模擬戦


 ラスベル対地方将官のガルゾ、シャゼルの模擬戦。周囲からはどよめきが起こり、その場にいた地方将官たちも、特別クラスの生徒たちも、この戦いに注目する。


「他の方々も、腕に覚えがあれば、混ざってくれて構いませんよ」

「……」


 彼女がそう言うと、地方将官たちから若干の敵意が見て取れた。学生の若輩者が領主代行であることに、不満を感じ者も多いのだろう。


 実力を知らしめる、ちょうどいい機会だ。


 だが、地方将官たちは誰も前に出てこない。睨みつけるばかりで、大きく反発はして来ない。


「……」


 小娘に倒されることがあっては、面子が立たないと言うところだろうか。そう考えると、ヤンの選んだ2名は、戦う気が満々なので、やはり適任なのかとも考える。


 一方で。


「姉様。ちょっと待ってて」


 ヤンはそう宣言し、急いで走り。


「うんしょ、うんしょ……っと」


 火炎槍かえんそう氷絶ノ剣ひょうぜつのつるぎが乗った台車を押して来る。


「……何、それ?」

「だ、だって火炎槍かえんそうも、氷絶ノ剣ひょうぜつのつるぎも重過ぎますもん」

「……」


 確かに、とラスベルはため息をつく。グライド将軍は、カク・ズ並の巨漢だ。当然、ヤンなんかが片手で振り回せるようなサイズじゃない。


 しかし、なんだろう……凄くカッコ悪い。


「あなたのサイズに加工してもらえば?」

「それも最終的には考えるけど、結果、使えなかったら他に回すから、今はこれでやってなさいってすーに言われました」

「……」


 1等級の大業物は名工の逸品だ。ヘーゼンが超一流の魔杖工とは言え、手を入れてマイナスの影響が出るのを懸念したのだろう。


 要するにぶっ放し用としか使い道がないと言うことか。


「と、とにかく始めましーー」

「うおおおおおおおおっ! 喰らいやがれ、金剛ノ斧こんごうのおの!」


 開始の宣言をする前に、ガルゾが大斧のような魔杖で地面をすくい上げる。すると、大地が割れて巨大な岩石がラスベルに向かって襲いかかる。


 しかし、彼女は軽やかに躱す。右手の装甲拳に薄緑色ライトグリーンの光が灯り、装いも先ほどまでと変わり、薄緑色ライトグリーンベールに包まれる。


 隼装風衣しゅんそうふうい


 超高速拳。秒速で数百は放たれるであろう拳撃と、軽やかで流れるような動きを可能にする速度を両立させた、超近距離用の魔杖である。


 弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾だだだだだだだだだだだだっ!


「ぐわああああああああああっ!」


 一瞬でラスベルはガルゾの場所まで移動し、八方向から打撃の弾幕を浴びせ続ける。


「んのぉ! しゃらくせえ!」


 だが、ガルゾは反撃に、金剛ノ斧こんごうのおのを思い切り大地に叩きつける。瞬間、地面に数メートル四方の大穴が空き、衝撃波が発生する。


 ラスベルは瞬時に後方に跳躍し、その勢いに乗って軽やかに舞い、着地する。


「……なるほど」


 少し驚いた。彼女の一撃は、大人を気絶させる程の威力を持つ。それを、数十発喰らっているにも関わらず、驚異的な耐久力タフネスだ。肉体的だけでなく魔防も優れている。


「……来ないのですか?」


 ラスベルは、背中を見せているシャゼルに向かって問いかける。


「後方から襲うのは、卑怯ですから」

「……なるほど。では、行きますよ」


 振り返ると同時に。一瞬にして目の前まできた彼女にシャゼルは反応し、細剣のような魔杖で突く。コンマ秒の間に、数十の突きがラスベルに向かって襲いかかる。


木雨ノ剣こさめのつるぎ……っ」


 だが、彼女は高速突きを軽やかに躱し、いつの間にかシャゼルの背後へと移動していた。


「驚きました。剣の技量も相当なものです。これなら、通じるでしょう。ですが、戦場では騎士道などと言うのは、甘えです。背中からでも容赦なく突き刺してください」

「くっ……」


 シャゼルが振り向くと同時に。


 彼の背中に拳撃を喰らわせ。


 一撃で、若き地方将官を沈める。


「く、くそっ! なんて貧弱なヤツだ。うおおおおおおおおおおおおおっ!」


 ガルゾはそう言い捨てながら、猛然と襲いかかる。だが、ラスベルは、その斬撃を簡単に避けながら欠点を指摘する。


「もう少し、戦い方は考えて欲しいですね。2人の相性はいいのだから結託すれば、隙も少なくなる。当たらない攻撃ほど無意味なものはないですから」

「はぁ……はぁ……うるせえ! てめえの攻撃なんて、効きゃしないんだーーっ!?」


 そう叫ぶガルゾの首に両足を巻きつけ、反動をつけ地面に叩きつける。そして、そのまま、マウントを取って心臓部に装甲拳を当てる。


瞬煌しゅんこう

「がはっ……」


 喰らったガルゾは一撃で気を失った。


 耐久性タフネスのある敵に対して、身体の内部に魔力を流し込み、気絶させる隼装風衣しゅんそうふういの技の一種である。


 対グライド戦では、何発打撃を与えても沈めれなかった。そんな相手用に開発したのが、この必殺技である。


「ふぅ……」


 戦闘が終わって、ラスベルが立ち上がると地方将官たちからは感服の声が。特別クラスの生徒たちからは羨望の声が舞った。


「……」


 どうやら、自分が領主代行であることは認められたようだ。考えてみれば、ヘーゼンもまたこうして周囲に実力を知らしめていた気がする。


 だが、これだけ戦えるのならば指揮官としては問題ないだろうと思う。後は、どれだけ人を動かせるかだが、その視察はおいおい見ていけばいいだろう。


「2人とも、実力的にも問題ないわ。ねぇ、ヤン」


 ラスベルが振り返ると。


「うーん……うーん……うーん」


 ヤンが必死に唸りながら、魔杖の柄を掴んでいた。



 


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