ケッノ=アヌ


           *


「お尻お尻お尻お尻いやむしろお尻お尻お尻お尻お尻ーーーー!」

「ひぎゃああああああああああっ!」


 帝都の歓楽街。1年ぶりにノクタール国から凱旋してきたケッノ=アヌは、久方ぶりに味わうけつと美酒に酔いしれていた。


 通称『けつ当てロワイヤル』。無数の高級妓婦を集め、飛び込み、むしゃぶったけつの感触で名前を当てるというイベントだ。


 もちろん、無理やりである。


 今回の店は、お触り禁止の者たちばかり。そうでなければいやむしろそうでなければ興奮しないというのが、ケッノの流儀やり方ある。


「はっ……ぐっ……」


 店長は唖然とした。貸切とは言え、酷過ぎる。この店は、オーナーの意向で、『より上品に、よりエレガントに』をモットーに洗練された綺麗どころの嬢を集めているのに。


 なんだ、この狂った獣ケツマニアは。


「あ、あの……ケッノ大佐。お、お話が……今回は、その……そう言った行為が禁止で、非常に困ってしまうのですが」

「大佐? 今、お前……いやむしろ私のことを大佐と言ったか?」

「ぐっ…… し、失礼しました。ケッノ少将」


 髪の毛をガッチリと掴まれた店長は、呻きながら謝罪する。

 

「そう! 私の今の地位は少将いやむしろ、あの、少将だぞ? あの、少将」

「は、はぁ……」

「ふん! 下賎な者たちにはわからないんだな」

「う゛う゛っ……ヒック……ヒック」


 咽び泣く女のけつに挟まれながら、ケッノは侮蔑し吐き捨てる。


「そもそも、イリス連合国を破ったのも、私の的確かつ素晴らしい助言アドバイスのお陰だと言うのに。それなのにも関わらず、なぜ、私が総務省なのだ……不適材不適所も甚だしいいやむしろ甚だおかしい」


 次長のポストではあるが、総務省などと言うのは、天空宮殿からのメインストリームから完全に逸れている。言わば、『帝国将官の墓場』と言われている。


「地方行政? 大事なのは、中央だ。何事も中央! 真ん中が大事なのだ! ふんふんふんふんふんふんふん」

「みぎゃああああああああっ!」


 顔面で無理やり正面突破を試み、田舎から出稼ぎに来た若き嬢(勤務1日目)は泣き叫ぶ。


 やがて。


 挟まれながらも、落ち着いたケッノは、そのままワイン飲みながら黄昏る。


「ふん……いやむしろ面白くない」


 この歳で少将への出世は、割と勝ち組だ。だが、チラつくのは、やはり、同期の動向だった。


 7歳も歳上のケッノは、同期のアウラをことあるごとに敵対ライバル視していた。彼は帝国将官7浪の末、やっと、合格した苦学組だ。


 一方で、アウラはストレートで合格。


 ケッノは7年かかった中尉格への昇進も、アウラは3年。その後もことあるごとに功績を上げ続け、順調に階級を上げ、今では中将級にまで登り詰めている。


 なんとか巻き返そうと、あらゆるコネと賄賂を使ったが、時が過ぎれば過ぎるほどその差は拡がって行った。


 今回の功績で、ケッノの爵位は17位。1つ上の『珍歩』に昇進あがった。だが、アウラの爵位は一気に上級貴族の9位『理葉』にまで上昇した。


 エヴィルダース皇太子派閥における地位もNo.2の地位を確保し、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで権勢を振るっている。


「なんで、同期のあいつに敬語を使わねばならないいやむしろこっちが歳上なのだから、あいつが敬語だろう?」

「ううっ……ひっく……ひっく……」


 ケッノはけつに向かって問いかけるが、当然のことながら返事はない。


「それに、賄賂などを一切受け取らないと言うのも、本当に気に食わない。格好つけやがっていやむしろ何様なんだ、あいつはいったい……」

「うえええええぇ……て、店長……私、田舎に帰ります」

「……本当に……気に食わない」


 ケッノはノスタルジックな想いに駆られ、尻にもたれかかる。いったい、なんで、こんなに離れてしまったのだろう。


 必死にやってきた。上司の言うことを至上として、それをなんとしてでも部下にやらせて、365日上司のご機嫌を取ってきた。


 それなのに、なぜ……全然理由がわからない。


 そんな中。


「下手だなぁ」


 ボソッとカウンター席から声が聞こえた。振り向くと、中年紳士風の男が、ワイングラスを転がしながら笑みを浮かべていた。


「ん?」


 一瞬どこかで会ったことがある顔だと思ったが、名前がどうにも思い出せない。まあ、平民風情のことなど忘れても仕方がないとケッノは、無遠慮に叫び散らかす。


「だ、誰だ貴様は!? ここは、貸切のはずだぞ」

。私は、オーナーをしておりますアーナルド=アップと言います」


 颯爽と立ち上がり、帝国式のお礼をする。やはり、面識はない。なんとなく、顔に見覚えがあるのは気のせいだったらしい。


「ふん! 苦情クレームなど、一切聞かんぞ。平民風情が上級貴族のやることに、いちいち口を出す方がおかしいいやむしろちゃんちゃらおかしいのだ! 金ならホラ、くれてやる」


 ケッノは、小銀貨を10枚投げ捨てた。


「……」


 パラパラと散らばるその小銀貨を見ながら。


 アーナルドは地面をジッと見つめる。


「ほら、どうした貧乏人? 拾えいやむしろ感謝しながら拾え」

「……ふふっ。下手ですね。下手下手」

「き、貴様っ! さっきから何を言っているのだ!?」


 ケッノは、アーノルドの胸ぐらを掴んで凄むが、中年紳士の朗らかな微笑みは全く変わらない。


「それじゃ喜ばないでしょう」

「勘違いするな! 私は別にこんな女たちを喜ばせようとなんて毛頭……いやむしろけつほども思ってない!」 

「違いますよ」

「えっ?」




























「お尻ですよ。泣いてますよ、お尻が」

「……っ」

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