道中
*
南部に向かう道中。千騎の竜騎兵は、援護に向かいひた走る。
その間、アウラ秘書官はヤンと綿密に打ち合わせをするが、話せば話すほど、その天才性に驚かされる。
加えて。
「ヤン……君が
中でも、
「そんなに珍しい魔杖なんですか?」
「ああ。あれは、ただの特級宝珠の大業物ではない。『真なる
「ん? なんですか、それ」
ヤンが不思議そうに尋ねる。
「
「なんか、パチ
「そ、そう言ってやるなよ。殺されるぞ」
基本的には、その威力は破格だ。使用者にそんなことを言った日には、激昂して襲い掛かられかねない。
ナチュラルに相手を挑発する危険な娘だと、アウラ秘書官は、どこかの誰かさんを思い浮かべる。
「真なる
「……あるとも言えるし、ないとも言えるな」
「どう言うことですか?」
「真なる
「それって、
「恐らくな」
報告によると、ヘーゼン=ハイムは、あらゆる魔杖を扱う訓練をしていたと聞く。学生時代から、大陸の常識を覆した修行を行なっていたことについては驚嘆以外の何物でもないが、真なる
「……」
もし、それができれば、化け物を超える。
「とは言え、他の大業物でも、真なる
「なるほど……」
軍神ミ・シルの
「……っと。話が逸れたな。とにかく、君が持つ
あまりにも無邪気に尋ねられるので、ついつい話し過ぎてしまった。
「でも、制御できないですよ」
ヤンはそう言って、グライド将軍の
「いいですか、グライド将軍! 戦場に着いたら、私の言うことをーー」
「カカカカカッ! 戦じゃ戦ー! 若い
「クソ老害過ぎる!?」
ヤンはガビーンとしながら、慌ててジジイの
「これですもの……」
「なるほどわからん!?」
アウラ秘書官がガビーンとした表情を浮かべる。
「基本的に老害ムーブですから。
「……その後、もの凄く涼しい顔をしていたが」
「敵に弱みを見せると、つけ込まれますからね」
「……」
やはり、ヘーゼン=ハイムの弟子なだけある。ところどころに抜け目のなさが垣間見える。
「では、どうする?」
「アウラ秘書官に頑張ってもらうしかないですね」
「……っ」
あっけらかんと。
帝国数本の指に入る実力者を、顎で使おうとする小娘。
「
「そ、そんなことはない。私など四伯には到底及ばない」
「大将級の実力はあるって聞きました。だったら、その実力を使わないともったいないじゃないですか」
「……っ」
めちゃくちゃ、顎で使おうとしてくる小娘。
「そりゃ私だって役に立ちたいから頑張りたいですけど、グライド将軍ってサポート向きじゃないんですよね。ラグさんは近距離専門ですし。私が竜騎兵を指揮して、アウラ秘書官に頑張っていただくしかありませんね」
「君は、今、相当に無茶なことを言ってるぞ!?」
アウラ秘書官は、あまりの無茶振りに驚愕な眼差しを向ける。彼自身、派閥に入ってから戦場には出ていない。なので実戦をするのは、数年ぶりだ。
それで、いきなり四伯のサポートをしろと言うのだから。
「……まあ、ヘーゼン=ハイムならば私が死ねば一石二丁だろうし、わからないでもないが」
そして、彼女はヤツの弟子だ。そのように誘導するのもある意味で自然だとも言えるが。
「そんなことないですよ。
「言ってることとやらせようとしてることが矛盾してるのだが!?」
「大丈夫ですよ。アウラ秘書官は死にません」
「……」
そのニパーっとした笑顔に、不思議な説得力を感じる。本当に不思議な子だ。
やがて。
アウラ秘書官は、フッと微笑み呟く。
「じゃ……その言葉を信じるとするかな」
「はい! 安心してください!」
「最悪、命だけあればなんとかするって
「……っ」
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