高さ
*
100万の軍を率いる武国ゼルガニアの王ランダルの下に、蒼国ハルバニアの大軍師アルスレッド=ラルドが、並び立つ。
「恐らく相手は、帝国最強の軍神ミ・シルです」
「ふっ……不足はないな」
ランダル王は不敵に笑う。
「お気を悪くされないで頂きたいのですが、一騎打ちに持ち込む気はありません」
アルスレッドはキッパリと言い切る。
「私が負けるというのか?」
「わかりませんが、負けた時には12大国の戦線が崩壊します。個人的な力試しをしたいならば、領土の半分を奪った後に、終盤に舞台を準備しましょう」
「……その無遠慮な物言い、気に入ったぞ」
ランダル王はニヤリと笑みを浮かべる。
「侵略は速度が重要です。そして、小さきに囚われれば大局を見失う。お忘れなきようお願いします」
「ヘーゼン=ハイムの参戦は?」
「恐らくは……かなり遅くなると思います」
アルスレッドは唇に手を当ててつぶやく。
「これほどの大戦で、アレほどの戦力を使わないと?」
「現状の彼は、かなり不遇を囲っております。それに……」
「それに?」
「ヘーゼン=ハイムは帝国に忠実なタイプではない。悟られぬよう巧妙に装っていますが、極めて利己的な動きをします」
「なるほどな。では、どうでると?」
「……予断は差し控えます。ヘーゼン=ハイム1人で、大戦の大局は変わらない。今は目の前の軍神ミ・シルに集中しましょう」
*
*
*
上級貴族たちは、呆気に取られていた。総資産の半分? えっ、どういう事? まったく、意味がわからない。
「な、な、なーぜ! 我々が貴様に対して、対価を支払わねばならないのだ!?」
当然、ドスケ=ベノイスが顔を真っ赤にしながら叫ぶ。だが、ヘーゼンは『そんなこともわからないのか』と言いたげなため息をつく。
「はぁ……まあ、仕方がないな。一口グミみたいな脳みそしかないから我慢して、説明しますね。失礼ながら」
「さっ、さっきから失礼過ぎるーぞ!?」
「だから、そう言ってます」
「……っ」
言えばいいのか。失礼と言えば、全ての失礼が帳消しになるとでも思っているのか、この男は。なんたる
「脅されたんですよね? アウラ秘書官から、『停戦しなければ爵位を落とす』って。と言うことは、停戦しなければどうなります?」
「そ、それは貴様の爵位が落とされるだろう! そんなの決・ま・っ・て・る! 決まってる!」
バッド=オマンゴが反論する。
「そうですかね?」
「……はっ?」
「あなたたちは、攻撃をやめないといけない。でも、私は別に『やめろ』と言われてない。だから、しますよ。攻撃」
「……っ」
「わかりませんか? アウラ秘書官にとっては、どちらでもいいんです。私とあなたたちが停戦条約を結ぼうが、あなたたちが攻撃をやめ、私が一方的に蹂躙して勝とうが。結局、参戦を要請できれば、結果などはどうだっていい」
「はっ? えっ? ほっ? あえ? ど、どゆ? あろ? あゆ? ぱるる?」
フェチス=ギルの脳内に、さまざまな疑問符が浮かぶ。何を言っているんだ、コイツは? そんな訳がないだろう。停戦と言ったら停戦だろう。それしかない、いや、むしろ、それしかない。
「あなたたちが攻撃をやめるなら、お好きに。縄で自分たちの身体を縛って、交戦の意思はないとアウラ秘書官にお得意のアピールをすればいい。ああ、当然、私は勝手に攻めますけど」
「そ、そ、そんな理屈がと・お・る・も・の・か! 通るものか!」
バッド=オマンゴが猛然と主張する。
「あなたたちはそう思うんですよね? でも、私はそう思いませんから、あなたたちへの攻撃は絶対にやめません。いや、むしろ徹底的に攻撃します」
ニッコリと。
ヘーゼン=ハイムが満面の笑みを浮かべる。
「はっ……えっ……おろ……おおろろろろっ」
アルブス=ノーブスが、今にも泡を吹き出しそうな声を発する。
「ふ、ふざけるーな! そんなことは断じて許容できなーい! 我々ーは徹底交戦するーぞ!」
「ですよね。だから、それでいいんです。でも、いいんですか? そうすると、あなたたちの爵位……落ちますけど」
「はっ……くっ……はぁ」
「もちろん、私の爵位も落とされるかもしれませんけど、あなたたちの爵位の方が落ちますよ?」
!?
「な、なんでそんなことを……」
「帝国が本当に危機に陥ったら、私はゼルクサン領とラオス領を放棄して、帝国の救援に行きますから」
!?
「そっ? えっ? くぇ? はっ? ろっ? あん? どぅ? あんどぅ?」
フェチス=ギルの脳内に、さまざまな疑問符が浮かぶ。何を言っているんだ、コイツは? イカれたことを言っている。何一つとして言っている意味がわからない。
「いや、平民出身なもので。私の目的はゼルクサン領とラオス領の統治ですから、爵位にあまりこだわりないんですよね。でも、あなたたちよりは、上の爵位になれるようには全力で勝ち取ろうと思ってます」
「……っ」
ニッコリと。
ヘーゼンは、悪魔のような微笑みを浮かべる。
「わかります? 爵位を上に上げるのって、非常に大変なんですよ。でも、よかったです。あなたたちが、一緒に落ちてくれて。私は少しだけ落ち幅を小さくしてもらうだけで、ゼルクサン領とラオス領の統治は完了しますからね」
「……」
「……」
「「「「「「「……」」」」」」
「あれ? どうしました、みなさん? 顔面蒼白ですけど、大丈夫ですか?」
「き、き、貴様! 爵位が落ちると言うことが、どう言うことかわかってるのか! 上級貴族の地位を失うということは、必然的にゼルクサン領とラオス領を失うことでーー」
「安心してください。全力で守ります」
「……っ」
「私、こう見えても大将軍級とも渡り合えますので、危機に瀕した帝国にとっては渡りに船だと思うんですよ。だから、その辺の心配は一切必要ないです」
「……っ」
心配などしてない。断固として、自分たちの身の上しか心配してない。
「あっ? あろ? ほぇ? だ? ま? ろり? あえ? しんじ? いや? どぁ? どえぇ?」
フェチス=ギルの脳内に、さまざまな疑問符が浮かぶ。理解不能。キチガイ過ぎるキチガイ。
「だから、それでも停戦交渉したいって言うなら、私に相応のメリットがないと、絶対に嫌なんですよ。お分かりになって頂けました?」
「……」
「……」
「「「「「……」」」」
・・・
わからない。
理解が追いついてこない上級貴族たちは、ひたすら、フリーズする。本当にそんなことになるのか。だが、アウラ秘書官に命じられているのは停戦。
そして、欲しているのはヘーゼン=ハイムの参戦。
確かに停戦しなかった場合、喧嘩両成敗になる可能性は高い。その上で、自分だけが少し高い地位に居座る。そのようなことができるかは、現実味はないが。
だが。
大事な事は、目の前のヘーゼン=ハイムがそう信じて、断固停戦の意志がないということだ。
この
・・・
5分ほど経ち、やっと、上級貴族たちが、目の前の男の危険性を認識した。ヤバい。目の前のこの男は、圧倒的にヤバ過ぎる。
そして。
やっと理解した。自分たちの置かれている状況が、このトンデモキチガイ野郎によって、崖の淵の淵に、足の先っぽで乗っているようなものであることに。
ドスケ=ベノイスは、なんとか交渉をしようと、甘え震え声を出す。
「だ、だーがぁ! それにしたって、総資産の半分はボッタクリ過ぎじゃ……」
「……あの、少し気になったんですけど」
ヘーゼンが目の前で唸るドスケ=ベノイスを見ながら口を開く。
「な、何がーだ……ですぅ!?」
「いや、そうじゃなくて。高いと思うんですよね」
「そうだーろ! ああ、ホッとしたーよ……ましーた。やはり、高過ぎーる。安心しーた……ましーた」
「そうでしょ? 意見があってよかったです」
「いや、高ーい。総資産の半分はそれにしたって、高ーいよ。ヘーゼン=ハイムくーん。これまで、少し誤解があったのだーがぁ」
「違います。高いと思うんですよーー」
「
「……っ」
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