首都アルツール攻防戦(9)
荒ぶる暴狂。
「強い……」
ラスベルは思わずつぶやいていた。接近戦において、あのグライド将軍をも圧倒している。それは、彼女とバージスト将軍ですら成し得なかったことだ。
2人はグライド将軍を攻勢に転じさせなかったが、ダメージを与えるには至らなかった。
理由は至って
当然、カク・ズの能力のことは聞いていた。だが、仕込まれているのは5等級の宝珠だとも聞いている。
そんなラスベルの驚きを見透かしたように、隣のヤンが疑問に答える。
「
「そ、そんなことができるの!?」
ラスベルが驚く。魔杖は一度造れば一生物だと言うのが常識だ。宝珠だけを入れ替えることができるなど聞いたことがない。
「そう言う風に造ったんですって。他のはできないかもしれないです」
「……っ」
その異常な動きと膂力、暴狂性は、特級宝珠の大業物、
戦況は互角以上。
カク・ズは鎖状の剣で、
「くっ……」
グライド将軍は、空中に放り出された
「……っ」
「……」
互いの手と手と合わせて。
そのまま地面へと着地した。
「ぐおおおおおおおおおおおおおっーー!」
「ぐっぬぬぬぬぬぬぬぬぬっ! うおおおおおおおおおおおっ」
グライド将軍は背を下ろし、そのまま狂戦士を巴投げで十数メートルほどぶん投げる。対するカク・ズは猫のような身のこなしでクルリと回転して着地。
「ぜぇ……ぜぇ……なんて馬鹿力じゃ」
グライド将軍が初めて息切れをしながら、感嘆の声を出す。
「し、信じられない。圧倒している」
ラスベルが驚愕の眼差しを向ける。
「真逆なんです」
「真逆?」
「……カク・ズさんの魔杖、
「……」
ヤンの瞳に、心配の色が差す。
確かに、その設計は魔力の蓄積を基本とする
それは、瞬間的に……特級宝珠を司る魔杖すら上回るものとなった。
「……」
魔杖の制作者には、その思想が現れると言う。学生の頃からずっとともに過ごしてきた親友のカク・ズに、このような危険な魔杖を持たせているヘーゼンの深淵を垣間見た気がした。
カク・ズの剣技は見事だった。本能の濁流に飲まれながらも、日々の激しい修練により覚えさせたそれは、グライド将軍の剣技すらも圧倒する。
「んの……調子に乗るな!」
だが。
カク・ズの俊敏な動きは、それをことごとく躱す。火を……いや、死すら恐れぬ
「くっ……」
すぐに氷絶ノ剣で氷膜を張るが、鎖状の剣は一瞬にして破壊する。そのまま、まるで瞬間移動のように現れたカク・ズとグライド将軍が激しく剣撃を散らす。
「信じられない。明らかにグライド将軍が嫌がっている」
「……恐らく、螺旋ノ
ヤンがつぶやく。
「変換効率?」
「
「……」
あり得る話だ。同じ魔杖でも、慣れていない能力を使用する時は、普段の10倍以上の魔力を吸い取られる。
まして、異なる力に変換をかけるのは下手をすれば数百倍を持っていかれても不思議ではない。
これまで、グライド将軍が可能な限り傷つかないようにしていたのも納得ができる。
その死闘は、互いに一瞬の休養がないまま続いた。
そして。
夜が明け、日が昇り続けてもなおカク・ズとグライド将軍は戦闘を続けていた。互いに譲らない一進一退の攻防。
その間、南、北、西、東の軍はそれぞれ進軍を開始していた。東に7万の連合軍を配置したことで、残りの3方向のクーデター軍の兵が厚くなる。
戦況が大きく変わった。チラホラとグライド将軍に支援を求める声が出るが、カク・ズの猛攻によって完全な足止めに成功していた。
だが。
「……まずいな」
ヤンは二人の戦いを見守りながらつぶやく。徐々に。カク・ズの勢いが弱くなっていくのを感じる。すでに、丸1日を過ぎ不眠不休で全身全霊の力を注いでいた。
一方で。
グライド将軍の体力は無尽蔵に尽きない。これでもかというほどに、
「……ラシードさん」
「俺は助けないぞ。一対一の戦いに水を差すのは不粋だ」
「け、ケチっ!」
ヤンが口を尖らして護衛の元
海賊シルフィの魔矢である。
一瞬だが、グラリとグライド将軍の意識が飛んだ。
「よし、今! カク・ズさーー」
そう言いかけたところで、ヤンの言葉が止まった。
黒き漆黒の戦士はすでに力尽き、地に伏せて倒れていたからだ。
「はぁ……はぁ……ガハハハハハハッ! これで終わりじゃあ!」
「……っ」
グライド将軍は、まるで鬼神のようだった。完全に我を失っており、ただカク・ズを倒すだけの存在と化していた。
興奮状態で叫び、
とめどない魔力が再びグライド将軍に集まってくる。
凄まじい魔力が両手に集約し、二対の大業物に伝わっていく。
「ぜぇ……ぜぇ……炎氷絶技」
そうつぶやき。
二対一体の大業物を、見惚れるような動きで振り抜く。
「舞えーー氷竜、炎孔雀」
「……っ」
それら2体の幻獣は、まるで生きているかのようにカク・ズに向かって襲いかかる。
瞬間、ヤンは走り出していた。
これを喰らえば、間違いなくカク・ズは死ぬ。そう思ったら自然と身体が動き出していた。倒れたまま微動だにしない黒鎧の戦士に覆い被さるように、黒髪の少女は倒れた。
その時。
炎孔雀と。
氷竜が。
両断されて霧散し。
そこには、ヘーゼン=ハイムが立っていた。
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