12大国
*
遡ること1ヶ月前、その会談が開かれた。参加国は、12大国のうち4つ。食国レストラル、琉国ダーキア、武国ゼルガニアそして、蒼国ハルバニア。
出席者は、いずれも、各国の最高権力者たちだ。
12大国は、大陸の国土の8割を占める列強国である。中堅国家や小国などは、常にこの大国の脅威にさらされ、従属関係などを迫られている。
そんな中。1人の若者が、落ちついた様子で十字卓の前に立つ。金髪で長身、顔立ちの整った細身の男だ。
蒼国ハルバニアの大軍師、英聖と謳われるアルスレッド=ラルドーである。
「ようこそ、お集まりくださいました」
「……っ」
側に控えている筆頭執事が、ゴクリと生唾を飲む。十字卓に座っている4人は、紛れもなく大国の最高権力者たちだ。
彼らに対し、アルスレッドは一瞬の怯みも一分の気後れもない。まるで友人と会話するような気やすさで、会談の進行をしていく。
「先日、イリス連合国が倒れ、新生ノクタール国が取って代わる事態となりました」
「……脆かったな。先代盟主ビュバリオの抜けた穴は塞がなかったと言うことか」
複雑そうな表情でつぶやくのは、武国ゼルガニアの王ランダルである。凝縮された強靭な肉体は、圧倒的な威圧を纏い、見る者を本能的な畏怖に晒す。
「ふぉっふぉっふぉっ……あそこの
食国レストラルの大首長トッポキは、長い白鬚をさすりながら笑う。老獪さとしたたかさを併せ持つ老人の瞳の奥底は、決して笑わずに周囲の動向を観察している。
「確かに、いずれかの大国に吸収されてもおかしくなかった。ですが、亡国の危機に瀕していた極小国のノクタール国が、この短期間にイリス連合国を滅亡させるなど、誰が想像しましたか?」
「……ヘーゼン=ハイムか。どのような御仁か興味はあるな」
琉国ダーキアの女王メリスがつぶやく。『白き灰の女王』と謳われる絶世の美女は、艶やかな指で机をトントンと叩く。
前の戦で、突如として鳴り響いた武名。あの救国の英雄グライド将軍を破った、若き新鋭だ。その衝撃は、大陸に多大な衝撃をもたらした。
「一言で表すと、怪物です」
「それを、英聖アルスレッドから聞くとは思わなかったな」
「……」
帝国の軍神ミ・シルとともに、大陸で彼の名を知らぬ者はいない。だが、若き青年は、確信を持って首を横に振る。
「ヘーゼン=ハイムが、帝国将官となったのは2年前。当時、彼は着任数ヶ月でディオルド公国の雷鳴将軍ギザールを傘下にしてます」
「あの雷鳴将軍が? 今はノクタール国の大将軍だと聞いたが?」
「一時的に貸しているだけでしょう。現に、戦闘では幾度も同じ場所にいることが目撃されてます」
「……恐ろしいのは、あなたの偵察能力もだが」
白き灰の女王は、鋭き眼光を向ける。
「これでも遅かったぐらいです。その後、彼は戦地ライエルドとドクトリン領の間の砂漠に道を作った」
「あの……不毛の大地にか」
「内政官としても破格級の能力です」
「ふぉっふぉっふぉっ……それで? 今のやつの動向を我輩らに教えてくれるのかな?」
食国レストラルの大首長トッポキが、長い白鬚をさすりながら尋ねる。
「イリス連合国を破ったヘーゼン=ハイムの領では内戦が勃発し、上級貴族たちと争っています。言ってみれば、内部紛争で身動きが取れない状態だ」
「……信じられんな。それほどの才を持つ者が」
武国ゼルガニアの王ランダルが唸る。
「ヘーゼン=ハイムを扱えるほどの器量が、今の帝国にはありません」
アルスレッドはキッパリと答える。
「皇帝レイバースは賢帝だ。そうそう、人材を見過ごすとは思えんが」
「はい。ですが、後任が育たずに上手く代替わりできずにいます。現在、皇太子に政務全般を任せているため、外部の情報がほとんど取れずにいます」
「ふぉっふぉっふぉっ……皮肉なものじゃの。イリス連合国と同じ病とは」
食国レストラルの大首長トッポキが長い白鬚をさすりながら笑う。
「ですが、我々にとっても、笑える話ではない。そこで、皆様を集めさせて頂いた」
蒼国ハルバニアの王ガウルフが初めて口を開き、アルスレッドは深く頷く。
「帝国を何とかしなくてはなりません。新たに大国となったノクタール国の勢いが強い今、ここで食い止めなければ我々は歴史の敗残者となる」
「……3年前に会談した頃は、帝国は今後衰退を辿ると明言していたが、大きくアテが外れたの。ふぉっふぉっふぉっ」
食国レストラルの大首長トッポキが、長い白鬚をさすりながら笑う。
「そこは、私の至らなさです。あのレベルの化け物が、まさか、未だ野にいたとは想像もできなかった」
「我々4つの大国が手を組むとなると、流石に帝国も本格的に事を構えるだろう」
「それだけじゃ、足りません」
「……どう言うことだ?」
武国ゼルガニアの王ランダルの問いに、アルスレッドは答える。
「私は今、西の勢力にのみ呼びかけているに過ぎません」
「西の勢力……のみ……だと?」
琉国ダーキアの女王メリスが驚き目を見開く。
「北には武聖クロード殿が。南には海聖ザナクレスが……そして、東には魔聖ゼルギスが、それぞれ同様の呼びかけを」
「……っ、それはまさか」
武国ゼルガニアの王ランダルが、思わず立ち上がる。
「10の大国の全力を持って、帝国を攻撃します」
「「「……っ」」」
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