晩餐会


           *


 ゼルクサン領ミサス郡のダルゾネア城には、綺麗に彩った上級貴族たちが集まっていた。城主であるウーン=コスギが、その日、豪奢な晩餐会を開いていたからだ。


 彼は立ち並んでいる、ワインをグラスに注がせ、目を瞑りながら、少しだけ首を横に振る。


「うーん……この香り、素晴らしくマーベラス」

「お気に召していただきましたか?」


 帝国有数の豪商一族、ロッリフェラー家の次男ゴーザスがニコッと笑顔で尋ねた。


「ああ、さすがはロッリフェラー家だ。上流階級の好みを知り尽くしている。うーん……この味わい、紛れもなくビューリフォー」


 ロッリフェラー家は、帝国の天空宮殿内で絶大な影響力を持つ。主に帝都の近郊の商人は、ほぼ彼らの影響力下におり、魔杖組合ギルドなどの商業集団も彼ら中心に発足している。


「お気に召して頂けて、光栄です」

「いつも頼りにしている。おお、そうだ。今度、君のところの業物を、10ほど買わせてもらう」

「それは、嬉しい。ウーン様にのみ、特別なものをご用意しましょう」

「はっはっはっ! ぜひ頼む」


 最近、ゼルクサン領の上級貴族間で流行っているのは、互いの魔杖を競うことだ。その優美さ、どこの名工が作ったか、どのくらいの高値で落としたか。


 ロッリフェラー家は、そんな上級貴族たちの欲望をふんだんに満たしてくれる。


 そんな中。


 彼のお付きである下級貴族が、焦った表情を浮かべて近づき、耳打ちをする。


「ほ、本当に良いのですか? 今、北のエネオース城が、攻めこまれていると聞きましたが」

「なにを言っている? すでに、皆様は予定を入れてしまっているのだ。ご多忙の中、いらっしゃってくれたのだ。下賎で万年暇な下級貴族のお前には、わからぬと思うが、このメンツが揃うのは年に1度か2度なのだぞ?」

「……」

「ククッ」


 下級貴族の伝令は、屈辱に塗れ下を向く。ウーン=コスギは、この表情かおを見るのが好きだった。生まれながらにして、ついた圧倒的な身分差。


 これだから、下級貴族イビリはやめられない。


「し、しかし……ジョ=コウサイ様からも、支援の要請が出てますし」

「そんなことは知っている!? 盟友を私が裏切るとでも、思っているのか!」


 ウーン=コスギは、激昂して彼の胸ぐらを掴む。


「うぐっ……も、申し訳ありません」

「誰が行かないと言った? 今日の晩餐会が終われば、すぐさま向かうに決まっている。私は、貴様ら下級貴族のゴミどもと違い、義理堅く、情に厚いからな」

「……」

「さっさと行け。問題があれば、すべて貴様らで対処しろ。次、こちらに入ってきたら問答無用で処刑する」

「……わかりました」


 下級貴族の伝令は、悔しそうに歯を食いしばりながら、その場をトボトボと去って行く。


「クッ、クク……」

「どうかしましたかな?」


 招待された上級貴族の1人が、両手にワイングラスを持ち近づいてくる。


「いえ。無能な部下が、私に要らぬ気遣いをさせてきたので、追い払ったのですよ……あっ、もちろん下級貴族です」

「なるほど。まあ、下級貴族と言うのは、本当にどうしようもない者が多いですからな」

「いや、本当に。問題解決能力がないと言うのか、恐らく、生まれながらに知能が低いんですな。我々とは、もはや種族が違う」


 コスギ家は代々上級貴族家系が続く、いわゆる名門である。その意味で言うと、ヘーゼン=ハイムのような成り上がり貴族も、下級貴族と等しくゴミだ。


「確かに、あの男も品性と言うのが、まったく感じられませんからな」

「そこが、生まれながらにして上級貴族の我々と違うところですな。本当に浅ましく、下劣だ」

「ハハハハッ! 確かに。ところで、今年の我が土地の葡萄は本当にいいものが取れまして」


 そう言いながら、上級貴族は片方のワイングラスを手渡す。


「うーん……この芳しさ、感動的にデリシャリッシュ!」


 ウーン=コスギは、唸りながら、その甘美なひと時を楽しむ。


 それから、数時間ほどが経過した時。


 突然、大広間の扉が開く。上級貴族たちの視線が一斉に注がれる先には、あの忘れもしないヘーゼン=ハイムが立っていた。


「な、な、なぜ貴様がここに!? おい! 誰か! なんで、招いてもいないのにヤツがここにいるのだ!?」

「……」


 愕然とするウーン=コスギが叫び散らかす。だが、返事はない……恐らく、下級貴族どもが情報を誤ったのだろう。


 本当に仕方のないゴミだ。


「……」


 一方で、ヘーゼンは淡々と歩きながら、こちらに向かってくる。


「ふん……まあ、いい。今日は、この通り晩餐会だ。平民出身とは言え、貴様も上級貴族なのだからわかるだろう? 後日、あらためて正々堂々とした戦を申し込む」


 ウーン=コスギは、人差し指でヘーゼンの胸をツンとつつくーー


 バキッ。


 !?


「はっ……え゛え゛え゛え゛え゛っ!」


 鈍い音が響き、激痛が電流のように走る。ウーン=コスギが指を見ると、すでに形がバキバキに折れ曲がっていた。


「いっひぃ……ひぃ……き、きしゃま……どう言うつもりだ!?」

「……」


 地面に転げ回りながら、喘ぎ叫ぶウーン=コスギを無視して、ヘーゼンは次々と入ってくる兵たちに指示をする。


「食事を運び出し、南に行く。生ものや、そこに並べられているものは、手早くならば食べていい」


 そう言うと、兵たちもは歓喜の声をあげて次々と料理を食らっていく。


「はっ……げ、下品な! おひぃやめろ! その料理は、貴様ら下賎民が口にしていいものじゃ……あっおい! そのワインはブルゴニュー産で最高級のーー」


 ウーン=コスギがそう言いかけた時。


「そうか……腹が減ってるのか」


 ヘーゼンはボソッとつぶやき。


「はごっ!」


 すぐさまウーン=コスギの、両足を固定し頭をガン掴みした。


 そして。


「え゛っ゛! え゛っ゛! え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!?」


 ガキ……ゴギガギギギギギギッ!


 そのまま彼の尻まで強引に背中と首を曲げ、その口をあんぐりと開けさせて、彼自身のア⚪︎⚪︎にブチ込む。


「あんびゃあああああああああああああああっ!?」


 





















自分テメェの糞でも喰らってろ」


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