呼び出し


           *


 ノクタール国の主城サザラバーズ城。玉座の間に、食国レストラルの使者が到着した。


 宰相トメイト=パスタ。大きな銀縁眼鏡を掛けた、いかにも勤勉そうな若者は、ジオス王を前で片膝をつく。


「この度は、謁見の機会を与えてくださり、ありがとうございます」

「……帝国の同盟国である我が国の主城に、単身で乗り込んでくるとは、度胸があるな」

「賢王と名高いジオス王ですから、その類の心配はあまりしませんでした」

「……」

「早速ですが、ご用件を」


 トメイトは、銀縁眼鏡をクイっと上げながら、部下に貢ぎ物の山を持って来させる。


「……これは?」

「ほんの、ご挨拶だと思って頂ければ。我が食国レストラルの友好の気持ちです」

「我がノクタール国に、帝国を裏切れと?」


 隣にいた軍師のシュレイが尋ねると、トメイトは銀縁眼鏡をクイっと上げながら話し始める。


「そうは言いません。ただ、以前のノクタール国は、最も苦境に陥っていた時に、帝国から支援を受けれませんでしたよね?」

「……」

「我が国は資源が豊富です。これは、通行料だと思って頂きたい。盟友である武国ゼルガニアが、無傷で帝国に侵略をするために」

「……ふっ。それだけでいいのか?」


 側に控えていた大将軍のギザールが尋ねる。


「ええ、もちろんです。食国レストラルの最大の任務は、貴国に対しての牽制です。互いに上手く、この乱世を渡って行きませんか?」


 トメイトは銀縁眼鏡をクイッと上げて笑顔を浮かべる。


「……シュレイ」

「はっ!」

「帝国の援軍要請だが、今は我が国も食国レストラルと武国ゼルガニアの挟み撃ちに合い、援軍の余裕がないと伝えろ」

「かしこまりました」

「フフッ……ご協力感謝いたします」

 


            *

            *

            *


 ゼルクサン領の上級貴族ドスケ=ベノイスは、天空宮殿に到着した。


「ふーうっ……やっと、ついたーあ」


 ドスケが上機嫌そうにつぶやき、馬車を降りてアウラ秘書官の邸宅へと向かう。まさか、エヴィルダース皇太子派閥のNo.2から、直々に呼ばれるとは。


 自然とステップが軽くなってしまう。


「楽しみですね。いやホントに楽しみ」


 途中で合流した上級貴族ウーマン=ノチチが、同じくウキウキした様子を見せる。


「恐らーく、反帝国連合でーえ、有能な人材を欲しているからだろーう」

「さすがはエヴィルダース皇太子の片腕なだけありますね。慧眼、いやホントに素晴らしい」


 2人とも、心が浮き立つような気分で邸宅の中に入る。


「だが、我らの手が必要ならーば、あの憎たらしいヘーゼン=ハイムーを、なんとかして頂かなくてはいけなーい」

「そうですよ。いや、ホントにこの機会にそうしてくださらないと」

「クックク……待ち遠しいーな」


 廊下を歩きながら、戦場で勇敢に戦う自分たちを想像する。たまたま、自分は帝国将官の試験に受からなかっただけで、地方で陽の当たらぬ日々を過ごした。


 だが、この帝国最大の危機が来た。この機会に、自分たちの実力を見せれば、必ず大きな功績を得られると、ドスケもウーマンも確信していた。


「だーが、戦場でーは、貴殿と言えーど、ライバル同士ーい。遠慮はしませんーぞ?」

「フフッ……それはこちらも同じです。いや、ホントに正々堂々と功を競いましょう」


 互いに笑顔を浮かべながら牽制をしつつ、アウラ秘書官のいる大広間に案内される。


「失礼しまー……」


 中を見た途端に、言葉が止まる。大広間には、同じく上級貴族のクラリ=スノーケツ、バッド=オマンゴ、フェチス=ギル、ダッチク=ソワイフ、ジョ=コウサイ、アルブス=ノーブス、ラフェラーノ=クーチらが直立不動で立っていた。


 いや、彼らだけではない。


 ゼルクサン領、ラオス領の各郡を統治している上級貴族たちが全員その場で立ちつくしていた。


「……やーあ、貴殿らもいらっしゃいましたーか」


 ドスケはそう言いながらも、呼び出されたのが自分たちだけではないとわかり、心の中で舌打ちをする。


「来たか」


 奥にいたアウラ秘書官が近づいてくる。慌ててドスケとウーマンノは片膝をついて礼をする。


「このたびーは! 謁見の機会ーをーー」

「挨拶はいい。担当直入に聞く。ヘーゼン=ハイムと停戦をする気はないか?」


 !?


「な、な、なにーを仰っているのですーか?」


 ドスケは思わず聞き返す。


「この未曾有の危機は知っているだろう? 反帝国連合に対抗するため、一刻と早く優秀な人材を揃えねばならない」

「はっ! だかーら、私たちを呼んで下さったですよーね」

「……何か勘違いしているようだな」


 アウラ秘書官が冷淡な眼差しを向ける。


「か、勘違ーい?」

「私が必要なのは、ヘーゼン=ハイムだ。君たちとの小競り合いが終わらなければ、彼を戦場に差し向けることができない。だからこその提案だ」

「はっ……くっ……」


 ドスケは言葉を見失う。


「わかるだろう? 帝国の危機なのだ。一刻も早く決断しなければ。君たちも上級貴族なのだから、国のために早々に決断して欲しい」

「じょ、冗談はやめて下さーい! 我々は爵位ーを蔑ろにされたんですーよ! なぜ、私たちがそんな輩と停戦などーと!」

「……しないと?」


 アウラ秘書官が聞き返す。


「当たり前でーす! 私たちーは! 法に基づいーた権利を主張しているだけーです! 少なくとーも、あのヘーゼン=ハイムは、爵位が下のくせーに! 我々に歯向かってきーた! それは、明らかーな、権利の侵害でーす!」





























「そうか。なら、君たちの爵位を下げればいいのか?」

「はぇ?」

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