のような海賊王は、荒震者ノ烈斧あらぶるもののれつふの重力操作で、海を制した最強の海賊船団を宙に浮かして引き連れてきた。


 歴戦の船員たちは、新兵器『魔砲弾』を次々と繰り出し、帝国兵たちを圧倒していく。


「……地味に不味いな」

「派手に不味過ぎるんですけど!?」


 ゴードン大将とともに戦っている副官のベルベッドが、遠くから叫びツッコむ。


 そんな彼らの相手は、蒼国ハルバニアの英雄、勇騎将ガーランドである。


「ええい!」


 ベルベッドが自身の魔杖『幻影ノ欠片げんえいのかけら』を発動させる。これは、対象の幻影ファントムを複数体創り出す効果を持つ。


「うおおおおおおおおおっ!」


 数体の幻影ファントムとともに、ゴードン大将が剣型の魔杖、獅子奮迅ししふんじんを繰り出す。


 だが。


「……ぐっ……はっ」


 勇騎将ガーランドの烈風ノ太刀れっぷうのたちが、彼の身体に深く深く突き刺さった。彼は、長時間に渡る戦闘の中で、実体と幻影ファントムの違いを見抜いたのだ。


「……っ、ゴードン大将」。


 ベルベッドは、勇騎将ガーランドに幻影ファントムを出現させ襲いかかる。


烈風陣れっぷうじん


 彼は一瞬にして、幻影ファントムを吹き飛ばし無残にかき消した。


「はわっ……はわわわわわわっ」

「……地味に惜しくないな」

「『地味に』って枕言葉入ります!?」


 ベルベットが涙目になりながら、ラージス伯を睨む。


「……仕方がない」


 ラージス伯は、単騎で海聖ザナクレクと勇騎将ガーランドを相手にする覚悟をした。


 その時。


「「「「「ぐああああああああああああああああああああああっ!」」」」」


 炎孔雀えんくじゃく氷竜ひょうりゅうが互いを交差するように飛翔し、浮遊する船を一隻沈没させた。


「な、なんだ!?」


 全員がそのとてつもない一撃に驚き、目を見張る。


 そこには。


「「「「「……っ」」」」


 イリス連合国の大将軍グライドが、黒髪の少女とともに立っていた。背後には千の竜騎兵たち。


 なぜ、死した救国の英雄がここに。


 誰もが呆気に取られる中、魔獣ラーダに乗った兵たちが、砂漠を縦横無尽に移動し、次々と紅蓮ぐれんを投じていく。


「「「「「ぐああああああああああああああああああああああっ!」」」」」


 凱国ケルローと蒼国ハルバニアの軍勢は、その爆風に巻き込まれて散り散りになっていく。その様子を眺めながらラージス伯は呆気に取られる。


「砂漠の民が……なぜ?」


 彼らは帝国を憎みすらしていた。当然、恩人であるヘーゼン=ハイムからの指示はあったが、それだけだ。戦闘行為については不干渉を続けていた。そんな彼らが、なぜ急に帝国の側についたのか。


「皆のもの! 聖女様が来なさった! 全力でお護りしろ!」


「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」」」」


「……聖女?」


 長老のような老人が叫び、誰しもがそれに呼応する。まるで、狂信者のような熱気を感じる。そして、彼らの視線の先には、グライド将軍……ではなく、黒髪の少女に向けられていた。


 そんな中。


 勇騎将ガーランドが、間髪入れずにラージス伯に襲いかかる。


 だが。


 烈風ノ太刀れっぷうのたちの斬撃を防いだのは、アウラ秘書官だった。


「くっ……」


 彼は、二対一体の魔杖『双蒼ノ剣そうそうのけん』を駆使し、勇騎将ガーランドと激しい攻防を繰り広げる。


「なぜ、このような所に!?」


 ラージス伯は、すぐさま彼の元へと空間移動し尋ねる。未だ、南部は持ち堪えている。実質的な帝国の総指揮官である彼が、自らここに足を運ぶなどとは夢にも思わなかった。


「それは後で言いますが、1つだけ言えることは……ヘーゼン=ハイムが北に向かってます」


 アウラ秘書官は、勇騎将ガーランドと対峙しながら答える。


「……なるほど」


 少ない言葉ながらも、大体理解した。おおよそ、ここに来られる目処がついたということなのだろう。


 そんな中。


「いいですか、おじいちゃん! あっちですからね! あっち! あ・っ・ち!」

「かっかっかっ……全方位若者狙い撃ちじゃ! 若者わかもんの未来を刈り取るのが人生の先輩たる者の勤めじゃと確信しとるんじゃ、ワシ」

鬼畜キチ老害過ぎる!?」

「……」


 黒髪の小娘がグライド将軍の幻影ファントムと言い合っているのを見ながら。


「なんですか、あれは?」

螺旋ノ理らせんのことわりを所持している娘です」

「……真なることわりを持つ者が現れたというのか」


 ラージス伯自身、同じく真なることわりを冠する魔杖の所有者の一人である。


「それが、厄介なことに、ヘーゼン=ハイムの弟子です」

「……」


 あの冷静沈着なアウラ秘書官が言うくらいだ、相当に危険な男なのだろう。面識はないが、噂には聞こえていた。


 ラージス伯自身も、副官のベルベッドを育てているが、甘えん坊の彼女に娘のように接して来たからか、まだまだ実力不足だ。その点、ヘーゼン=ハイムはテナ学院の運営も始めていると聞くが。



























「……地味に、あの男に預けてみるのもありかな」

「派手か地味かの尺度じゃない!?」


 副官のベルベッドは、遠くから叫ぶ。

 

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