経営状況


「えーん! わーん! やだやだぁー!」

「嘘泣きやめなさい」

「くっ」


 性格が最悪過ぎる。寝ても覚めても、悪夢な悪魔だ。いや、悪魔な悪夢なのかもしれない。


 せっかくの休日を寝て過ごしてしまったヤンは、滅茶苦茶に駄々を捏ねるのだが、ヘーゼンは頑として首を縦に振らなかった。


「仕方がないだろう? すでに色々とスケジュールを組んでいるんだ。休日はちょうど10日で設定していたんだから」

「な、なんで私が起きる日を測ったような予定を組むんですか!?」

「他意はないよ。誓ってもいいが、君の目覚めは、自然に身を任せるがままに行った。これ以上に伸びる場合もあったから、今日は経過を観察しに来たんだ」

すーがたまたま来た日に、私がたまたま起きたってことですか?」


 ヤンとしては、到底納得ができない。夢の内容はまったく覚えていないが、なんとなくヘーゼンが出てきていたような気がするし。


「……すーの魔力に刺激されてってことはあるのかもね」


 一方で、ラスベルが唇に指を当てて冷静に考察する。


「まあ、そうかもしれないな。魔力暴走を抑えた時、君の魔力に干渉したのは僕だからな。身体がそれに反応した可能性もなくはない」

「な、なんでもっと早く来てくれなかったんですか!?」


 そうすれば、もっと早く起きることができて休日を堪能することができたかもしれないのに。


「色々と忙しかったんだよ」

「それは……まあ、そうかもしれないですけど」

「あと、君の休日のことなど一ミリたりとも考えてなかった」

「酷っ!?」


 ヤンがガビーンと絶望的な表情を浮かべて床に手をつける。それから、ひと通り騒いで、泣いて、喚いて、やっぱり泣いた後、仕方がないので、起き上がって状況を確認する。


「それよりも、ここどこですか?」

「ノヴァダイン城だ」

「うわー。懐かしいー」


 自領に戻ってきたのは、半年ぶりくらいだったか。なんせ過ごした時間が濃密だった。


「ちょっと、見てきていいですか?」

「ああ、ちょうど僕も奴隷牧場の視察に行こうと思ってたところだ。一緒に行こう」

「そうだった信じられない裏施設があった!?」


 ヤンはガビーンとした表情を浮かべる。


「経営報告を先ほど聞いたが、中々順調だった。やっぱり、奴隷の労務費がないと便利だな」

「……淡々とブラックな職場内情を暴露しないでくださいよ」

「大丈夫。重罪人に人権はないから」

「こ、こんなに大丈夫じゃない大丈夫を私は知らない」


 そう言いつつも、いつものことなので、ヤンはため息をついてヘーゼンについていく。そんな中、青髪の美少女ラスベルが驚愕の表情を浮かべて立っていた。


「どうしたの、姉様? 早く行きましょうー」

「……やっぱり、あなたの順応能力って凄いわ。身体が一気に大きくなっても、奴隷牧場にだってそんなに動揺しないし」

「そ、そうですか? まあ、異常者すーに、変態さんモズコールさん。この2人のおかげで(せいで)、大分動じることは少なくなっているのかもしれないですけど」

変態モズコールと言えば。大分、その筋で収益を上げているようだぞ?」


 ヘーゼンが会話に割って入る。


「……あの計画ですか」


 クラド地区に巨大な歓楽街(裏)を建設しようという構想。それは、元々奴隷牧場、闇市等々の超非合法施設を主体として考えていたヘーゼンの計画と見事にマッチした。


 もちろん、表向きは麦畑を材料とした酒造業で生計を立てている。話を聞くと、そちらの商売も軌道に乗り始めたらしい。


 ヤンとしては是非とも真っ当な手段を使って稼ぎたいが、いかんせん変態が邪魔をする。


「富裕層の変た……ツテを頼って屋敷を借り切り、夜な夜な危ない舞踏会を開いている。類は友を呼ぶと言うが、会員数もすでに30人を超えた」

「……危険な状態ですね」


 類は友を呼ぶというか……変態が変態を呼び始めている。ヘーゼンは利益至上主義で、基本的には手段を選ばない。このままでは、変態が増殖を始め、この城下町は変態に支配された街になってしまうのではないか。


 そんな考えが浮かび、ヤンは思わず身震いをした。


「と、とりあえずは、酒造から視察しましょう」

「言っておくが、君に酒はまだ早いぞ?」

「飲みませんよ。あんな不味い飲み物」


 以前、クミン族の女王バーシアに飲まされて、エライ目に遭った。身体が大人になったとは言え、好んで飲みたいものでもない。


 酒造を覗くと、奴隷たち(犯罪者)がせっせと働いていた。町の老人たちが管理人となり、働かせている。肉体仕事じゃないので、高齢者をこうした形で働かせられるのはいいことだ。


「……」


 悔しいが、半年前とは見違えたくらいに順調だ。


「表の事業だけでも、大幅に黒字だ。酒の販路もナンダルを介して確保済みだから、収入も安定している」

「だ、だったら表だけでもいいじゃないですか?」

「裏の事業は儲かるんだよ。何よりも税金がかからずお得だ」

「お得の概念がこれ以上ないくらいに犯罪者チック!?」


 ヤンがガビーンとしながら突っ込む。


「と言っても、いざバレた時の対策は整えてある。仮に発覚し訴えられたとしても、絶対に勝訴する自信はある。だから、犯罪ではない」

「や、やってることが犯罪だったら犯罪じゃないんですか!?」

「違う。犯罪行為と認定された時点で犯罪だ。疑わしき者は罰せず。法律論の基本だ」

「……はぁ」


 半ば呆れながらため息をついている歩いているヤンの後ろで、明らかにガビーンとしているラスベルがいた。




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