諸王会議


           *


 クゼアニア国の主城であるカルキレイズ城。その頃、諸王会議では、ヤアロス国の新王を誰にするかについて話し合っていた。


 イリス連合国盟主のシガー王は、非常に晴れやかな気分だった。アウヌクラス王諸悪の根源を排除した後、議論らしい議論が再開されたからだ。


 だが、新王選出については非常に揉めた。ヤアロス国クゼアニア国に次ぐ強国だ。また、グライド将軍を擁するので、イリス連合国内で新王が強い影響力を持つことになる。


 新王の台頭で、シガー王や諸王に不利が生じないようにしなければならない。それぞれの思惑が交差し、通常、3日ほどに渡る議論が1週間余りまで延長した。


 だが、それも、ようやくまとまった。


「では、新王は甥であるドナルック侯爵でいいか?」


 シガー王が最終的な提案をした。これも、皆で建設的に話し合って、擦り合わせて決めたものだ。いつもならば、アウヌクラス王が仕切り出すが、それもない。


「まあ、他にいませんしな」「息子ですと、あの出しゃばりが出てきそうですし」「本当にはキツイですよね」「クク……呼ばわりは流石に可哀想じゃないですか?」「いえいえ、私は当然の報いかと思いますよ?」


「おいおい、アウヌクラス王目を覆うほどの汚物のことなど、我々諸王が口にする価値もないだろう?」


 シガー王がそう口にすると、ドッと諸王から笑いが響き渡る。周囲の暖かな反応に満足感を覚えながら、これまでにないような充実感を感じる。


 これだ。これこそが、自分の欲していたものなんだ。自分が思い描いていたイリス連合国盟主の真の姿だ。


「よし。では、新王はドナルック侯爵に決定だ」


 シガー王は意気揚々と宣言し、満場一致で決定を下した。


「では、次の議題はグライド将軍をヤアロス国所属ではなく、イリス連合国全ての所有物とすることについてーー」


 そう言いかけた時。


 ガジル大臣が、部屋に入ってきた。


「おお、よく来てくれたな」


 シガー王は心から歓迎する。諸王たちから話を聞くと、どうやらこの忠臣が骨を折ってくれたらしい。非常に粘り強く彼らを説得し、アウヌクラス王の譲位に賛成するように懇願したとのことだ。


 その話を聞いて、シガー王は本当に感動した。幾度も無能、老害と吐き捨て、疎い、遠くへ追いやり、果てはマウントを取って気絶するまでぶん殴ったにも関わらず。そんな自分に対して、これほど信を尽くしてくれるなんて。


 そんな真なる忠臣は、悲壮な面持ちで口を開く。


「……申し上げます。首都アルツールが完全包囲されました」

「……」

「……」


「「「「「……」」」」」


 シガー王も。


 他の諸王たちも。


 一斉に静まり返る。


「……ククク……クククククハハハハハッ!」


 数秒を経て、やっとシガー王が口を開いて大声で笑い出す。わかった。この前にマウントで殴ったことへの意趣返しだろう。


 やはり、意地が悪い老人だ。だが、そんな家臣の不満にも付き合ってやるのが王の務めであろう。


 若き盟主は、親指をビシッと立て、歯を見せる。


「ナイスジョーク!」

「……違います」

「あん?」


 よく意味がわからず、聞き返す。ガジル大臣は、いったい何を言っているのだ。相変わらず空気の読めない老人ジジイだ。そもそも、王たちが揃う場でそんな冗談を言えば、即刻死刑なのに。


 せっかく気を利かせてやったというのに。


「おい、いい加減にしろ。まったく……老人というのは、陰湿で執念深い。アウヌクラス王目を覆うほどの汚物もだが、もう少し場の雰囲気を察した身の程をわきまえた発言をするのだな」

「……グライド将軍も戦死しました」

「おい! お前、いい加減にしろ!」


 シガー王がガジル大臣の胸ぐらを掴み、凄む。やはり、老害は老害だ。多少役に立ったとしても、やはり長期的には使う価値はない。即刻、この場で処刑にでもしてやろうか。


 だが。


 周囲の諸王たちは、シガー王とは異なった反応を示していた。誰もが、ガジル大臣の言葉に強い関心を示し、心配な表情を浮かべ、戸惑っている。


「み、皆様方。何を心配しておられるんですか? 首都アルツールが包囲? グライド将軍が戦死? 昨日までの報告では、我々にそんな情報は一ミリも伝わっていなかった」


 あり得ない。そんな報告が自分にも諸王たちの誰にも入らず、末端で末席の大臣ジジイだけが知っているのは、あり得ないのだ。


 だが。


 ガジル大臣は、澄んだ眼差しで答える。


「……私が情報を封鎖しました。危機に対して指揮系統が乱れるのが最も手に負えない」

「ふざけるな! 貴様のような老害無能むしけらに、そんな権限がある訳がないだろう! 妄言も甚だしい!」

「グライド将軍に防衛するヤアロス国軍の全権を委譲されました」

「……っ」


 そう答え、ガジル大臣は羊皮紙を拡げる。そこには、『自分が戦死した時には、一切の指揮権と判断をガジル大臣に委譲する』と書かれたグライド将軍の文字が残されていた。


「こ、こ、こんなもの私は知らない! なぜ、私に報告を入れない!?」

「……すでに敗北が決した戦です。私は、この権限でヤアロス国軍の全面降伏を受け入れました」


 !?


「き、き、貴様ぁーーーーーーーーーーーーーー!」


 弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾だだだだだだだだだだだだだだっ!


 シガー王は激昂し、ガジル大臣にマウントを取って、何度も何度もぶん殴る。


「ふざけるなっ!」


 バキッ! 


「私を蔑ろにしてっ!」


 バキッ! ドゴッ!


「何を勝手なことをやっている!」

「……っ」


 そう叫びながら。


 ガジル大臣の首を思い切り締めた。


 その時。


「へぷっ!」


 つま先で思い切り。


 シガー王の顎を跳ね上げた。


 黒い髪の若き青年が。


 颯爽と登場した。






























「さあ、諸王会議を開始しましょうか」

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