ブギョーナ


          *


 トボトボ。


 一通り、恐ろしいまでの拷問を受けた末に、『貴様のようなクズゴミ豚に構っている暇がない』と言い捨てられ、ブギョーナは、トボトボと天空宮殿の廊下を歩く。


 なんで、こんなことになってしまったのか。


 ブギョーナ=ゴスロの夢は破れた。エヴィルダース皇太子を皇帝へと擁立し、摂政として帝国の中枢を握る野望も。


 もう、自身のキャリアは完全に終焉を迎えた。エヴィルダース皇太子の信頼は、もはや、無だ。派閥の中で、最古参という立ち位置も、もう何の意味も持たない。


 引退しよう。


「あ、ふふ……あふふふふ……」


 ブギョーナは笑った。それでいい。もう、自分も年だ。今まで精力的に働いていたが、同年代であれば、すでに、余生を謳歌している者も多い。


 いい、引き際だったのだ。


 凋落したと言えど、名門ゴスロ家の当主。余生を暮らすための財も、十分過ぎるほどにある。その野望さえ捨て去ればいい。ただ、それだけだ。


 現実を謳歌しよう。


 実にエヴィルダース皇太子が生まれてから27年。365日、1日足りとも、休むことはなかった。ただ、働くことだけを、立身出世だけを追い求めひたすらに働いた。


 だが、もう、自由だ。


「あ……」


 その時、ふと、ヘレナの顔が思い浮かんだ。


 聖母のような柔らかな笑顔。そして、絵画のような熟れたケツ。あの、ふくよかで、やんわらかそうなけつ。いい具合に、挟めそうな、挟まられそうなしり


 犯すか。


 いや、犯す。


 むしろ、犯し、むしゃぶり尽くす。


 もう、我慢する必要はないのだから。


「……あ、はああああああうううんっ!」


 現実から逃れるように、ブギョーナは思考を切り替えて猛然と走り出す。とにかく、犯す。めちゃくちゃに。


 何も考えずに一心不乱に。興奮の息切れを抑えることなく、ただ、欲望の赴くがままに。腰を振って振って振りまくり、犯しまくる。


「あ、はぁ……はぁ……」


 あの男が犠牲にしたものが、どれだけ偉大なしりであったのか。プリケツであったのか。存分に、わからせてやる。逃したけつが、どれだけ大きいのか、思い知らせてやる。


「あ、はぁ……はぁ……はぁ……ひっ……はっ……」


 走る。走る。ひた走る。それは、本能だった。ただ、火照る体温と、脈打つ下半身の赴くがままに、全力で走る。


 なんのために? 答えは1つだ。犯すため。かの邪智暴虐の悪魔が溺愛している唯一の存在を、バックからガンガン攻めたてるため。


「……はぁ……はぁ……ぜぇ……ぜぇ……でひょ……でひょひょ……」


 笑いながら、涎が飛び散る。アドレナリンがドバドバで、唾液が止まらないのだ。疲れて息を切らしているのか、それとも興奮しているのか、もはや、わからない。


 ただ、走る。


「あ、ヘレナ……あ、ヘレナ……」


 不意に出てくる彼女の名を、自分の耳で聞き、ブギョーナは思った。


 これは、愛だ。


 110年間生きてきたが、これだけの熱い欲情を催したことはない。どんな女よりも、焦がれ、求め、枕を濡らした。


 これが、本物でなくて、なんなんだ。誠でなくて、なんなんだ。


「あ、はぁ……はぁ……あ、ぜぇ……ぇ……」


 ブギョーナは、ただ走った。


 走ることに意味などはない。走ったところで、過去が戻ってくるわけでもない。現実が好転するわけでもない。輝かしい未来が待つわけでもない。


 目的は、ただ一つ。あの邪智暴虐の悪魔に、愛と誠の力を教えてやるのだ。


 乾坤一擲。


 ヘーゼン=ハイムに見せつけてやるのだ。2人の愛と誠を。貴様が見捨てた義母の服をめちゃくちゃに破き、もみくちゃに揉みしだき、どちゃくそに犯して、ヒィヒィ叫ばせて。


 これが、この女の真の姿だと。これが、貴様の愛する義母のあられもない本当の姿なのだ、と高らかに謳いながら、バックでガンガン犯すのだ。


「あ、はぁ……はぁ……はぁ……」


 やがて。


 ブギョーナは到着した。


 自身の邸宅に。


 そして。


 一心不乱に。


 扉を。


 開けた。


 






























「あ、ヘーレナッ! セック○しよっ……っ」

「こんにちは」


 目の前には、ヘーゼン=ハイムが立っていた。

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